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■恋と時計と友情と

 ※エースに関する、ある設定を盛大に無視しています<(_ _)>

 ※R18

 自分、エース、アリス。
 三人の関係が気に入っていた。

 時計塔に部下が来る。少女も来る。
 いつの間にか少女は勝手にキッチンを占拠し、気がつけば
ピクニックセットが出来ている。
 二人に引きずられ渋々草原に出かければ、広げられるシート、並べられるランチ。
 散策に出れば、騎士が見当違いの方向に行き、熊に襲われるアクシデント。
 雑談は途切れることなく続き、やっぱり道に迷ってテントに泊まる。
 少女に引きずられるようにして始まった、三人の奇妙な時間帯。 
 うっとうしいときもあったが、気がつけば以前ほど嫌ではなくなっていた。
 こんな時間が、ずっと続けばと思っていた。

 だから、奴がなぜ突然、あんなことをしでかしたのかは分からない。

 そう。ハートの国の今になって、なぜ突然……。

 …………

 眠い。寒くもなく暖かくもない、静かな昼のことだった。
 時計屋ユリウスは作業台にもたれ、うとうとと仕事のない時間帯を過ごしていた。
 少し強くなり始めた風が、かすかに窓を揺らしている。
「ユリウス〜」
 背中から抱きつく馬鹿は気にしない。
「なあなあ。構ってくれよ、ユリウスー!」
 作業台にかじりついてでも相手をしたくない。
 今は眠い。そしてちょうど仕事が入っていない。
 この僥倖(ぎょうこう)を、こんな馬鹿との時間帯に使うなど愚の骨頂だろう。
「ユリウス……犯していい?」
「いいわけがあるか!!」
 振り返りざま、怒鳴りつけた。
「あ、やっと相手をしてくれた!」
 緋色の瞳が嬉しげに輝く。
「ユリウス、そういうわけで××しようぜ!!」
「するか!!」
 絡みつく腕をはらい、怒鳴りつけた。すると馬鹿騎士は口をとがらせ、
「えー。いいだろう? 恋人同士なんだし」
「いいわけがあるか。今は昼の時間帯なんだぞ?」
「だから? どうせ客なんか来ないだろ?
 来ても追い返せばいいじゃないか」
「あいつが、来るかもしれないだろう」
 するとエースも黙り込む。

 あいつとは、余所者の少女のことだ。
 長い髪に可愛らしい瞳、大人びた性格には、やや不似合いなエプロンドレス。
 それでも彼女は短期間のうちにこの世界の多くの役持ちを虜にしていた。
 時計屋とハートの騎士という、交友関係の狭い者たちにさえ、彼女は
排除できない地位を確立している。

 余所者の少女、アリス=リデル。

「でもさー、ユリウス」
「その、あいつが来て……その、見られたら……」
 しつこいエースに渋々キスをし、ユリウスはどもった。
 すると、しばらく沈黙がある。
「そうだよな。俺たちの仲にアリスを加えるって作戦が台無しだ」
「勝手に作戦を立てるな!!」
 エースの冗談はともかく、アリスに自分たちの仲を教えるつもりはない。
 疑わせるようなことも言語道断だ。

 ユリウスとエースは『そういう』関係だ。
 アリスがこの世界に迷い込むよりずっと前から。
 彼女は二人の間のわだかまりを知ってなお、受け入れてくれた。
 だからこそ、今のままでいてほしい。
「あいつに知られたら、困るだろう?」
「えー。困ることなんてあるのか? 俺はアリスが好きだぜ?
 なあ、そろそろアリスに話そうぜ。で、アリスにも混ざってもらおう!」
「…………」
 思いがけない言葉にユリウスは絶句する。
 堂々と少女を仲間に入れようとほざいたエースは、真顔だった。
 風がまた窓を揺らした。

 エースはハートの騎士であり、本来の役に背いて時計屋の部下になった。
 そこに至るまでの道のりは、あまりに複雑な因果の糸が絡んでいる。
 とはいえ、よりによって『最初の』騎士と、しがない末端の軸の自分が
恋人同士になろうなど。
 時計屋の役を与えられてから幾万時間帯、思いも寄らないことだった。

「おまえ……頭がおかしいのか?」
 質問というより、事実を確認するための問いだった。
「え? 何が? 俺たちはどっちもアリスが好き。
 アリスも俺たちが好き。問題ないだろう?」
「………………」
 ユリウスには決して飛び越せない溝を、一瞬で飛び越えた騎士が語る。
「いや、問題が大ありだろう。アリスだって困るし、私たちだって……」
「? 何が大ありなんだ?」
 分かってて言っているのか、真実、理解出来ないのか。
 真意をはかりかね、ユリウスはエースを凝視した。
「あ。隙あり」 
「は?――っ!!」
 キスをされた。とっさにユリウスはエースを突き飛ばし、
「何をする!」
「何をするって、だから隙があったから、つい――ん?」
 エースの言葉が止まる。抗議が来るかと構えていたユリウスは不審に思い、
エースの視線を追って振り向く。

「あ……」

 件の少女、アリス=リデルが目を丸くして立っていた。

「アリス! い、いや、今のは……その……」
 角度から言って、見えていないかもと期待したが、
「え? ええと、あ、あなたたち、い、今、き、キス……」
 希望は一片も残さず打ち砕かれた。
 見られた。男同士の口づけを。
 言い訳しようもないほど完璧に見られていた。
「あ……い、いや、その、ち、ち、違うんだ、アリス」
 狼狽しきったユリウスはオロオロと言い訳をした。
「とにかく今のは違う、誤解なんだ……!」
 だが、

「やあアリス。見られちゃったみたいだな」
 馬鹿騎士がとんでもないことを言った。
 笑顔だ。フォローに加わる気がない。
 奴はユリウスから手を離して立ち上がり、心なしか怯えた顔の少女に近づいた。
「そういうわけで。俺たちは男だけど恋人同士だ」
「エースっ!!」
 絶望に怒鳴るが、
「でも、やっぱり男同士だけじゃ不毛だしな。女の子がいないと」
 チラッとユリウスを見る。
「――――っ!」
 ユリウスの中にカッと怒りがこみ上げる。
 ――何だ、何なんだ?
 確かにアリスは特別だ。だからといって関係をオープンにする気は……。
「ええと、その、わ、私は……」
 アリスはまだ整理がつかないのか、オタオタとエースを見上げている。
 そしてエースは。
「なあ。アリスも混ざっちゃえよ。ユリウスのって、意外と××××なんだぜ?
 君も男二人に慣れちゃえば、もう普通の奴とは満足出来な――」
「……っ!!」
 限界だった。

 エースを殴りつけようとし、奴が軽々とかわしたことまでは覚えている。
 怒鳴った気もする。
 驚いた少女が部屋を飛びだした気も。
 そして何をどう怒鳴ったか不明なまま記憶は途切れ、気がつくと室内は
乱雑に散らかり、誰もいなくなっていた。
 風だけが、ユリウスの気持ちに呼応するように強く吹いていた。

 …………

 …………

 ユリウスは流れる川面を見ながらためいきをつく。
 普段は穏やかな川面も、今は強風を受けて波立っている。
 考えるのはエースのことだけだ。
 何だ。
 何なんだ。
 どうにかして言い訳すればいいのに、なぜアリスにおおやけにする。
 なぜあの男は、いつも波風を立てたがるのか。
 今のこの風のように。
 だが、それ以上に奥深くを突き刺すのは、アリスに見られたことだ。
 変態と思われただろうか、気色悪いと思われただろうか。

 ……もう、時計塔には来てもらえないだろうか。

 頭を抱え、ため息を吐いた。
 だが、ユリウスの肩に手を置く者は誰もおらず、ユリウスはただ孤独に取り残される。
「……帰らないと」
 夕暮れの森に風がふく。
 時計塔に帰還せざるを得ない現実を受け入れるしかなかった。
 ユリウスは一人で時計塔に帰還した。
 騎士も余所者の少女もいなかった。
 いや他の存在はいた。

「よう、時計屋」

 失意に沈んでいて、対処が一瞬だけ遅れた。
 銃弾が発射されるには、十分すぎる時間だった。

「ユリウス!!」

 倒れる寸前、聞き慣れた声が飛び込んできた気がした。

 …………

 風の音がする。そして泣き声が。
 誰かが手を握りしめている。温かい手だ。
 守ってやりたいと思わせる、頼りない手。
 涙に濡れた、小さな手。
 言わないと。これだけは、絶対に言わないと。
 ユリウスは目を開き、自分の胸に顔を伏せ、泣き続ける少女に言った。
「エースの、あの馬鹿の言ったことは……真に受けないで、くれ……」
「何言ってるのよ、馬鹿っ!!」
 余所者の少女に殴られた……。

 …………

 ユリウスは全身を包帯で巻かれ、無理やりソファに寝かされていた。
 といっても傷の度合いは思ったより軽く、数時間帯で元に戻りそうだった。
 そしてかたわらには、
「はい、ユリウス。あーん」
「…………アリス。自分で食べられる」
「あーん」
 ……無言の脅しというものを身を持って知る。
 ユリウスは降伏し、口を開けた。
 アリスはニッコリと邪悪……もとい勝利の笑みをもらし、二杯目をスプーンですくった。
「もういい。あとは自分で……」
「看病させてよ。私が戻ってきたから命拾いしたようなものでしょう?
 あともう少し銃弾がずれていたら、本当に終わってたのよ?」
 かなりゾッとすることを、三月ウサギを追い払った少女が言う。 
 ユリウスはため息をつくしかなかった。

 …………

 もしかして見なかったことにしてくれたのでは、という希望は
時間帯が少し経過し、傷が治った頃に消された。

「ねえ、どういうことなの? あのときのエースとあなたのこと……聞いて良い?」

「ダメだ。聞かなくてもいいだろう」
「いいえ。聞く権利があるわ。私、エースにセクハラ発言までされたんだから」
 意味が全く通っていない。しかも『聞いて良い?』と言いながら、
『聞く権利がある』と来たものだ。
 声も少し怒っている。
「別にいいだろう。あいつとはもう別れるつもりだ」
「……!」
 アリスは二重にショックを受けた顔だった。
「どうして!? 何で? 私のせい……!?」
 関係がないのに自分のせいだと思うあたりが、この少女だ。
「おまえのせいじゃない。あいつが理解出来ないからだ」
「う、うん。確かに理解は出来ないけど……でもね、ユリウス。
 私、以前から、もしかしてあなたたち二人は――と思ってたわ」
「な……っ!」
 今度はアリスに対して絶句する番だった。

 ハートの国に来た余所者。
 余所者を交えた、時計塔三人組の奇妙な友情。
 ずっと、その関係が続くのだと思っていた。
 それを何の合意もなくエースが破った。

「あいつは何を考えているんだ」
 強くなる一方の強風。窓の外を睨み、ユリウスは毒づく。
 ――やはり『最初』の奴だ。
 馬鹿を理解しようなど、出来るわけがない。
 内心の混迷も歪みの度合いも、『他』とは群を抜いている。
 理解できるものではない。ならさっさと縁を切った方がいい。
「何をと言われても――エースは不安で仕方ないように見えたけど」
 アリスがあっさりと言った。
「不安? 馬鹿なことを言うな。あのエースだぞ」
「あのエースだからよ」
 少女は首を傾げた。『何で分からないのかしら』と言った顔だった。
 しかもだんだんとイライラしてきているらしい。
「ユリウス。エースを一緒に捜しましょう。もう動けるわよね?」
 アリスがきっぱりと言った。
 さっきのかいがいしく世話を焼いてきた様子とは正反対だ。
「はあ? 何でこんな時期にあいつを捜すんだ?」
 理解が出来ず、余所者の少女を見る。
 心臓を持たない自分たちに理解できず、余所者の彼女にだけ理解できることがあるのだろうか。

「いいから! エースを捜すのよ!!」

 アリスが怒鳴った。
 
 …………

 そこは、いつもピクニックに使う草原。
 人っ子一人いないこの場所で、エースは倒木の椅子に座り、ぼんやりと空を見上げていた。
 一人近づいてきたユリウスに気づいたのか、エースはつぶやいた。
「いつかは『変わる』ものだろう? 何もかも。
 軸を越えて時計は巡る。だからさ……」
「小難しいことを言っている風だが、要は隠しておくのが面倒くさくなった。
 そうなのか? そうなんだろう?」
 腕組みをし、威圧を込めて言い放つと、エースが振り返る。
「うーん。それでもいいけど。ユリウスが言うならそうなのかな?
 そうかもしれないな。あはははは」
 でもあんなに怒るとは思わなかった、とエースは力なく笑う。
 その笑いを見て、ユリウスも気づいた。

 あのピクニックを永遠に続けていたかったのは誰なのか。
 いつまでも変わらないでいてほしいと願っていたのは誰なのか。

 痴話喧嘩ですら無い。深く深くため息をつく。
 いつか壊れることが不安で、先に壊してしまえと思ったのか。
 やはり馬鹿は馬鹿だ。

「ユリウス……」

 後ろではアリスが急かすように声を出す。
 彼女の瞳に迷いはない。
 強い少女だと思う。
 彼女は親友だ。今も、二人の親友でありたいと願ってくれている。
 アリスの存在は欠くことが出来ないと思うほど強く、二人の中に根を下ろしていた。
 エースが、不安にかられ壊したいと思うほどに、強く。

「エース……」
 呼びかけるとハートの騎士が振り向く。
 そしてユリウスの時計がこれ以上になく高鳴る。
 この男が好きだ。
 そしてアリスも。

 永遠にはなれないかもしれない。あまりにも脆い関係だ。
 でも、最初から否定して何になる。
『自分たち』はあきらめない。
 道化も卵も笑い飛ばす。

「寂しい思いをさせてすまなかった」
 抱きしめ、エースの唇に唇を重ねる。
 アリスが後ろで微笑んでいるのが分かった。
 ――恥ずかしいな。
 嬉しそうに笑うエースに、どんな言葉をかければいいのか。
 アリスにどう礼を言えばいいのか。
「!!」
 そのとき、ひときわ強い風が吹いた。

 折からの強風は予兆。
『嵐』の到来の瞬間だった。

 …………

 妙な夢を見た。
 全く隠さず、思ったままを怒鳴っている自分がいた。

「この馬鹿!! いいからもっと責めろ! 
 こんなのじゃ……全然、足りな……あ、ああ……っ!」
 足を開き、汗を散らしシーツを握りしめ、激しく求める。
「ユリウス、待てよ。ちょっと反応激しすぎじゃ……!……ん……っ」
 いつもは煽る側の騎士が、なぜだか引き気味だった。
「ん……んう……あ……もっと……エース……!……」
 何がどういう経過でこうなったか覚えていない。
 とにかく騎士を直情的に口説き、行為をねだった。
 少女はすでに引いて、帰ってしまった気もする。
 覚えている限りの場所で愛し合った。時計塔の入り口、階段、
途中の空き部屋、部屋の入り口で交わった。
 どうせ『嵐』の最中に来客などない。
 だからどんな場所でも遠慮なく互いに衣服を脱ぎ、好きなだけ愛し合った。
 さすがの騎士も求められすぎ、少し疲労気味ではあったが、
「ずるいぜ……ユリウス……そんな顔をされると……」
 欲求に応じるように、徐々に責めが激しくなる。
 ありあまっているだろう体力で、最奥に何度も全身を打ち込まれ、
何度も放たれたそこは早くも限界を訴えていた。
「ユリウス……ん……」
「……エース…………――……」
 十分すぎるほど硬くなった××を強く握られ、
「ん……あ……――っ!!……!」
 腹にかけられた白濁した液を見、エースは少し呆然とし、
「ユリウス、またイッたとか? いやあ……」
 また鎌首をもたげ始めている××を見、エースはどういう内心
なのか天井を仰いだ。
「いつもこうだっただなあ……」
「何を言っているんだ、エース……もっと……まだ、おまえが……」
 股間の××はまた反応を始めていた。
 重なる肌が離れるのが惜しい。もっと騎士が欲しい。
 騎士と視線を交わし、唇をまた重ねる。
 エースはこちらの短い髪を撫で、
「はは、なら全力でいじめてやるから、ついてこいよ……」
「構わないさ。まだ、『嵐』は終わらない……んだ……」
 剣呑に笑う。
 ソファのカバーも床もテーブルも、あちこちを白濁した液で汚され、
当分は誰も出入りすることが出来ないだろう。
 だが後のことを思うより、ユリウスはひたすら目の前の男に集中した。
 温かいものが内で迸るのを感じ、至福の思いに満たされていた。

 …………

「やっぱり、知らないままでいた方が良かったわ」
 草原でサンドイッチをかじるアリスは、能面のような顔をしている。
「いやアリスも悪いぜ。喧嘩した二人が仲直りした。
 ああなる展開は必然だろう? どっちも男なんだし」
「そうね。ピュアな恋愛を期待した私が馬鹿だったわ。
 あんな……あんな……おぞましい……」
 ガクガクと身を震わせるアリス。
「何の話だ? 『嵐』が来たときに何かあったのか?」
 ハムサンドをかじりながら、ユリウスは二人に聞いた。
『…………』
 二人はそっとユリウスから目をそらす。
 そういえばアリスは、『嵐』の最中に自分たちのことが心配で
時計塔に一度来たらしい。
 ……その後は『嵐』が終わるまで二度と来ることはなかったそうだが。
 ちなみに今回は割と早く汚れが巻き戻ったため、ユリウスが
目覚めたとき時計塔はもうきれいな状態だった。
「アリス。寂しいなら、やっぱり加わる? 君なら大歓迎だぜ?」
 馴れ馴れしくアリスの肩に手を回すエース。
「遠慮します!!」
「エース。やめろ、セクハラだぞ」
 ユリウスは静かにエースをたしなめる。
「うんうん。俺はユリウス一筋だからな」
 すかさず抱きついてくるエース。
「よせ、人前でベタベタするな」
「アリスは別だろ? 俺たちの親友なんだから」
「あ、あはは。えーと、私、おじゃまかしら?」
『まさか!』
 二人の声がそろい、一瞬だけ沈黙があり、三人は苦笑し会った。
 やはりアリスがいないとダメだ。
 
 
 草原では余所者の少女がくつろいでいる。
 ハートの騎士は恋人の膝を枕にまどろみ、時計屋は少女の淹れた
珈琲を飲む。
「このままずっと三人でいたいわね」
 未だに帽子屋屋敷に、想い人を持たぬ少女は言う。
 彼女がいつか時計塔に来ることは、奇妙な友情を持続させることに
なるのだろうか。かえって破綻させることにならないだろうか。
 だが不安にばかり思っていても始まらない。
 信じることから始まる絆だって、あるはずだ。

「願うんじゃない。いようと思うんだ」

 エースの頭を撫でながらユリウスが言う。
 アリスが嬉しそうに笑い、そっと寄り添った。
「エースもユリウスも大好き。私たち、ずっと一緒だからね」
「ああ」
 力強く答える。
 どこかで小瓶が割れた音が気がした。
 気のせいかもしれない。
 少女は気づいた様子もなく微笑んでいる。
 誰よりも不安定な男は安心しきった顔でまどろんでいる。

 ユリウスはそっと彼に口づける。
 アリスの額にも。親愛をこめて。
「大好き」 
 草原には優しい風が吹いている。
 嵐が去り、いずれ引っ越しが訪れるのだろう。
 だが、もう決して離れない。

 永遠は、これから始まる。


 
……………………
リク内容:エスユリ(内容指定)

終わってみると、ちょっとご指定と違ってしまった気もします(( ;゚д゚))アワワワワ
遅れましたこと深くお詫び申し上げます<(_ _)>

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