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■狂った牢獄と爬虫類

 ※R18

 ※補佐官殿がちょっと壊れてます


 クローバーの塔は宵闇に包まれている。
 塔の広大な資料室にいるのが二人きりなら、それを知る者も他にはいない。
 その明かりのない資料室の奥深い一角で、夢魔は補佐官に激昂していた。
「止めろ。グレイ……!」
 もがき、両手首の戒めを解こうと必死にもがく。
 だが、補佐官は夢魔ごときの抵抗を、抵抗とも認識しない様子で、片手のみで
夢魔の両手首を押さえていた。
「吐く……本当に血を吐くから……!」
「お好きにどうぞ」
 昼間の忠実さが信じられない、冷ややかな声だった。
 悪夢を統べる王はギリッと歯噛みをする。
 そんな彼を見下ろし、部下は冷酷な笑みを浮かべた。
「さて本日の薬は『上』と『下』、どちらに入れていただきたいですか?」
 血を吐きたくとも吐けない。
 今のナイトメアは以前より丈夫になっていた。
 その理由が分かりすぎるほど分かるだけに、ナイトメアはこう言う。
「グレイ。おまえ、最初から『こうなること』が目的だったのか?
 私の健康を気遣ってくれたわけではなかったのか?」
「もちろん、あなたのためですよ。そして俺のためでもある」
 覆い被さるように口づけながらトカゲは笑う。

 ああ、そうだと、ナイトメアは思う。
 最初の出会いからして、暗殺する側とされる側だった。
 得体の知れない男は、まだ全ての感情を読ませない。
 その劣情も、寸前まで隠していた。

 最初は薬だったと思う。
 グレイに押さえつけられ、無理やり薬を飲まされる。
 いつものパターンだ。
 グレイは困っていたようだ。
 夢魔たる自分は能力を駆使し、すぐに逃げ出すから。
 奴はどうしたものかと考えた。悩みに悩んだらしい。
 そして、あるまじき思考に至る。

 薬に混ぜものをすればいい。
 少し眠らせ、その間に点滴や休養など集中治療を行う。
 強制的な眠りなら、夢魔も自由に動けない。

 元暗殺者には、その手の調合は容易なことだった。
 医学的倫理的に問題がありすぎる方法だ。
 しかしナイトメアの病は、元々薬が嫌で悪化させているものだ。
 グレイは作戦を実行に移した。
 ナイトメアの深い眠りは、劇的な効果をもたらした。
 たちまちナイトメアは血を吐かなくなり、不調の訴えが減った。

 そこで終わっていれば良かったのに。 

 そのうちナイトメアは違和感を覚えるようになった。
 身体が治ってきたのは、屈辱ながら認めよう。
 だがおかしい。
 身体に妙な傷跡が増えた。あまりにもダルすぎる。
 下半身に残る妙な痛み。ときに激痛。
 自分がいつも飲まされている薬は、本当に普通の薬なのかと疑うようになった。

 違和感の正体は、トカゲに無理やり押し倒されたとき、判明した。
 動けない間、身体を弄ばれていた。
 気がつき、責めたとたんにトカゲは開き直る。
 それから、身体の関係を結ばされている。
 関係の無意味さを訴えても、塔からの放逐をほのめかしても、トカゲが
耳を傾けることはなかった。
 どのみち、『役』に解雇はない。
 自分から役を返上しない限り、ゲームからは降りられないのだ。


「グレイ、こんなところ、誰か、来たら……」
 資料室の冷たい棚が背に痛い。
 ズボンを下ろさせ、下半身を舌で弄ぶ補佐官の髪をつかみ、必死に正気に戻るよう訴える。 
 だが彼は冷たく、
「それが何か? 俺とあなたはこの塔にただ二人の役持ち。
 口止めすれば誰も逆らえないでしょう。
 まあ耐えきれないとお思いなら、俺が即刻――」
 斬ればいい、とためらいなく匂わせる。
「冗談じゃない! そんな……ん……」
 とりわけ強く吸われ、ビクッと身体が震える。
 爬虫類は優しい声で続けた。
「ほら、ナイトメア様。良い子ですから。服を脱いで……」
 ナイトメアは実質的な命令に右の目を見開く。
「お、おい、グレイ。まさかここで……!?」
 警備の者もいずれ巡回に来る。
 なのに全て脱がせてここでコトに及ぼうというのか。
「今宵の警備の者は……不運ですね……」
 口止めするのか? いや、消す気だ。
 ナイトメアには、自分たちの情事を知るものが存在することが耐えられない。
 それをグレイは十分すぎるほど知っている。
「い、イヤだ。絶対に……もし本当にそんなことをしたら……」
「どうすると? 今更、あなたが私無しで耐えられるんですか? 
 どこかの軸にいる『あなた』を失った『私』を探しあて、時計が回るのを待ち、
どうにか思いを伝え、身体をつなげる。
 そこまで、待てますか? そしてつながったところで、『私』ではないというのに」
「…………」
 力や権力による脅迫が通じない。
 実際、関係を抜きにしてもグレイという有能な護衛無しで、この先の
長い長い時間を乗り越えるのは不可能だ。
 ここで吐血するか気絶出来たらと思うのに、それも叶わない。
 ついにナイトメアは、
「分かった。グレイ。何でも言うことを聞くから……ここだけは勘弁してくれ。
 おまえの部屋に移ろう」
「それは結構。では行きましょうか。
 ちょうど、あなたに使用したいと思った『道具』が届いたところだ」
 暗闇の中、光るはずのない爬虫類の目が、愉悦に輝いた気がした。

 …………
  
 ナイトメアはフラフラと昼の街にさまよい出る。
 夢魔を目にした人々はザッと左右に分かれ、ヒソヒソと噂話を始める。
 だが、夢魔はいつものように超然とした態度をとる余裕もなかった。
 あてもなく街をさまよい、人の目が無くなった頃、どうにか路地に入り、
唇を噛みしめ、うつむく。
 雨の降らない地面に、涙の滴がいくつもこぼれ落ちた。
 塔では常にグレイに監視され、他に泣ける場所はなかった。
 いったい、最強である夢魔がなぜ、こんな恥辱に耐えねばならないのだろう。
 いつまでこんな責め苦が続くのだろうか。
 それならいっそ、グレイを……。
 夢魔の力を使えばきっと可能なのだろうが。

 ――出来ない。

 死の間際の奴の表情が目に浮かぶようだ。
 どうせあなたもすぐ後を追ってくるだろうと。
 私がいない世界に耐えられはしないだろうと、笑っているのだろう。
 
「!!」

 そのとき誰かに肩をグイっとつかまれた。

 完全に油断していた。だが夢魔に手を出したのが運の尽きだ。
 どんな悪夢を見せてやろうかとナイトメアは八つ当たり気味に振り向いた。
「久しぶりだな、芋虫」
「……っ! 帽子屋」
 意外な人物に警戒より驚きが声に出た。
「風の噂に病状が快方に向かったとあったが――まずはお祝いを表させてもらおう」
 ブラッド=デュプレはそう言うなり、夢魔の手を握り……抵抗する間もなく、唇を重ねてきた。

「……!? お、おまえ……なにを……」
 目を見開くが、マフィアのボスは顎に手をかけ、続けて唇を落としてくる。
「ん……」
 入り込む舌が気色悪い。グレイ以外の男のキスはえらく苦かった。
「な、何なんだ……ついに本当に気が狂ったのか!?」
 だがマッド・ハッターはわざとらしく肩を落とし、
「その顔といい、目つきといい、男を誘っているようにしか見えなかったからな」
「は……はあ?」
 言っている意味が全く分からない。
 今まで自分に気がある様子など無かったし、もちろん告白を受けた覚えもない。
 しかしイカレ帽子屋の仄暗い眼光は、自分を見据えて話さなかった。
「健康体になった、という噂の割にずいぶんと顔色が悪いようだ。
 良ければ我が屋敷に招かせていただきたいのだが……」
「じ、冗談じゃない。誰がおまえなんかに――!!」
 言いかけたとき、ガクッと膝が折れた。
 ――……!
 倒れかけたところを帽子屋に支えられた。
 だが礼を言う気になれない。
 自分の力の抜け具合が不自然だ。
 さっきキスされたとき、妙なものを飲まされたとしか思えない。
「さ、さわる、な……」
 壁を伝い、どうにか表通りに出ようとする。
 だが日の光はあまりに遠く、そのうち自分がちゃんと立っているのか、
ここがどこかもよく分からなくなってしまった。
「ゆっくりしていくといい。役持ちの一人や二人、消えたところで
誰も疑問には思わない」
 そう……よくあることだ。多少の不自由があってもすぐに次が現れる。
 現れずとも世界は回る。いつの間にか穴は埋められる。
 命の軽すぎるこの世界では、よくあることだ。

 誰も……夢魔を、気にかけない……。

 それきりナイトメアの意識は、闇に落ちていった。

 …………

 水をかけられ、目が覚めた。
「ゲホッ……ゴホッ……」
 不快な現実の感覚に嫌忌し、ナイトメアは夢の空間に逃げようとした。
 だが出来ない。何も出来なかった。
 慌てて周囲を見ると、どう見ても地下牢だった。
 監獄に似ているかもしれないが、もっと暗く陰鬱な場所だ。
 夢魔の自分は、両手を鎖で拘束されている。
 これでは囚人だ。
 そして犯人は鉄格子の向こうにいる。空になったティーカップを持って。
「おい、帽子屋! これは、どんな悪ふざけだ……!」
「どういうも何も、私とおまえしか立ち入れない空間を作ったまでだ」
「何……」
 ギリッと歯噛みする。
 だが確かに出られない。
 そうだ。帽子屋にはそういった能力があった。
 彼だけが出入り出来る薔薇園を作り、逢瀬に利用していると、
どこかで聞いたことがある。
 悪夢の王が悪夢に閉じこめられる。道化や卵どもはさぞ笑うだろう。
 しかもこの空間は現実から、完全に切り離されていないらしい。
 となると脱出も厄介だった。
「帽子屋! いいからここから出せ!」
「紅茶を飲む前から無粋なことだ。
 さて……早々に辞そうとする不躾な客に、どう対処したものかな」
 鉄格子の前で楽しそうに腕組みし、帽子屋は言った。
「!」
 帽子屋は指一本動かしていないのに、重い音を立て、扉が開く。
 すくみ上がるナイトメアをよそに、帽子屋が牢獄に入ってきた。
 そしてまた、扉が閉まる。
 本当に帽子屋が作った空間らしく、一切、人の気配がない。
 先ほど水をかけられ、濡れた身体で、ナイトメアは睨みつけた。
「何でもかんでも、おまえの思い通りになると思うな。必ずグレイが……」
「あれが助けになるというのか? 主に手を出す駄犬が」
「――っ!!」
 羞恥に舌を噛んで死にたくなる。
 するとナイトメアの顎を上げ、口づけをながら帽子屋は言った。
「ほう。そんな反応をするということは、事実か。
 安易に爬虫類を飼うものではない。ウサギのようには懐かないぞ」
 どうやらカマをかけられたらしい。
「だ、黙れ……」
 グレイを侮辱され、己を侮辱されたように感じてしまう。
 それを知れば、あの病んだ男は喜ぶだろうか。
 もう会えないから、分かるはずもないか……とナイトメアは諦観し、
口づけを受けた。
「さて、では楽しませてもらうか」
「待て、帽子屋。その前に説明しろ。何で私なんだ!
 おまえは女にも男にも不自由してないだろう!」
 するとブラッドは笑う。
「さて、な。私は暇なんだ。退屈しのぎに夢魔を壊すのも一興だと
ふと思いついたまでだ」
「…………」
 誓って本心ではないだろう。

 だが帽子屋は心を読ませない。時間をかけ、夢魔を監禁するに至った心情を
ぶつけることも、夢魔と相思相愛になろうとする意志も皆無に思えた。

 ――……。
 胸の奥がなぜか痛む。
 目の前の男は最初から諦めている。放棄している。暴走している。
 ゆえに、こちらを冷酷に扱ってくるだろう。
 だからこそ、失ったはずの心がひどく痛んだ。
「帽子屋。落ち着け。話し合おう。な? 頼むから……」
「話すことなど何もない。せいぜい私を満足させ譲歩を引き出すんだな、芋虫」
 帽子屋は氷のような表情で、タイを外した。

 …………

 そしてどれだけ経っただろう。
 帽子屋の言葉から分かるのは、自分一人がいなくなった程度では、世界に
一切の滞りがないということだけだ。
「ん……んん……っ……」
「これはこれで、悪くない」
 首輪につけた鎖を引っ張り、支配者は嘲笑する。
 身体は傷だらけだ。衣服をほとんど与えられず床で眠り、主の気まぐれでまた傷つけられる。
「は……あ……ぅ……」
 手首の鎖が無くなっているのが雀の涙ほどの幸いか。
 だが出ることはもちろん叶わず、今も後ろから貫かれ、鉄格子につかまり、
どうにか自分を押さえている。少しでも手抜きをすると鎖を引っ張られ、首がしまる。
 拷問に等しい扱いだった。
「おまえは、本当に『好き』だな。元からこういった願望があったのか?
 それともトカゲにしつけられていたのか?」
 耳朶を噛みながら、ブラッドが言う。
 確かに、自分の××は勃ち上がり、汁を垂らしている。
「初めてのときも、慣れていたな。もっと早く、おまえを、ここに、
つれてきて、いれば……」
 ブラッドは悔しげに言う。
「ぐ、う……あ……ああ……っ!」
 そして何度も貫き、抉り、激しく揺さぶってくる。
 ――トカゲ……グレイ……。
 快感の狭間にグレイのことを考える。もう久しく顔を見ていない。
 このまま永久に顔を見ることはないのだろうか。
 鉄格子をつかむ手に汗がにじむ。
「う……あ……っ……」
 こらえきれずに達した自分自身が、牢の床に吐き出し、染みを作る。
「やれやれ。いつもながら、堪え性のない奴だ……」
「ひ……あ……っ……!」
 激しく貫かれ、瞬間、中に放たれる。
「……く……っ……」
 かすかな脈動。そして背中に軽くかかる重さ。
 だが安堵を感じたのはほんの一瞬。
 こちらの身体が反応しているのを見つけられたらしい。 
「くく。芋虫。おまえ、また……」
「う、うるさい!……っ……!」 
 頬を張られ、言葉がそれ以上出ない。
「言ったはずだ。主にそんな口をきくなと」
 この地下牢でさんざん教え込まされたことだった。
「す、すまない……」
「ならおしおきをするか。そうだな。たまには自分で慰めてみろ」 
 パチッと指が鳴らされ、首輪が一瞬で消える。
「…………」
 奴は一瞬で衣服を整え、どこからか椅子と紅茶を出し、腰掛ける。
 その優雅さはまるで薔薇園にでもいるかのようだ。
 だが、その目は自分を見下ろし、命令に逆らうなと威圧する。
 実際に、ここでは自分に出来ることは何もない。
 逆にブラッドはどんな制裁でも与えられる。
 逆らっても、利点は、何一つ……。
 震えながら、勃ち始めた自分の××に手を伸ばす。
「ん……く……」
 始めてしまえば、後は快楽を求める本能で手が勝手に動く。 
 醜態を晒す自分を、帽子屋は軽蔑の眼差しで見下ろしていた。
「……はあ……あ……――っ……」
 ほどなく達し、かすかに震え、精を牢の床に吐き出す。
「…………」
 熱が冷め、自己嫌悪にとらわれ、顔を上げる。
 帽子屋の身体には変化が見られない。
 奴は軽くあくびをし、つまらなそうに立ち上がると、こちらを
一瞥(いちべつ)もせず、牢の入り口に向かう。
「次はもう少し楽しませろ。でなければ痛みをもってしつけるだけだ」
 そして指をパチッと鳴らす。
「っ!!」
 手首がしまり、叫ぶところだった。 
 また、壁に戻された。両手を拘束され、何も出来ない。
 ブラッドは去っていく。彼が来るまでの長い時間、また夢魔は取り残されるのだった。

「私は、いつか忘れ去られるんだろうか……」
 
 暗い牢獄に取り残され、一人つぶやく。
 そして朽ち果てる。あんまりな最期だと思う。
 こんなことなら病弱のままでいるのだった。
 そして……。

「俺は忘れませんよ、あなたを」
「っ!!」
 
 瞬間に感じたのは喜びだったか、恐れだったか。
 
 グレイ=リングマークがいた。

 牢獄の鉄格子の向こうに。
 幻ではない。少しやつれた様子だったが、確かに補佐官がそこにいた。
「グレイ!!」
「ここまで来るのに苦労しましたよ、ナイトメア様。情けないお姿になって……」
 そこで自分が今、どんな姿か思いだし、羞恥にうつむく。
「とにかく、助かった! 早く、ここから……」
「ええ、もちろんです。今、満足させてあげますよ」
 グレイはすぐに扉を開け、入ってくる。
 自由。
 思っても見なかったことに、胸に光が射す。
 もう一度外の光を見られる。
 自由に歩ける。そう思ったのに。

「本当に、ここまで来るのに苦労した……」
 グレイの暗い声を聞くまでは。

「グレイ? 何をしているんだ。早く……ん……!」
 キスをされた。
 何が起こったのか混乱した後、そういえば監禁される前に性的嫌がらせを
受け続けていたと思い出す。
 だが、ここは帽子屋の領域だ。いつ、奴が戻ってくるか分からない。
 それはグレイも十分承知なはず。
「グレイ!? ここを、どこだと……」
 下半身をまさぐってくるトカゲが信じられなかった。
「ああ。聞いたとおり、反応が早いですね。それとも俺に会えて
そこまで嬉しかったんですか?」
「グ、グレイ。こんなことを、している、場合、じゃ……」
「ならなぜ反応して下さっているのですか? 物欲しげな顔を?
 ほら。良い子だから足をもっと開いて」 
「グレイ……?」
 何かがおかしい。ありえない。
 もしかして帽子屋が、悪ふざけに作った幻なのか? 
 あの補佐官が、こんな状況で脱出より欲望を優先するなんて。
 そしてハッと気づいた。
 帽子屋が外で見ていた。
「グレイ! 帽子屋が、いる……! 早く……っ……!!」
「慌てないで下さい、ナイトメア様。勢い任せであなたを傷つけたくはない。
 ゆっくりと、時間をかけて楽しみましょう」
「…………」
 グレイは正気なのかと混乱する。
「言っておくが、芋虫。表の世界ではおまえはもう居ないものとして
扱われている。そこのトカゲもな」
 冷ややかな帽子屋の声。
 そういえばグレイは、この牢獄に鍵もなく普通に入ってきた。
 そしてこちらを逃がそうとする行動を何一つ取ろうとしない。
 まさか……。
「主を失ったトカゲなど何も出来はしない。軸を巡ったところで、トカゲに
あぶれた夢魔など、そういるものではないからな。
 役割を失ったトカゲは、自棄に陥り、自滅する寸前で私に拾われた」
 すでに狂っていたグレイが、あれ以上どう狂ったのか。
 あえて知りたくもない。
 ブラッドなどいないかのように、こちらの身体を愛撫する男を、夢魔は
苦々しい思いでにらみつけた。
 だが久しぶりのトカゲの刺激に、息も乱れてくる。
「ん……んん……っ……」
 グレイの硬くなった××がこちらの身体に当たる。
 爬虫類の息が荒い。もう生殖のことしか考えられないようだった。
「トカゲの自滅を観察するのも面白いと思ったが、やはり連れてきた方が
正解だったようだな。良い趣向を提案してくれそうだ」
 そして牢に入ってくるブラッド。
 夢魔は、自分を破滅させた男を睨みつける。
 もう元の世界に戻っても、自分たちの居場所はどこにもない。
 これだけ壊された自分もグレイも、何もない顔をして元の役に収まるなど
……出来るわけがない。
「あっ!」
 鎖がほどかれ、ナイトメアは牢の床に座り込む。
 そんな獲物をすぐに押し倒し、ベルトを緩める補佐官。
「ナイトメア様……」
 その目には自分以外映っていない。
 暴発寸前の××をあてがわれ、せめて現実を見まいと、硬く目を閉じた。

 …………

 今はいつなのか。外はどうなっているのか、知る手段はない。
「は……あ……あ……」
 グレイは夢魔をうつぶせにさせ、狂ったように貫いてくる。
 その身体が小さかろうと力を加減する様子はない。
「グレイ。頼む。もう止め……勘弁、して……」
 懇願するが、逆に自分の中の××がいっそう硬くきつくなっただけだった。
「ほら、駅長殿。手を抜くならまたお仕置きだが?」
「……!」
 ブラッドの声に、恐怖で身がすくみ、慌てて奉仕を再開する。
「良い子だ……」
 髪を撫でられても嬉しくも何ともない。
 今回の自分は小さな駅長姿をさせられている。
 服を身にまとうことは許されず、全身を白濁した液で汚されている。

 ずっとここに監禁され、抱かれ続けている。
 道具を使うときもあれば、別の姿を取らされることもある。
 前回は元の姿で、縛られた状態だったと思う。
 グレイと交わっている姿を観察されたときもあった。
「ナイトメア様……っ……!」
 飽きることなく抱いてくるグレイは、一見、まともに見える。
 だがどこかが壊れてしまった男は、もう夢魔以外のことを考えない。
 帽子屋にはとりあえず従うが、元凶だと攻撃することはない。
 グレイは完全に狂ったわけではない。
 恐らく、どこかで認識しているのだろう。
 ここなら表のことなど構わず、ナイトメアを抱き続けることが出来ると。
 それにここでは一応の役割もある。
 ブラッドがいないときは甲斐甲斐しく世話をし――抱いてくる。
 現実なのに、ここは悪夢の中だ。
 だけど……。

「あ、ああ……あ……っ……」
 小さな身体には無理のあるサイズの××が何度も奥を抉る。
 口の中の××からも汁があふれ、思考力を奪っていく。
 壊れてしまうと思うのに、身体は反応し続けている。
「トカゲも芋虫も餌代など些細なことだ。
 ずっと飼ってやるさ。貴様等がどう思おうと、永遠に」
 ブラッドが笑う。
 そして上と下に大量の白濁液が放たれ、頭が真っ白になる。
 残滓に小さな身体を新たに汚されながら、全裸のナイトメアは至福の思いで
牢に横たわる。二人の支配者に愛され、闇の底にいつづける。
 そしていつかトカゲに刺され、二人でこの世界を去るのだろう。
 それもまた、幸せな結末ではないだろうか。
「ナイトメア様……」
 グレイに抱きしめられ、うなずく。
 この男が好きだ。愛している。

 もう逃げられない。

「さて、次は何をして楽しもうか」
 さらなる責めを思考する主の言葉は、もう福音にしか感じられない。
 夢魔は目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
 

……………………
リク内容:グレブラ×ナイトメア(監禁物)

リクが遅れましたこと、深くお詫び申し上げます<(_ _)>

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