続き→ トップへ 短編目次

■忙中閑あり・下

ユリウスは焦る。
「と、とにかく下に降ろせ。ベッド……せめてソファに移動するぞ」
「あはは。俺はここがいいんだ。移動する時間も惜しい気分だし」
言いながら、ユリウスの服をゆるめ、さっそく首筋や胸元に口づける。
「重いだろう、それにこの体勢では……その……」
「ええ?何々?何を言おうとしたんだよ、ユリウス〜」
「そ、その、この体勢だと……何というか、その……」
「ユリウス〜、この体勢だと何なんだよ、言ってみろよーやらしいなあ〜」
――いや、実際に『いやらしいこと』をしている最中だろう。
それに、大の男が男の膝に横座りでいることの方がよほど恥ずかしい。
「その、い、い……入れるときに……その、お前が…やりづらいから、その……」
顔を真っ赤にして何とか言うと、騎士は爆笑した。
「あ、あははははは。ははは。本当に可愛いなあ〜ユリウスは。
普通に言えばいいのに、そこまでどもられると本当に女の子みたいだぜ?」
侮辱的なことを言われ、頭に血がのぼる。
「か、勝手に笑ってろ!止めだ、私は仕事の準備に戻る!」
「おっと、逃がさないぜ?」
悪人よろしく言われ、膝から降りようとしたのを阻まれる。
それどころか、器用に足を持ち上げられ、気が付くと膝の上にまたがるような態勢に
なってしまっている。
「ち、ちょっと待て!だから、すぐそこにあるソファに……」
「ユリウス、頭がいいのに俺が言ったこと忘れるなよ。移動時間も惜しいんだ、俺」
そう言って体に手を這わせはじめる。
「この、馬鹿が……」
これだけ密着していれば、すでに自分の熱も気づかれているだろうし、騎士の笑みに
隠された、どこか余裕のない吐息も感じる。
仕方なく、ユリウスもコートやベストを脱ぎ、足元に落とす。
騎士の上着に手をかけ、ボタンを外していった。
彼も、にやつきながらユリウスのシャツの前を開き、口づけ、空いた手ですでに
膨らみ始めた股間を撫でさすり始める。
「ん…………」
何とか意識をそらそうとするが、最近仕事漬けでご無沙汰だったこともあり、身体は
敏感に反応する。
「何々?何か言いたそうだな。どこがいいんだ?言ってくれればやってやるぜ?」
面白がるように言われても返答出来るはずがない。
手がズボンの中に潜り込み、悪戯をするように扱かれ、声を抑えるだけで精一杯だ。
「ユリウス、ほら、ユリウスも俺のに触ってくれよ」
「お前という奴は……何でいつも……」
露骨に要求され、仕方なくユリウスも騎士のモノに触れる。
余裕な声と裏腹に、騎士の方もすでに先走りをこぼしている状態だった。
何度も抱きしめあい、互いに口づけを交わしながら、確実に互いの熱は高まっていく。
やがてユリウスを抱きかかえてエースが立ち、作業机にユリウスの身体を乗せる。
そのまま一気にユリウスのズボンを膝までずり下げ、やや上気した顔で、
「ユリウス、あれ、頼む……」
言われなくとも分かる。机上に置いてある仕事用の潤滑油を手渡すと、騎士は
性急な仕草でユリウスの後ろに広げた。
すでに限界近くまで熱の高ぶった身体はそれだけでイキそうになる。
騎士は準備を追えたのか、潤滑油を机に叩きつけるように置き、自分の前も緩めると
そのままユリウスの足を抱え、
「――くっ!」
そのまま一気に奥まで貫いた。いい加減慣れても良さそうなのに、この瞬間の痛み
だけはいつまで経っても順応出来ない。
「ユリウス、動くから」
「あ、ああ……」
返事をすると同時に騎士が前後に動き出す。
「……あ……ぅ……」
「はあ……はあ……」
慣らされた身体は少しずつ痛みを押しやっていく。快感が脳を侵食し、ユリウスも
理性を放棄して騎士の動きに合わせて腰を動かす。
何かつかみたくとも机上ではシーツも何もなく、仕方なく騎士の首筋に腕を回した。
互いの距離が近く、限界まで張ったモノが騎士の腹に当たってこすりあわされ、
そのたびに熱をこぼす。否応もなしに突き上げが強くなり、息が荒くなる。
互いの喘ぎしか聞こえない室内はやはり静かで、窓の外は突き抜けるような青空。
そして散発的に聞こえる銃声と悲鳴。
現実を忘れるように快感に意識を集中させる。騎士の突き上げは徐々に激しくなり、
ユリウスも騎士も限界が近い。
互いに目を見交わし、どちらともなく口づけを交わし、
「ユリウス…………」
「ああ…………」
瞬間、ひときわ激しく突かれ、白濁した液がユリウスのモノからとめどなく放たれる。
一呼吸おき、エースもユリウスの中で達した。

外は夜の時間帯に変わった。
銃声はいつしか止み、真の静けさが時計塔を覆う。
ユリウスは灯りもつけず、床に座り半裸の状態のまま騎士の腕にもたれていた。
あれから一言も言葉を交わしていない。
「エース……」
「ん?」
しかし何を言うべきか。
「――――!」
その前に、時計屋の感覚が残像の気配を捉える。
「そろそろ……」
「ああ『来た』のか、わかったぜ」
騎士はうなずき、すぐさま立ち上がる。
ユリウスも腕を引かれ立ち上がると、行為の後始末をし、身なりを整えた。
窓を開けて残り香を追い出し、灯りをつけ、机の上も再度整えると、部下を振り返る。
部下は茶のローブを羽織り、ふところから仮面を取り出すところだった。
「それじゃあ、適当に仕事にかかるからな」
「ああ」
最後に二人は口づけを交わす。
そして仮面をつけ、部下は振り返らずに出て行った。
ユリウスは彼の去った扉をしばらく眺める。

――何とか、今回も殺されなかったようだな。

最初に感じたヒヤリとする感覚。あれは間違いなく殺意だった。
起きるタイミングが、あとわずか遅ければ、後ろから斬られていただろう。
だが知っていてユリウスはエースと会話し、戯れを受け、抱かれた。
自分をいつ殺すか分からない男を部下に持ち、恋人としてつきあい続ける。
これからもこの関係は変わりはしない。変える気もない。

ほどなくして、残像が最初の時計を持ってきた。
ユリウスは時計を受け取ると、すぐに裏蓋を開け、修理を開始する。
数瞬後には、頭は完全に切りかわり、他のことを考えることもなくなる。

愛か友情か惰性か諦念か達観か。
自らの思いを形にすることも放棄して、ユリウスは時計を修理し続ける。
いつか、魅入られた男に殺されるその時まで――。

2/2

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -