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■舞踏会に行きたくない人

※エスユリ
※R18

この世界の空はいつでも快晴だ。
時計屋ユリウスは、窓から目をそらし、憂鬱な思いで工具を握る。
もちろん時計修理をしている。
しかしさっきから全く集中が出来ない。
「ユリウスー! そろそろ行こうぜ!!」
同居人がベッドから飛び降り、裸足で床に着地する。
ちなみに同居人の馬鹿は、上半身に何も着ていない。
「うるさい」
振動で工具を手から落としてしまい、ユリウスは舌打ちする。
だが拾う気にもなれず、そのまま深くため息をつき、作業台にもたれた。
「はあ……」
憂鬱だ。憂鬱でしかない。
「どうしたんだよ、ユリウス」
服を着、靴を履いて、馬鹿が後ろから抱きついてくる。
「舞踏会だぜ、舞踏会! ユリウスも一緒に楽しもう!」
「誰が楽しむか!」

そう。ハートの城でこれから舞踏会が行われる。

役持ちは全員参加。それがルールだ。だが、
行きたくない。
行きたくない行きたくない。
行きたくない。

「ユリウス、そろそろ行こうぜ!さあ舞踏会だ!立った立った!」
やはり背後から、馬鹿が抱きついてくる。
やがてユリウスは妙案を思いついた。
「よし、風邪を引いたから欠席する!」
すると背後でしばし沈黙があり、そーっと後ろから、額に大きな手が当てられる。
「熱、ないだろ?」
「安心しろ、エース。最近は発熱を伴わない風邪も増えている」
「いや、堂々と言ってどうするんだ?」
「私は体調が悪い!欠席する!」
「元気そうだよなあ」
呆れたように言われ、ムッとして振り向くと緋の瞳と目が合った。
「…………」
「ん」
促され目を閉じると、唇が重なった。

「それでさ、ユリウス」
こちらの服のボタンをいじりながら、馬鹿が言ってくる。
「俺を舞踏会に連れて行ってくれよ」
行動と言動が全く一致していない。
「嫌だ、面倒くさい。のたれ死ね」
「ユリウス〜、そんなことを言うもんじゃないぜ?
普段、時計を大事にしろって、あれほど言っているだろう?」
エースは猫のように身体をすりつけてくる。
時計屋ユリウスはため息をつき、ついに工具を置くと振り返った。

そして嬉しそうに両手を広げる同居人の腹に――拳を打ち込んだ。

…………

「はあ……」
ため息が出る。ため息しか出ない。
いったいほんの少し前に何があったのか。
今、なぜか自分の服の前が開き、ベルトが緩められている。
が、そんな些細なことはどうでもいい。
「ユリウス。いい加減にしてくれよ。間に合わなくなるぜ」
手早く自分のベルトを締めながら、同居人もいい加減に呆れ声だ。
「エース。私はもう駄目だ。舞踏会には……おまえ一人で……」
「分かった分かった。分かったから服ぐらい自分で直せよ」
苦笑気味に服のボタンをとめられ、子供扱いにムッとする。
「ほらほら。でないと、もう一度――」
馬鹿は意地の悪い顔でニヤニヤしている。
「…………」
それは嫌だったので、ユリウスは渋々立ち上がった。
「……ダルい」
「はいはい。歩いた歩いた。本当に間に合わなくなるって」
「枝毛が。ストレスが」
「ユリウス〜!」
こちらを引っ張ってくる同居人。馬鹿のくせに生意気だ。
ユリウスは陰鬱な空気を全身から出し、雨が降ることを願った。
「帰りたい……」
「まだ時計塔の中だぜ?」
馬鹿のツッコミが耳に痛かった。

それはそれとして、何だか身体が本当にダルい気がした。

…………

そして迷子を誘導し、どうにかハートの城にたどりついた。
「よし、舞踏会に参加したな。帰る」
「まだ城の前だぜ、ユリウス」
薔薇の庭園に一歩足を踏み入れるか、踏み入れないかという地点でのユリウス。
「身体の調子が優れないんだ、エース」
実はそれは嘘ではない。
時計塔で軽く感じていた倦怠感が、だんだんと強くなっているのだ。
「本当に怒るぜ、ユリウス。さあ、歩いた歩いた。俺を案内してくれよ」
エースは完全に嘘と決めつけており、ユリウスの背を押して無理やり歩かせる。
「……少し熱がある気がするんだが、エース」
今度は言い訳ではない。少し身体が火照っている気がする。
「いい加減にしろよな、ユリウス」
「本当なんだ。私の身体に触れてみれば――」
「そういう台詞は舞踏会で言ってくれよ。さあさあ」
馬鹿が気遣ってくれる気配はない。
ユリウスも気のせいだと自分に言い聞かせ、渋々、ハートの城へ歩き出した。

…………

舞踏会では、特筆すべきことは何も起こらなかった。
三月ウサギがこちらを睨みつけてきた程度。
エースは相変わらず空気のように無視をされた。
もちろん舞踏会が始まったからといって、女と踊りに行く気配はない。
体調は悪くなるばかりだ。
ユリウスは帰って寝たかったが、タダ酒に目を輝かせたエースが、
カクテルコーナーに直行したがった。
……奴が迷子癖な以上、自分が案内するしかなかった。


そして何杯目も飲まないうちに限界が来た。
「エース……本当に熱があるらしいんだ。頼むから……」
もう気のせいではない。明らかに異常だ。
「ええ?飲んでいるんだから、そりゃ熱いだろ。
今回は本当に弱いなあ、ユリウス。ほら、気付けにもう一杯!」
馬鹿は完全に出来上がっていた。
次から次にカクテルを開けて、平気な顔で笑っている。
一方の自分は――、
「ユリウス!?」
思わず膝をつき、さすがにエースがこちらを見下ろす。
場所が場所なので周囲からは全く注目されていない。
「足に来たのか?しっかりしろよ」
エースが介抱のため自分の前に片膝をつく。
そしてようやく変だと思ったのか、ユリウスの額に手を当て、
「っ!ユリウス、ひどい熱じゃないか!
何でこんな体調で舞踏会に来たんだよ!」
……もう一度腹を殴ろうかと思ったが、奴の胃にたまりに
たまっているであろうカクテルが、逆流する恐れがある。
己の慈悲深さに驚嘆しつつ、ユリウスは、
「気をつかうな、とにかく、これだけ居ればいいだろう。
もう本当に帰るぞ、エース」
「…………」
するとエースはこちらの両肩に手を当て、
「――っ!!」
唇を重ねてきた。
「……っ!お、おまえ、何を……」
「しー。殴ったりしたら、注目されるかもな」
唇に人差し指を当てられ、グッと黙り込む。
確かに周囲は、全く気づいていないようだ。
自分たちがしゃがんでいるのも、酔っぱらいの介抱としか思っていないだろう。
だが人目のある場所で、何ということを……。
「行こうぜ、ユリウス」
エースが引っ張ってユリウスを立たせる。
「……立てない」
するとエースはなぜか肩のストレッチを始め、
「うーん。ユリウスをお姫様抱っこはさすがに厳しいけど、まあ頑張るか」
「するなっ!」
今度こそユリウスはエースを殴りつけた。


…………


ベッドに座らされ、何度もキスをされる。
しかし意識がもうろうとして、状況がよく把握出来ない。
「おい、エース。ここはどこだ?」
熱に浮かされ、全身が気だるい。
「うん?時計塔だろ?」
嘘だ。時計塔にこんな大きなベッドがあるわけがない。
どうも客室に連れ込まれたようだ。
「人間の言葉を話せ。もう一度私を背負え。時計塔まで案内するから」
「ここは時計塔だって。さあ、帰ったんだから愛し合おうぜ」
正装のエースは、酔っているのだろうか。
だが笑いながら服をゆるめる姿は、どう見ても正気にしか見えない。
そして自分はというと……我慢出来ない全身の不調でベッドに横になっている。
とてもその気にはなれない。うつぶせになり、
「この、馬鹿が……」
とシーツをつかむ。遠くから舞踏会の曲が聞こえる。
ユリウスはベッドに手をつき、どうにか起き上がろうとした。
「おっとユリウス、動いちゃ駄目だ。体調が悪いんだから」
という割に、背中を膝で押さえつけられている。
「ええと、縄は……ああ、あったあった」
ベッドの柵にこちらの手首を縛り付けながら、馬鹿が言う。
「エース。いい加減に……」
「ああ、ユリウスは寝ててくれていいぜ。俺は上司思いの部下だからな。
頑張って風邪を俺にうつしてくれよ」
そう言ってせせら笑う。


「ん……ぅ……」
視界がきかない。布か何かで目を覆われているようだ。
「ユリウス……もっと……吸って……」
仰向けに横たわる、自分の上にまたがった馬鹿。
こちらが口を動かすまでもなく、馬鹿は勝手にこちらの頭を動かしてくる。
体勢的にキツイ。
もう何度か放たれた口内の端からドロッとした白濁したものがこぼれ、髪を不快に汚した。
視界がきかないが、奴も服を脱ぎ、ズボンだけの姿のはずだ。
全身が休息を訴えている。懐かしの時計塔でゆっくりと眠りたい。
遠くからはまだ音楽が聞こえる。
どこからか吹く夜風を肌に感じ、逆に熱が上がっていくのを感じる。
「エース、頼むから、もう、これで……」
「ダメダメ。これは俺たちのダンスなんだから、終わりなんて言うなよ」
薄ら寒いことを言い、馬鹿はこちらの髪をつかみ、さらに頭を動かしてくる。
「ん……はあ……」
さらに何度か苦行が続き――中に放たれた。
「ああ……ユリウス、最高……」
残滓まで吐き出し、上からどき、頭を抱きしめてくるエース。
「ああ、そうだな。死ね」
嫌悪をこらえて呑み込み、呪いの言葉をかけるが、馬鹿は笑うだけだ。
「ああそう。なら、もう少しお仕置きをさせてもらわないとな」
ニヤニヤ。笑みが見えるようだ。
「熱いな。ユリウス。熱すぎて、本当に高熱があるみたいだ」
抱きしめてくるエース。
「本当に高熱があるに、決まっているだろう……」
変な姿勢を強要されたせいか、さらに各関節が痛い。
かと思うと、エースはやっと手首の拘束を解いてくれた。
だがなぜか押し出され、ベッドから下ろされた。
「ほら、ユリウス。こっちこっち。ああ、やっぱり重いな」
……どういう体力なのか、強制的に抱き上げられ、どこかに連れて行かれる。
相変わらず何をされているのか視界がきかない。
そして、
「……!?お、おまえ、何を……!」
手足に感じる冷たい感触と――夜風。
より近くに聞こえる舞踏会の楽曲。
間違いない。今転がされた場所は……恐らくは露台。
つまり下手をすれば外から見える。
冗談ではない!
「エース!やめ……っ!」
「シー!室内じゃあ大丈夫だったけど、ここで騒いだらどうかな?」
唇に人差し指を当てられ、もはや殺意しかない。
「こんな場所で、誰かに見られたら……!」
体調も忘れ、ユリウスは低く叫んだ。
「見るわけないだろう?こんな暗がりで目をこらさないと見えない場所なんて。
まあ大の男二人がもつれあって騒いでいたら誰か見るかもしれないけどさ。
……ほら、静かに、な?」
口元に手を当てられ、強引にだまらされる。
すると階下と思しき場所で、酔っ払いが歌いながら歩いて行く音が聞こえた。
音はすぐ遠ざかり、続く人の気配はない。
「……な?」
耳元でささやかれる。何が『な?』なのだろう。
「ほら、そこにつかまって立って。良い子だ、ユリウス」
『そこ』と言われても、どこなのかも分からない。
無理やりに夜風を感じる場所に立たされ、後ろを突き出す姿勢を取らされる。
「ん……」
「ほら、声を出すなよ。誰かに聞こえるかもしれないぜ?」
「……っ」
そう脅されれば黙らざるを得ない。
だが見られて困るのはエースもではないか、と思うが、奴に自重する気配はない。
「はあ……ん……」
背後から手を回され、××を扱かれ、押さえようとしても声が出る。
「声、出てる」
耳朶をかまれ、低くささやかれる。
同時に後ろに圧迫感、慣らされていると分かり、期待か恐怖かも分からず身体が震えた。
「分かった、エース。もう好きにしていいから……」
せめて室内で、と言おうとしたが、
「そう?じゃあ遠慮無く」
「……っ!」
腰をつかまれたかと思うと、背後から××が押し入ってきた。

「……ぐ……っ」
声が出そうになるのをかろうじて押さえる。
「はは、何か一気に入っちゃったな。そんなに待ってた?」
エースはすぐに動き、それはすぐに激しいものになる。
「…ん……っ」
背後から貫かれ、抉られ、何度も揺さぶられる。
「はあ、ユリウス……っ」
静かにしろといった割に馬鹿の方が声を出している。
誰かの気配が近づくのではと気が気では無い。
「ほら、ユリウス……」
「……っ!……何を……」
片足を上げさせられ、さらに深く押し入られ、快楽に達しそうになった。
「誰かが上を見たら、見えるだろうなあ。
 男にヤラれて××になったユリウスの××……」
「いい加減に、し……」
抵抗しようとするが、動けない。
背後から貫かれ、羞恥を強要され、それに興奮する自分が浅ましい。
遠くからは終わることのない舞踏会。
本当に曲に合わせて犯されているような悪夢に陥る。
「ユリウス……ユリウス……っ……」
もう場所も忘れたのか、後ろから自分をかき抱き、さらに激しく責め立てるエース。
「……っ……ん……ん……」
熱い。汗がこぼれる。何もかもが熱く、舞踏会の曲が響く。そして、
「――――っ!」
目の前が白くなり、床に白濁したものが吐き出されたのを感じる。
そして自分の内側にも……。
「ユリウス……好き、だ……」
苦しそうな声を出し、ありったけのものを放つ馬鹿。
そのままもつれるように、冷たい床に転がり、しばらく抱き合っていた。
そしてどちらともなく唇を重ね、深く抱きしめ合った。

…………

今、ユリウスは時計塔にいて、伏せっていた。
「死ね。いや間違った苦しんでのたれ死ね」
ベッドに横たわっているが、もちろん気分は最悪だ。
「だからさ。普段から時計を大切にしろって言っているだろう?ユリウスは」
「おまえは別だ。今すぐそこの窓から飛び降りろ」
「ユリウス〜」
馬鹿はしがみつき、甘えてくる。
あのとき。
どうやら奴の部屋に連れ込まれ、バルコニーのあたりで襲われたらしい。
もちろん、それだけでは終わらず、ベッドでさらに二戦三戦。
そして明るくなり人目につく前に、最悪の状態になった身体をどうにか動かし、慌てて時計塔に戻ってきたのだ。

当然、ユリウスの病は完全に悪化した。

最終的に時計が止まる寸前まで行き、エースは情けない声で詫びてきたものだ。
そしてどうにか死線より帰還してからは。

「……なぜ手首をベッド柵に縛り付ける」
「ん?ユリウスが暴れてケガをしないようにだよ」
「なぜ私の衣服を脱がしている」
「寝てばっかりだと運動不足になるし、たまるだろ?
 手伝ってやろうかと思って」
「大きなお世話だ!!」
起き上がろうとするが、もちろん手首を拘束されていてはかなわない。
「ごめんごめん。舞踏会だから、騎士らしく甘い雰囲気でユリウスを喜ばせようと思ったんだけど」
「病院に行け。いや頼むから本当に行ってくれ」
どこをどうすれば、あれでこちらが喜ぶと思ったのか。
本物の変態か、こいつは。
「やはり行くのではなかった。最悪だ、舞踏会なんて」
下半身を弄られ、少しずつ反応する己に歯がみしつつ、うめく。
「あははは!舞踏会が悪いんじゃない。ユリウスが×××だからいけないんだろう?」
「それはおまえだろう!」
怒鳴っても笑い声は響く。
窓の外の陽光が忌まわしい。
エースがキスをし、ユリウスも目を閉じた。

かくして、舞踏会はまた一つトラウマを残した。
そして時計塔では、常と変わらない怠惰な時間が続くのであった。



……………………
リク内容:エスユリ舞踏会、甘め(?)

リク完成が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます<(_ _)>

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