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■夢魔の病弱、時計屋の恋人

 ※R18

 世の中には、絶対に恋人にしてはいけない人種が存在する。
 例えばマフィアのような、ろくでもないヤクザ連中。
 部下を殺すのが趣味としか思えない、狂ったウサギ。

 そして――無愛想な時計屋。


 …………


 夢の中で夢魔ナイトメアは、そこそこ幸せだった。
「ゴホッ、ゴホッ! ああ、すまない。そこをさすってくれないか」
 恋人たる時計屋の膝に頭を乗せ、甘えている。
「ここか?」
 が、こちらがこれだけ苦しい思いをしているというのに、時計屋は実に冷淡だった。
「ああ、そこだ。そこ。うう、少し楽になってき――ゴホッ!――楽になってきた」
「本当に楽になっているのか? 
 違う意味の『楽になってきた』ではないか?」
 案じているというより、医者のように一歩引いて観察する態度だ。
「つ、冷たい……!」
 めげそうになる。だが面倒くさそうながらも、時計屋は背中をさすってくれる。
 唯一の救いだった。
「時計屋……」
 口づけをしてほしくて、つい甘えた声が出た。
「どうした? そろそろ意識が落ちる頃か?」
「落ちてたまるか!!」
 だいたい自分の方こそ不摂生でしばしば倒れているのに、
偉そうに人を心配できた義理か。
「…………」
 そこでナイトメアははたと気づく。
「どうした?」
 なぜか今は背中ではなく頭を撫でてくるユリウス。
「いいや、その、私たちは……恋人同士だよな」
「…………」
 果てしないほどの沈黙が返ってきた。
「ゴホっ、ゴホッ!!」
 沈黙に耐えきれず咳き込むナイトメア。
「おい。しっかりしろ、ナイトメア」
 とりあえずといった感じでユリウスが声をかけてくる。
「し、心配してくれるのか、時計屋」
「もちろんだ。かけないと『心配してくれなかった』と、後でダダをこねられる」
「だからおまえ、もう少しオブラートに包めと!!……ゴホッ!!」
「包んでいる。だからこのまま逝くな、芋虫。
 夢の中で死なれると、時計が回収しにくいし事後処理が色々厄介なんだ」
「ひ、ひどい……」
 相変わらず恋人は容赦がない。
 涙目だけで抗議すると、やっと通じたのか、時計屋はこちらの手を優しく取り、
「分かっている。死に水なら、ちゃんと取ってやるから安心しろ」
「誰がそんなことを目で訴えるかっ!!……ゴホッ! ゴホッ!」
「ナイトメア。調子が悪いのに無理に怒鳴るな。私の頭が痛くなる」
「いやちょっと待て。結局自分の心配……ゴホッ!」
「心配はしている。深刻な幼児退行をしているようだからな」
 吐く。いや、ついに赤い物をドバっと吐いた。
 時計屋がすっごく嫌そうな顔をした。
「ど、どこが『深刻な幼児退行』だあ! わ、私は恋人の胸に――」
「人の胸にすがって、わめきながら人の服を汚しているだろう」
 ひたすら、血を含む体液を吐く。
 時計屋の服は着々と朱に染まり、ド修羅場かスプラッタかという様相だ。
「うう。恋人が冷たい……血を吐きそうだ」
「もう吐いているだろう。あと、血以外のものを吐くときは事前に言え。
 被害が及ばないよう、夢の外に逃げる」
 淡々と告げられるから、余計に胸にすがり、
「つ、冷たい! 冷たいぞ、時計屋!!
 優しいから好きになったのに……」
「そういう恥ずかしいことを、血を吐きながら言うな。
 だがまあ、私だっておまえのことを、外見も中身もバ――未だかつて
会ったことのない、どうしようもないバカだと思っている」
「わざわざ悪い方向に言い直すなっ!!」
 と言いつつ、夢魔はすがって離れない。
 親猫にすがりつく子猫の心地だった。
 ついにユリウスはため息をついた。
「分かった。しっかりしろ」
 夢魔を抱き直し、彼を座らせると唇を重ねた。
「時計屋……」
 夢魔は嬉しかった。
「まあいい。夢の中なら、現実の服は汚れない。いくらでも吐くといい」
「それ結局、私より服の心配をしていないか?」
 それでも喜んで、ナイトメアは恋人に唇を重ねた。
「……血の味がする」
 恋人の感想は聞かなかったことにした。

 その後、ナイトメアは時計屋にもたれて眠った。
 目が覚めたとき少し元気になっていたが、自分が時計屋の作業場にいると気づいた。
 最初は現実に戻されたのかと慌てた。
 だがすぐに、時計屋が自分の力で、夢の中に作った作業室なのだと気づいた。
「時計屋、本当におまえという奴は……」
 黙々と時計修理をする時計屋。その周囲をフラフラ漂うナイトメア。
「夢の中でまで仕事をすることはないだろう。仕事依存症だな」
「うるさい。夢の中だろうと、手持ち無沙汰は落ち着かないんだ」
 職人の鑑のような答えだ。
「……時計屋。おまえ、仕事と私とどっちが大切なんだ!」
「仕事」
 清々しいほどに即答だった。 
「吐血したい」
 力を失った羽虫のようにソファに落ち、動かなくなるナイトメア。
 そのまま、また眠ってしまった。

「ん……」
 目が覚めたとき、時計屋の大きなコートが身体にかけられていた。
「時計屋?」
 声をかけたが、恋人は黙々と作業を続けていた。


 まだ夢を覚ますのが惜しく、二人は夢の中にいた。
「もう少し外に出たらどうなんだ? 時計屋」
 時計屋はやはり作業をしながら、
「ここが一番無難だろうが。私も仕事が出来るし、おまえも気分が悪くなれば
すぐソファやベッドで死――間違えた。倒れられる」
『休める』『治療に専念出来る』という言葉は奴の語彙にないのだろうか。
「ああ、そうか」
 少し額に青筋立て、夢魔はパチッと指を鳴らす。
 ちょっと眠ってすっかり元気になった。
「!!」
 瞬間、時計屋の作業室は一変し、周囲は森の中になった。
「おい!!」
 時計屋は空になった手元を呆然と見、
「おまえ……! 私は仕事中だぞ!」
「どうせ現実の時計は一つも治していないだろうが。
 さあ、デートをするぞ! どこへ行きたい。
 夢魔の力でどこへだって――」
「薄暗く人が来ない、珈琲があってひんやりしていて、静かで陰鬱な場所」
「幽霊か、おまえは! なら適当に行くぞ!」
 ナイトメアはぶつくさ言う時計屋の手を引っ張り、散歩に連れ出した。
『仕事が……』『こんな脳天気に遊んでいる場合では……』
 と時計屋はブツブツブツブツ。
 だったら、さっさと夢から覚めればいいのに、とも思うが、
何だかんだ言いながら、つきあってくれるのが、彼の優しさだ。
「……カフェ」
 ふいに時計屋がつぶやいた。
「は?」
「珈琲が飲みたいんだ。さっさとしろ!」
「分かった分かった」
 

 草原で、時計屋は不機嫌そのものな顔で珈琲を飲む。
 草むらにはウサギや花、空はナイトメアの出した虹がかかっているが。
「私はカフェと言ったんだが……」
「カフェなら絶対にこもって修理を再開させるだろう」
 だがこの男には、あまりにも不似合いな舞台設定にしてしまった。 
 いっそ廃墟でも出した方が、まだ受けただろうか。

 ――それでも、共にあることが嬉しい。

 たとえ中立の役持ち同士で、軸が重なること自体、滅多にないのだとしても。
「ん……」
「何だ、いきなり」
 突然抱きつき、唇を押し当ててきたナイトメアに、時計屋は戸惑い気味だ。
「何だと言われれば……×××しようと思った、とか?」
「……!!」
 時計屋の頬に朱がさす。
 自分にも奥手な自覚はあるが、時計屋の比ではないと自負している。
 つきあい始めてから知るようになった時計屋のマイナス思考は、病気寸前のレベルだ。
「好きだ、時計屋」
「…………」
 もう少し前向きに考えればいいのに、全てを悪い方へ悪い方へとらえる。 
 自分がリードする必要性にかられるくらいに。
「ナイトメア……」
 時計屋もようやくやる気を出してきたのか、ナイトメアの背を抱きしめてくる。
 触れあうだけだった口づけは、すぐに互いを貪るようなものに代わった。
「お、おい……!」
 どうもまたマイナス思考が極まって不機嫌だっただけで、実は
あちらにも触れたいという意志があったらしい。
 小さな吐息が聞こえ、首筋に、外に晒した肩に口づけられる。
「時計、屋……」
「ナイトメア……」
 息継ぎの合間に聞こえる声が切ない。
 やがてついに時計屋の手がこちらの服のボタンを外し出す。
「え……」
 触れられて嬉しくないわけがない。
 嬉しくないわけがないが……緊張で……。
「吐血する」
「!!」
 ブシャッと、時計屋の服と地面に血の花が咲いた。

 …………

 場所は変わらず、夢の中の草原だ。
「えーと、その……」
 盛り上がってきたところに盛大に水を差され、時計屋は暗黒面に落ちたような不機嫌顔だった。
 ナイトメアはようやく発作も治まり、膝を貸してくれる時計屋に、
「す、すまないな。時計屋」
「それは言わない約束だろうくたばれ気にするな」
「……途中で本音を挟まなかったか?」
「気のせいだ」
 しれっと言い夢魔の頭を撫でてくる。
 だが、だんだんと申し訳ない心地になってきた。
「……ほ、本当に悪かった。時計屋」
「何だ、おまえらしくもない」
 実は時計屋との関係は全く進展していない。
 キスがせいぜい。
 少し緊張しても吐くナイトメアを心配し、時計屋の方からは手を出してこなかった。

「せっかく、誰にも邪魔されない空間で会っているのに、いつも何も出来ない」
「現実世界で会っても何か出来る気がしないのだが」
「いちいち一言多いな! おまえは!!」
 しばらく思案顔だった時計屋は、
「まあ、どうしてもというのなら、おまえにしてやれることはあるが」
 夢魔のナイトメアには、時計屋のそわそわした気持ちが伝わってきた。
「……止めてくれ。『その方法』、私が一方的に気持ちいいだけだろう。主義に反する」
 どういう主義だと、自分で自分にツッコミを入れつつ。
「もしくは、おまえが私に何かするとか」
 時計屋はさらに、期待の思考を晒していた。
「それ! おまえが一方的に気持ちいいだけだろう!! それでいいのか!!」
「私は全くかまわない」
 時計屋がなぜか自分のベルトをいじり始める。
「よくないーっ!!」
 すると時計屋はベルトを締め直し、しれっと、
「冗談だ。真に受けるか普通」
「〜〜〜〜!!」
 笑われている。悪びれないのが腹が立つ。
 だがどう罵声を浴びせようかと時計屋を睨みつけたとき、ナイトメアは言葉につまる。
 目の前にユリウスの優しい顔があった。
 フッと顔を緩め、微笑んでいる。
「本当に放っておけない奴だ」
 優しく抱きしめ、キスをされる。
「…………」
 たとえ触れあうことが難しくとも、現実世界でほとんど会えなくとも。
「これからもずっと一緒だ、ナイトメア。だから心配するな」
 その言葉をそっくりそのまま返してやりたいが……。
「ああ。愛している時計屋」
「私もだ。だからゆっくり元気になれ。現実世界で会う前に」
「もちろんだ」
 結局は全て恋人同士の言葉遊びであり、こうして抱きしめ合えば相手の事以外考えられない。
「愛している……」
 優しい恋人の抱擁に、夢魔は幸せな気持ちで目を閉じた。

 --BEST END--




「それではやるか」
「――は? わ、わ!!」
 空中に逃げる間もなく、ドンッとソファに押し倒された。
 時計屋も何をしたのか、気がつくと草原は時計屋の作業室に変わっていた。
「お、お、お、おま……!!」
 狼狽する夢魔に、時計屋はやや邪悪な笑みで、
「どうした? 嬉しくて声もまともに出せないか?
 それとも景色を
変えて欲しいか? どうせ夢の中だ。何ならもう少し刺激的に――」
「止ーめーろーっ!! 私はおまえと違って変態趣味はないんだ!!」
 わざと心を読ませる時計屋に、ナイトメアは顔を真っ赤にして懇願した。
「聞き捨てならんな。どうせ夢だろう」
「夢だろうと恥ずかしいものは恥ずかしいだろう!!」
 引きこもりの反作用で、解放への欲求があるんだろうか、この男は。
「というか! 私が血を吐いてもいいのか!!」
「我慢してやるから安心しろ」
「偉そうに言うな!!」
 ナイトメアの服に堂々と手をかけてくる時計屋。
 身体に押しつけられる股間の熱を感じ、夢魔は底冷えする声で、
「おまえ……実は自分が我慢出来ないだけだろう」
「悪いか?」
「悪いっ!! 私の身体はどうなってもいいのか!」
「現実のおまえには影響ない。どうせ夢の中の話だろう」
「心に傷が出来たらどうするんだー!!」
 夢の具現たるナイトメアには、夢こそが現実で、そこで与えられる感覚はリアルなものだ。
 そしてユリウスの身体の方も、今は『外』にない。
 ある程度『こちら』に来ているので、実際に身体を重ねれば、
時計屋にとっても夢の中の話ではすまないはずだ。

「……ナイトメア。どうしても嫌か?」
「え……」
 時計屋の少し寂しげな表情にナイトメアはドキッとする。
 恋人の心が離れるような態度をとってしまっただろうか。
 そうだ。ただでさえマイナス思考の時計屋だ。
 彼の中では、一気に話が『別れる・別れない』レベルに加速しているかも……。
「嫌なら縛るしかないか」
「おいっ!!」
 男という点においては、歪み無かった。

「わ、わかった。わかったから、縛るとか犯すとか強制するとか
吊すとか垂らすとかは止めてくれ!!
 合意で!! ノーマルで!! 優しく!!」
「垂らすまでは考えていないが」
「吊すまでは考えてた!?」
「冗談だ。仕方がない奴だな」
 フワッと身体が浮いた感覚があり、気がつくと両腕で抱えられている。
 ソファがやや大きめのサイズのベッドになっており、ナイトメアは優しく横たえられた。 
「もう、知らないからな……」
 キスをされ、ナイトメアも観念した。

「相変わらず妙な服だな。もう少し質素な服にしたらどうだ?」
 上着を脱がしながら時計屋が言う。
「おまえこそ、時計の装飾品だらけだろう。
 そこまで全身で時計屋と主張する必要があるのか?」
 ずっしりと重い、謎の時計を外してやり、もう一度愛しさをこめて抱きしめる。
 軽口を叩き合い、キスをし、少しずつ互いの服を解いていく。
 だが次第に口数も減り、相手の肌に触れる行為に集中し出してくる。
「ん……ん……」
 胸に口づけられ、どうしようもなく気まずい。
 不思議な感覚が全身に広がり、嬉しいのと恥ずかしいのとが半々だった。
「と、時計屋。やっぱり、止めて……くすぐった……」
「ここまで来て、今更逃げるな」
 がっしりと抱かれ、逃げ道を封じられる。
 眼帯の上から口づけられながら、
「不安なら目を閉じていろ」
「それ、よけいに感覚が鋭くなるような……」
「本当に縛るぞ、芋虫」
 そう言うユリウスの顔も少し赤い。
 本当に我慢できないという思いが、性急な手の動きから伝わってくる。
「……ん」
 手をつかまれ、ユリウスの××を握らされる。
「――っ!」
 といってもどうすればいいのか分からず、
「え、ええと……」
「…………」
 時計屋から思考が送られてくる。
 こういうとき、考えを読ませ、やり方を教えてくるのは卑怯な気がした。
 とにかく指示される手を動かしていると、どうにか上手いこと手の中で育ってくれた。
 眉根を寄せて、切なげな息を吐かれたのが、嬉しかった。
「…………っ……っ……」
 抱きしめられ、また深い口づけをされる。
 舌が絡まり、唾液の立てる音が作業室に響く。
「直接、触れてみて、いいか?」
「……ああ……」
 相手を悦ばせたいという本能で何とかユリウスの前を緩め、ためらいながらも直に触れてみる。
 十分すぎるほど硬くなったそれは、触れると先端から透明な――。
「ん……おい、おまえばかり……!」
 ユリウスが怒鳴る。
「わっ!」
 押し倒され、今度はこちらのズボンを一気に下ろされる。
「いや、だって……あ……っ……や……」
 今度はこちらの下半身を握られ、さっきの自分とは比べものに
ならない早さと強さで擦られる。たちまちに我慢できなくなってきた。
「あ……ユリウス、ま、まて……」
 一気に達するところを何とか留めた。
 そしてまた抱きしめられる。身体を乱暴にまさぐる時計屋の息には、
余裕がない。もう獣になる一歩手前だ。

「ナイトメア……いいな……?」
 ついにそう言われた。
「…………」
 小さくうなずく。拒んでも無駄だろうなと思いつつ。やはり嬉しかった。
「ん……」
 ユリウスは少し微笑み、服のポケットから潤滑油の小瓶を出した。
 


 シーツをつかむ手が汗ばんでいる。
「い、痛……っ……!」
「我慢しろ、ゆっくり、動くから……」
 夢である特権で、互いにかかる苦痛を相当に軽減したとはいえ、やはり
初体験の違和感は無くしようがなかった。
 それでも潤滑油の助けを借り、ユリウスは隘路を徐々に侵略していく。
「は……あ……ん……」
 時計屋が自分の内にいる、ひたすらに求められている。
 ゆっくりと支配され、徐々に打ち付ける間隔が狭くなる。
 満たされる。時計屋のことしか考えられない。
「き、気持ち……い……」
 気がつけば自分の××も反応しきり、勃ち上がっていた。
「おまえ、初めてなのに……実は××だったのか?」
 からかうようにソレを握り、根暗な時計屋が笑う。
 快感に放ちたい欲望を抑えながら、
「う、うるさい!! だから、早く……」
「ああ……」
 ――ユリウス……っ……。
 熱く抱擁され、噛みつかれるように背に口づけられ、何度も何度も打ち付けられる。
 そして快楽の狭間に思う。

 初めて会ったとき、どれだけよそよそしかったか。
 何度皮肉の応酬をしただろう。
 いつしか焦がれていることに気づいた。
 長い長い片恋を経て――気がつけば一番長く一緒にいて。
 そして告白をして。絶対に断られると思ったのに……。

「……愛している」
 
 体位を何とか変え、互いに向き合い、相手の肩に顔をうずめた。
「ナイトメア……」
 絡む舌までが熱い。
 限界まで勃ち上がった××が相手の腹に当たり、汁をこぼす。
 それは自分の中のユリウスも同じことだった。
 ユリウスは感覚に集中するよう目を閉じ、ナイトメアの足を抱えると再び強く打ち付け出す。
「あ……ああ……はっ……だ、だめ……」
 何を言っても止まらない。
 苦痛は去り、快感で頭がいっぱいになり、ひたすら責めに耐え、限界まで上り詰める。
「――――っ……!」
 そして中に生温かい××が弾けるのを感じ、至福の思いと共に激情を手放す。
 そのままベッドに倒れ込み、気が済むまで互いに腕を回し、唇を重ねていた。

 …………

 ベッドに寝ている。シーツはさすがに取り替えた。
 しかしさっきと同じベッドだ。それだけでも気まずい。
「……身体がだるい。超痛い……」
「その、悪かったな」
 目をそらし、ユリウスが絞った布を額に当ててくる。
 やはりダメージは隠しようがなく、終わった後にダウンしてしまった。
「こんなことでは、現実でやるときが大変だな」
 虚空をあおぐ時計屋は、解放したためか清々しい表情だ。
「な、慣れてみせる!! 次はもっと過激なのをやるからな!」
「普通でいいだろう。無理をするな」 
「無理なもんかー!」
 ユリウスが横に並んで寝る。そのままナイトメアの髪を撫でてきた。
「ん……」
 なだめるようにキスをされ、気まずい気分になる。
「時計屋! 子供扱いするなと言っているだろう!」
「別にしてはいないだろう」
「いいやした! もっと私を敬え!! 私は偉い夢魔で領主、
ナイトメア=ゴットシャルク様だぞ!!」
「虚勢を張るほど子供に見えるが……ああ。おまえは病弱で仕事も
ろくに出来ず、人前で血反吐を吐き、店先で行き倒れ、一部領民に
別の意味で疎まれているナイトメア=ゴッドシャルクだな」
「だーかーらー!!」
「まあ、もう少し現実で健康になって、仕事をしっかりこなして立派になるんだな。
 そうすれば現実の世界で抱くことを考えてやらないでもない」
「〜〜〜〜っ!!」
 現実での逢瀬が取り引き材料にされていた。
「……何でおまえは私を頼らないんだ」
「頼っているだろう。仕事のとき。他の選択肢がなく、どうしても
手段が見つからず、八方塞がりになったときに渋々頼っている」
「それは最後の手段というんだ!」
 本気で幼児返りしてジタバタする夢魔。
「冗談だ」
 腕で引き寄せられ、額に口づけられる。

「おまえが好きだ」

「……ああ」

 そのまま終わらない夢の中で眠る。
 いつか現実世界で必ず会う。
 そうしたら、どんなルールにも負ける気がしない。
 軸を越えても、国が変わっても、決して離れない。
 この時計屋を、今、目の前にいるこの男だけを、ずっと。

「愛している、ナイトメア」
「あ、当たり前だ!」

 なんてことはまだ言い出せず。
 苦笑する時計屋に抱きしめられたまま、ナイトメアは眠りについていった。 


 BEST END



……………………
リク内容:ユリナイorナイユリ

リクが遅れましたことを深くお詫び申し上げます<(_ _)>

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