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■檻の中の風景2

「……っ!!」
カッとなり、身体を突き放そうとする。
だが完全に力押しされる。鉄格子に押し付けられ全く動けない。
やがて満足するまで舌をからめたジョーカーは、糸を引き顔をはなし、
「ふふ。俺は非力な方だけど、君は俺に輪をかけて非力だから助かるよ」
「何が……助かる、だ……くっ!」
力任せに長い髪を引っ張られ、顔をしかめる。
ジョーカーは見せ付けるように、鞭をユリウスの頬にあて、

「分かってる?君はここの囚人になったんだよ?
つまり、所長である俺とジョーカーの玩具になったってことだ」

ジョーカーの言葉の意味が染み込むに連れ、顔が青ざめていく。
「そんな馬鹿なことがあるかっ!私はここの役人で、時計屋で――」
「そう。そして単なるカードの一枚だ。牢獄に入り、表舞台から消えたところで
誰一人気にかけない。代わりなんかいくらでもいる、取るに足らない存在だ」
「……否定はしない。だが、私は時計を修理する役だ。私がいなければ……」
「そうかな?領主クラスの役持ちだって、ここに入ってた時期はあるけど、
その間、世界は普通に回ってただろ?時計屋だって扱いにおいて例外じゃない。
どうにかなるさ」
「だからっ!私は囚人ではないし、牢獄に入るだけの罪も……おい、何をする!」
ジョーカーが服に手をかけはじめたことに慌てて怒鳴る。
「何って、新しく入る囚人の身体検査はお約束だろ?」
悪趣味なからかいの種にされている。だがどうやって逃れればいいのか分からない。
後ろ手にどれだけ必死に動かしても、牢の扉は開く気配もない。
焦るうちに、時計付きのタイが外され、音を立てて床に落ちる、
素早くシャツのボタンが外され、剥き出しになった鎖骨を指先でなぞられ、背筋が寒くなる。
「いい加減にしろ、本当に怒るぞ……」
「どうぞ?逆らえるものなら……ね!」
瞬間、肩に激しい痛みを感じてのけぞる。
鞭をふるわれたのだと気づき、激しい怒りが込みあがる。
「ジョーカーっ!貴様……」
「ふふ。嫌われ者の所長の楽しみなんて囚人イジメくらいのものだからね」
「ふざけるな!私は囚人では――」
「だからさ、それなら早くここを出てみなよ」
言葉につまる。出られるものならとうの昔に出ている。
笑みを浮かべたまま、ジョーカーは片手で鞭をふるった肩口をつかむ。
見る間にシャツに赤い染みが広がり、ユリウスは苦痛のうめきを上げてしまう。
「くう……」
「はは。いい声出すじゃないか……ちょっと、楽しくなってきたかな?」
緋の一眼にうっすらと加虐の光がともる。

「俺は君がお気に入りだから、ペット程度には特別扱いしてあげるつもりだよ?
……だからさ、君も、所長の俺の機嫌取っておいた方が利口だと思うけどな」

言って、鞭で胸の先端のあたりをなぞる。
「……ぅっ!」
しまった、と思ったときには妙な声が出てしまっていた。
「おや。物分かりがいいみたいで助かるな。でも――」
言って懐から何かを取り出す。
それが何か悟って抵抗しようとしたとき、すでにジョーカーは動いていた。
「!!」
足払いをかけられ、鉄格子を滑るようにずり落ち、床に座り込んでしまう。
ジョーカーは素早く足の間に身体を割り込ませ、ユリウスの両手に手錠をかけた。
「くっ……!」
「俺は力がない分、用心深いんだよね。あ。あんまり暴れると手首を傷つけるよ」
両手を頭上にかかげられ、のしかかられる。
そのままジョーカーはユリウスのシャツをはだけさせた。冷気に身が縮む。
「本当にやめろ、ジョーカー……」
「何を?止めていいのかな?」
笑いながら、さらに数回鞭をふるう。
「……つうっ!」
痛みとともに胸の表面がわずかに切れ、うっすらと血がにじみ出る。
ジョーカーは楽しそうに舌をはわせながら、
「ああ、ごめん。君だから手加減はしたつもりなんだけど、
囚人だから罰は与えないといけないんだよね」
「冤罪だ……私は、罪など……」
「裁くのは俺じゃない。冤罪だろうと関係はない。分かってるだろ?」
「何かの間違いだ、私は――」
「いいじゃないか。俺たちは大歓迎だ。ゆっくりしていきなよ」
言って、胸の先端をゆっくりと舌で転がす。
身体がカッと熱くなり、息が荒くなる。


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