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■檻の中の風景7

最悪だ。
よりによって、もっとも見られたくない相手が通りかかるとは。
赤いコートのハートの騎士は嬉しそうに、
「ユリウスーっ!探したんだぜ!こんなとこにいたんだな」
エースは駆け寄り――当然のことながら立ち止まる。
「え……?」
それはそうだろう。牢獄に入った半裸の上司とそれを背後から苛むジョーカー。
「何、やってんだ?二人して」
さすがに状況がすぐに把握できないのか、珍しく戸惑ったようなエース。
だが哄笑したのはジョーカーのほうだった。
「は……ははははははっ!おいおいおい。面白すぎる展開じゃねえか。
てめえの男の前で、他の男に抱かれるなんざ、どういう趣向だよ!」
「ぐっ……」
内におさまるジョーカーの×××が硬さを増し、打ちつけが速くなる。
「止めろ……頼む、止めてくれ……」
エースの前でこんな姿を晒したくない。身をよじり、必死に懇願するが、そのとき、

「おいおい止めてくれよ――そんな誘うみたいな、そそる声でさ」

「っ!!」
いつの間にか、サーカス服のもう一人のジョーカーが檻の中にいた。
「お、おい!お前、誘われてもいないのに勝手に来るんじゃねえよ!」
「サーカスの方は休憩時間だよ。それにちゃんと誘われたさ……ユリウスにね」
もう展開に頭がついていけない。
だが白い方のジョーカーは無理やりユリウスの脚を開く。
中心部分にエースと、もう一人のジョーカーの視線が集中するのを感じ、堅く目を
閉じるがジョーカーの残酷な声は防げない。彼は心底楽しそうに、
「ねえ、処刑人。君の浮気な恋人は、もう牢獄出る気はないんじゃない?
俺のときも興奮してたし、今だって、こんなに起っちゃってるしさ」
エースの返答は聞こえない。聞きたくない。
「やめろ……エース、見るな、見るな、出て行ってくれ……!」
これ以上の羞恥はない。ここに銃があれば迷い無く己の時計を撃ち抜いている。
しかしどんなに死に物狂いで身をよじっても、背後の屈強な腕が離してはくれない。
「ユリウス……」
感情のないエースの声が胸を突き刺す。顔はもう見る勇気がない。
「いいねえ。悪役に苛められる主人公と助けに来た恋人?
だったら、劇的な再会を盛り上げるために俺達は悪役に徹するべきだよね?」
「っ!!」
二人のジョーカーは視線で示し合わせたらしい。
ユリウスを貫いていた×××が引き抜かれる。痛みと圧迫感が去り、緊張が緩んだのも
一瞬だけ。乱暴に上着を全て脱がされ、そのまま四つん這いの姿勢にさせられた。
そしてユリウスの前に立つ白い方のジョーカーが前をゆるめ、ユリウスの口に己の
×××を無理やりねじこむ。すぐに頭をつかまれ、強く揺さぶられた。
「ん……ん……」
「おい、こっちもまだ終わってねえぞ」
背後から再び貫かれ、律動が再開される。
「ん……ん……」
羞恥と背後からの刺激と口内を満たす圧迫感で涙がにじむ。
生温い液体が唾液とまじり、口の端からこぼれ、吐き気がする。
後ろからは加虐の快感に酔いしれたジョーカーが、
「被害者を気取るのはいいけどよ、おまえもちゃんと起ってるじゃねえか」
「ふふ。ほらジョーカー、もっとゆっくりやりなよ。処刑人によく見えるようにさ」
容赦ない言葉の刃にさらに胸を抉られる。
必死に目を閉じても分かる。
赤いコートの、ハートの騎士の、穏やかなまでに酷薄な視線を。
あれから一言も発さない。
だからこそ怖い。そして――熱くなる。
気が付くと、ユリウスは自分から腰を振り、ジョーカーの×××に出来る限りの技巧を
駆使して舌を這わせていた。快楽でもいいから、恐怖から逃げたい一心だった。
「はあ……はあ……ユリウス、すごく、いい、よ……」
「く……あ……時計屋……」
牢獄の外の赤い騎士を、三者とも意識しながら全く意に介さない。
それぞれ己の快楽を追及し、本能のまま責められ、責め立てる。
「はあ……はあ……」
最初に監獄の所長が達し、ユリウスの中に放つ。
刺激を受け、ユリウスも牢の床に白い液体をだらしなく零した。
最後にジョーカーが口内に放ち、ユリウスはそれを受け止め、喉を上下させた。
「はあ……はあ……はあ……」
前と後ろから解放され、ユリウスは汗と体液で穢れた牢獄の床にだらしなく横たわる。
じわじわと内から湧き上がる羞恥と自己嫌悪でどうにかなりそうだった。
だがジョーカーは早速、楽しそうにエースの反応を窺う。
「どうだった?処刑人、君の恋人が楽しそうに俺たちに抱かれているのを見てさ」
「すっかりイキまくって床に伸びてるよ。もう完全に囚人に成り果てちまってるな」
沈黙があった。ユリウスにとってはどんな時間より長い一時だった。

「うん、久しぶりに元気なユリウスに会えて良かったよ。
誰かに殺されてないか、俺心配だったんだよなー」

しばし沈黙があった。答えられる状況だったとしてもユリウスも同じく沈黙しただろう。
「お、お前、目の前でこいつが別の奴らにヤられて、何とも思わないのか?」
なぜか責めるような言い方をする黒い方のジョーカー。
「えー、俺ジョーカーのことは気に入ってるし、ジョーカーさんの方は仕事仲間
だしなあ……まあ積極的にユリウスを共有したいとまでは思わないけど……」
ようやく(比較的)まともな反応が返ってきた。
「まあいいけどさ。ねえ、処刑人。見ての通り、彼は囚人になっちゃったんだよね。
これからは君専用ってわけに行かないんだよね。出て行ってほしいんだけど」
靴先で顎を持ち上げられ、ユリウスはうめき声を上げる。すぐに靴を離され、また
地面に打ちつけ、さらに声を上げる。
また、しばしの沈黙があった。
「でもさ、ジョーカーさんたちの囚人だけど、俺もお役人なんだぜ?」
「…………まあ、そうだね」
少し嫌そうに返答する白のジョーカー。
「俺はユリウスがここにいるなら、時計塔がなくても別にいいや」
エースの声が少し変わった気がして、ユリウスはかすかに顔を上げる。
あまりにもみじめな自分を見下ろすエースの目。
その瞳はどこまでも空洞で……。

――表の世界ではどれだけの時間が経っていたんだ?

エースがどれだけユリウスを探していたのか。ただでさえ不安定な奴だ。
自分がいなくなったことなど、きっと些細な変化でしかないのだろうが、
些細なことだろうと、この男の淀んだ部分を悪化させた可能性は十分にある。
「せっかく見つけたユリウスがジョーカーさんたちの物になったのは嫌だけど、
俺にも権利は、あるよな?」
そして赤の騎士は、一瞬で監獄の黒の制服に変じた。
彼はジョーカーたちがそれぞれの感情をこめて見る中、牢獄に入ってくる。
汚れきったユリウスを見下ろしエースは笑った。
あの、いつもの爽やかな笑顔で。

「だからさ……俺も混ぜてよ。な?」

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