続き→ トップへ 短編目次

■小さい時計屋・下

「と、トカゲ……もう……」
「ああ、全部出しなさい。かまわないから」
グレイが一際強く扱き、耐えられたのはそこまでだった。
「ん……んん……っ!!」
頭の中が真っ白に染まり、ユリウスは身体を痙攣させ、グレイの手の中で果てた。
グレイはニヤニヤと、
「いつもより早いな。子供だからか?」
「う、うるさい……」
真っ赤になって睨む。
そこで、ユリウスはグレイの動きに気づいた。
グレイは体を起こし、ベルトをゆるめている。
「お、おいトカゲ……まさか……」
どこか黒いものを含んだ笑顔が返ってきた。
「時計屋、お前のせいだぞ……お前が可愛すぎるから、俺も止まらなくなった」
「ちょ、ちょっと待て!本当に危険な行為なんだ、最悪、失血死――」
「ああ、分かってる。だから俺が暴走しないよう――満足させてくれよ」
言って、すでに十分大きくなったソレをユリウスに突きつける。
先に達して、多少熱が引いたユリウスはげんなりした。
「……お前、私を愛していると言わなかったか?」
「むろんだ。だが両者とも満足してこそ末永く良い関係が続けられるというものだ」
「…………」
詭弁にツッコむ気力もない。というよりも、末永いどころか近いうちに別れるつもりで
あり、それを何度か伝えたはずなのだが……。
まあ今言っても悪い方向にしか行かないだろう。
ユリウスは仕方なく、いつも以上に大きく見えるソレをそっとつかみ、口内に入れた。
――う……っ……
必死にくわえこんでも全部は行かない。仕方なく先端部に舌を絡め、手で扱く。
「ん……ぁ……はぁ……」
だがグレイの反応は率直だった。
「ああ……本当に犯罪者になった気分だ」
頭をつかまれ、押し付けられる。
すぐに口の端から先走りの汁がだらだらこぼれ、ユリウスの体を伝う。
元々グレイの方も熱くなっていたこともあり、あまり長くはもちそうにない。
ユリウスは懸命に手を動かし、舌で絡めて行く。
押し付けられる手の力が強くなり、応えるべく少し甘噛みし刺激を促す。
グレイの方はそれで限界だったようだ。
「ん……時計屋……」
だが達するかと思われた口内のものが引き抜かれる。
瞬間、ユリウスは身体を持ち上げられ、うつぶせにさせられた。
ユリウスは青ざめた。
「おいグレイ……本当に危険で……」
「ああ、万が一のことがあったら俺がつきっきりで看病するから安心してくれ」
安心出来る要素が何一つない。
だが反論する前に、グレイは懐から瓶を取り出し、中身を指に絡める。
――おい、まさかそれ、事前に準備していて……
「あ……ぁ……や……っ!」
問いただす前に最初の指を後ろに入れられ、声が漏れる。
「時計屋、頼む、そんな声を出さないでくれ、もっと苛めたくなる……」
「む、無茶なことを言うな……あ……やだ……ぁ……」
指を増やされ、鈍痛に背を仰け反らせる。だが、
「また良くなってきたようだな。前が張ってきているぞ」
「やめ……触るな……ぁ……ぁ……」
再び起ちあがったモノをいじられ、先端を親指で絶え間なく刺激される。
後ろの指はゆっくりと内壁を探り、二重の刺激でユリウスは強すぎる快楽にのたうち
回った。グレイは後ろから抱きしめたまま悪戯の手を止めない。
ほどなくしてユリウスは二度目の精をベッドに放ってしまった。
グレイはそれを指ですくい、後ろに塗りつけながら、さらにユリウスに足を開かせる。
「そろそろいいか……」
「よく……あるか……ダメだ……トカゲ……」
だが後ろに押し当てられたものも最早限界寸前だったようだ。
押し当てられた生ぬるい液体が後ろを落ち、足を伝う。
「時計屋……時計屋……っ」
瞬間、鈍痛と圧迫感。ユリウスは耐えきれずに悲鳴を上げ、シーツをつかんだ。
「もっと力を抜け……いくぞ……」
言ってグレイは動き出す。だが激情にありながらユリウスを気遣っているのだろう。
動きは緩慢で、グレイが慎重に慣らしていたこともあり、想像していたより痛みの
引きは早かった。
「はあ……はあ……狭くて…熱いな……溶けてしまいそうだ……」
「う……やめ……ぁ……ぁ……」
抜き差しに合わせ、ユリウスはのけぞる。だが声には次第に艶が混じり始めていた。
「そんな声を出して……大人を誘うなんて、いけない子だ……」
「私は……子供では……あ……や……」
グレイの大きな手が再びユリウスの前を弄りだし、萎えていたものが再燃する。
「ゃ……ぁ……ああ……」
気がつくと自分も動きに合わせ腰をふっていた。抉るような圧迫が快楽に変換され、
貪欲にグレイを奥へと誘い込む。グレイ自身の先走りも入り口からあふれていた。
「はあ……あ……時計屋……もう……ダメだ……」
「と、トカゲ……」
抱き潰す気かと思うほどグレイがユリウスの身体を強く強く両腕の内に入れる。
「時計屋……愛してる……」
そして、一際強く打ち付け、グレイはユリウスの中に精を吐き出した。
刺激でユリウスも再度達し、声を上げる。そしてそのままシーツの中に倒れ込んだ。
グレイは、ユリウスの身体を撫でながらゆっくりと己のモノを引き抜いた。
ドロリとしたものがこぼれ、ユリウスと寝具を汚していく。
ユリウスはぐったりとしながらグレイをにらみつけた。
「弄ぶつもりが、自分が溺れたようだな、性犯罪者」
「ああ、子供を相手にする趣味はないと思っていたが、これはこれで背徳的でいいな」
――こいつ、私と別れた後、変な趣向に走らないだろうな……
一抹の不安を感じる。
「馬鹿なことを考えるな、お前だからだよ」
お見通しとばかりに言われ優しくキスをされる。
そして、またいとおしげに抱きしめられる。
今度は欲情のからまない親愛の抱擁だった。
「可愛い……癒やしだ……」
言っていることが最初に戻ったことに深くため息をついた。
汗ばんだシャツに顔を押し付けられると煙草の匂いがした。
その匂いにどこか安心感を覚え、ユリウスはそのまま眠りに落ちた。

目が覚めると窓の外は夜の時間帯に変わっていた。
グレイの姿はすでになく、ユリウスは布団をかけられ、寝ていた。
ご丁寧に汚れたシーツは取り替えられ(しかも洗濯のため持っていったようだ)、
体はきれいに拭かれ、服も着がえさせられていた。オマケに窓を開けて換気済み、
枕元にサンドイッチの軽食まで用意されているという気の利きようだ。
これで点数を稼ごうという下心は無く、自然な気遣いとしてやっているのだから恐ろしい。
この世界では珍種中の珍種だ。だがユリウスは申し訳なくも思う。
――私などに優しくするのは間違っているだろう。
彼の好意に応えることはありえない。彼の弱さも荒さも包み込む異性。彼が思う存分
甘やかせる、可愛らしい女性こそが彼に尽くされるにふさわしいだろうに。
切なく息を吐いて、忘れるように時間を進めてみる。

――え?
見る間に時間が進み、いつものユリウスに戻った。
一時間帯寝ていただけかと思ったが、どうやら相当眠っていたらしい。
そういえば夢魔とも会わなかったし、よほど熟睡していたのだろう。
ベッドから作業机を見下ろすと、残像が持ってきたらしい修理待ちの時計が山積みに
なっていた。ユリウスは目まいを感じたが、すぐ頭が時計屋仕様に切り替わる。
ユリウスはグレイの用意してくれたサンドイッチを食べ、身支度を整えた。
そしてベッドから降りると道具を準備し、眼鏡をかけ、いつもの席に座った。
見慣れた空間、いつもの仕事、単調に流れる時計の音。
一個目の時計を分解しながら、ユリウスは疲れが完全に失せているのを感じた。
どうやら休息を取ったことで心身が回復したらしい。
――トカゲがしてくれたから……か?
馬鹿馬鹿しいことを考えかけ、慌てて首を振る。
ユリウスは時計の修理に専心する。
ほどなく雑念は取り払われ、ユリウスの頭に時計以外の思考は無くなった。

こうして時計塔の短い非日常は終わった。

3/3

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -