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■エースの旅日記

――日記の冒頭文より

親友に、お前は頭が悪すぎるから少しは日記をつけろと言われた。
なので気が向かないがつけることにした。

――次のページ

時計塔の親友に、寝巻きがダサいダサいと言いつづけていたら、
じゃあお前が買って来い、と怒鳴られて追い出された。

そういうわけで、親友に似合う寝巻きを買いに出かけた。

――出発から54時間帯目

度重なる危機を経て、時計塔からようやく出ることが出来た。
途中、35回ほど仕事場に戻ってしまい、
その度にユリウスを押し倒そうとしたら、スパナで頭を強打され、
『そこまで出たいなら窓から出て行け』
と、危うく転落死させられそうになった。
彼は本当に怒りっぽい。きっと仕事のしすぎで疲れているのだろう。
いたわってあげたいと心から思う。

ユリウスをいたわってあげた回数、35回中××回。

――出発から76時間帯目

幾多の困難を乗り越え、ハートの城に到着した。
城内でキャンプをしていたら顔無しのメイドや兵士に注意された。
ガラスのハートが傷ついてつい(以下、褐色の汚れで判読不能)
自分の浅慮を深く反省した。
ユリウスに過労を強いるなんて、俺は部下失格だな。あはは。

――出発から95時間帯目

かろうじて自分の部屋にたどりつく。
しばらくぶりか、妙に自分の部屋を悪趣味に感じる。
とりあえずクローゼットを一通り開けるが、イケてる寝巻きが無い。
それどころか、自分の趣味ではない服ばかり入っている。
不要なので、全て暖炉に放り込んでいたら、突然ペーターさんが入ってきて銃を乱射された。

『何、人の部屋に入ってきて服を燃やしてるんですか!』

そんな馬鹿な。俺は確かに自分の部屋に入ってきたはず。
自分の部屋を間違えるなんてペーターさんも未熟だな。あはは。
応戦して剣を振って、家具を破壊したり重要書類をうっかり暖炉に
放り込んだりしてしまったが、自分の部屋のものだから問題はないよな。
あはははははははははは。

――出発から122時間帯目

めぼしいものがないので城から出ようとしたら謁見室にたどりついた。
お久しぶりです、女王陛下!
え?なぜ、そんなに激怒されているんです?
俺一人、城にいないことがそんなに問題なのですか?
あはは。愛されてるなあ俺。
え?愛してないから仕事しろ?

あはははは。ところで陛下、寝巻きをくれませんか?
俺の親友に着せたくて――なぜドン引きされてるんですか?

仕事はいいから当分顔を見せるなって?
ちょっと陛下、別にあなたの寝巻きを欲しいっていう意味で
言ったんじゃないですよ。女王陛下ー、話は終わってませんよー。

エースの旅日記――出発から143時間帯目

城から出て、街の商店街に行こうとした。
『あんた!また俺らの領土に来たのかよ!!』
城からまっすぐに商店街に行こうとして、何でさらに遠い帽子屋領土まで行き着いて
しまったんだろう。
『いや、そんなこと、俺のほうが聞きてえよ……。
とにかく、正しい道を案内してやるから』
彼は本当に良い人だ。
良い人ついでに寝巻きをくれないか聞いてみる。
『はあ?寝巻き一つでもファミリーの支給だ。
経費とかいろいろ決まり事があるんだよ。まして部外者なんかにやれるか!』
まあ、それなら仕方ないかと思う。
改めて商店街に向かうことにした。
『ちょっと待て!だから、そっちは俺らの領土だ!
おい、ちょっと待てって言ってんだろ!!』

エースの旅日記――出発から184時間帯目

『え?寝巻き?あんた寝巻きが欲しいの?』
門にいた双子君たちは、地面に倒れ、そう言った。
ユリウスにもらった経費を教えると、赤い方の子が目を輝かせた。
『それだけもらえるなら融通してもいいよ〜。でも大人サイズのを一着用意すると
なると、それなりの手間と時間がかかるよ』
『馬鹿ウサギ、ヒヨコのくせにこういうとこは厳しいもんね』
双子君たちはうなずきあう。
うちのペーターさんにも見習わせたい熱心さだ。
『じゃあ寝巻きを盗んで……融通してもらってくるけど、
あんた、絶っっっ対に、そこから動くなよ!!』
『僕らの作業費も込みで請求させてもらうんだからね。
戻ってきたとき、いなかったら許さないからね〜』
双子君たちは子供らしい悪態をつきながら屋敷に入っていく。
あとは待っているだけで自動的に新しい寝巻きが手に入る。
俺は騎士だから、多少の時間待つくらい、苦にもならないね。

――出発から184.159時間帯目

待っているのも退屈なので、軽く散歩に出ることにする。

――出発から207時間帯目

城の商店街にたどりついた。
何か大事なことを忘れている気がするけど、当初の目的地にちゃんとたどり着いた
から良しとしよう。
すると、聞き覚えのある声がした。
『おや……会いたくも無かったが。久しぶりだな』
帽子屋さん!撃ち合いのとき以来だな!何で来たんだ?
『土地交渉の件で少々、な。君は買い物か?』
ああ、そうだよ。実は寝巻を――
そこで俺は財布を落としたことに気づいた。

帽子屋さん、ちょっと金を貸してくれないか?

『……マフィアに借金を申し込む騎士には初めてお目にかかるな』
どうして嫌そうな顔をするんだ?

俺は恋人のため、どうしても寝巻きを買わなきゃいけないんだ!!

どうしたんだ?帽子屋さん。額に手を当てて頭痛をこらえる顔をして。
『…………いや、公然とノロけられても反応に困るな。
だが、今の私は、君を撃つ手間も惜しいほどダルい。いつも、うちの部下が世話に
なっているようだし、君に貸しを作っておくのも悪くないか……』

――出発から257時間帯目

『帽子屋に寝巻きを買ってもらった?
何で、そう自尊心もプライドも矜持もないことが出来るんだっ!』

頭のいい親友は動揺の余り、似たような意味の言葉を連ねてくれる。
買ってもらったのは俺なのに、彼の方が恥ずかしそうに身悶えている。
ベッドでこの表情を再現させよう。
まあ、俺が苦労の末に手に入れた寝巻きなんだ、受け取ってくれよ。
『いや、買ったのは帽子屋だろう……。
ま、まあいい。仕方ないから受け取っておく』
心底から嫌そうに豪華な包装を解いていくユリウス。

あ。

ぴらっぴらのネグリジェ。

そりゃそうか。帽子屋さん、俺の恋人が男だなんて知らないもんな。
あははははは。
でもせっかくだから、それを着てみて――
サイズが合うわけないだろうって?
ユリウスの突っ込みは相変わらず妙な角度だ。
まあ、寝巻きなんてどうせ脱がせるものだし、何だってかまわないよな。

その後、俺がユリウスをいたわってあげた回数(以下、謎のシミで判読不能)


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