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■監獄ゲーム・下

「ぁ……」
後ろでジョーカーが何やらベッド脇に置いてあった瓶を取る気配がする。
数秒後、冷たくてぬめるものが入り口にぬりこめられる。
「い、いたっ!!」
「ほら、力抜いて。これからもっと大きいものが入るんだよ?」
なだめられるようにうなじに口付けられ、指が二本、三本と増やされていく。
「ここがいいんだっけ?」
「っ!!……あ……」
感じる部分を擦られ、自分の物とは思えない声が出る。
「ふふ。じゃあそろそろ行くよ」
指が抜かれ、圧迫感から解放されて一息ついたのも束の間。
「くっ……ああっ……」
痛みを伴うが、同時に待ちわびていたものが入り、痛みと快感の狭間でひたすらもがく。
「あー、やっぱりこっち向いてもらう方が良かったな。
そんなにシーツにばっかしがみついちゃってさ」
言うと、ジョーカーは動き出した。
「あっ……あぅ……ん……」
痛みは徐々に慣れ、違うものが思考を侵食し始める。
律動に意識が遠のきそうになり、ユリウスは与えられた快楽に集中する。
「おい、てめえの快感にだけ浸ってんじゃねえぞ」
「……ぇ……」
顔を上げると、もう一人のジョーカーが目の前にいた。
ベルトを外し、前を緩めると、すでに十分大きくなったモノを突きつける。
ユリウスはもう何も考えられない。
片手で貫かれる体を支え、もう片手でジョーカーのモノを持ち、口に含む。
「ん……ん……」
「ああ……クソ……何でてめえは……こんなに……」
「はは……いいねえ……ほんと……楽しいよ……」
前と後ろをジョーカーに支配され、何も考えられない。
誰もが目をそらす監獄の暗い所長室で、ユリウスは快楽にあえぐ。
「はあ……あ……」
ユリウスとジョーカーが同時に迎え、もう一人のジョーカーがユリウスの口内に放つ。
「はあ……あ……はあ……」
二人から解放され、シーツに倒れこむユリウス。しかし、
「おい、変われよ。ジョーカー。今度は俺が挿れるんだからよ」
「はは。じゃあ次は俺が前かな」
即座に場所を交代した二人のジョーカーは、再びユリウスの顎と腰を捕まえる。
「ちょっと……待て……お前ら……」
「監獄じゃ時間の経過なんて無意味さ。
君は働きすぎなんだから、もっと遊んでいきなよ、ユリウス」
「ま、俺は基本的にお前が嫌いだけどよ。
もう少しだけなら置いてやってもいいぜ」
ユリウスの抗議も聞く気など無いようで、二人は同時に挿入した。


満足した監獄の所長が去ると、後にはベッドで乱れた息を整えるユリウスと
苦虫かみつぶしたサーカスの団長が残った。
消耗したユリウスが起き上がる気力も無く横たわっていると、黒のジョーカーが
布と湯を張った水入れを持ってきて傍らに座る。
「…………?」
ジョーカーは、水おけの湯に垂らし、堅く絞る。
「ち、何で俺がてめえの後始末なんか……」
「いや、頼んでいないし、自分の体くらい自分で……」
「うるせえな!黙ってろ!」
なぜか逆ギレされた。
黒のジョーカーは乱暴に、だが無駄のない手つきでユリウスの体を清めはじめた。
されるがままになりながら、ユリウスは考える。
このジョーカーはなぜ会うたびに自分につっかかってくるのだろう。
そしてユリウスをあれほど嫌いながら、白のジョーカーの『参加要請』を断った
ことが一度もないのだろう。
時計屋はその鋭敏な頭で思考をめぐらせ、ほどなく答えを導き出す。
「…………なるほど」
「何だ?言えよ、言ってみろよ!!
駆け引きが苦手で頭の悪い俺が気に食わねえんだろ!喧嘩なら買うぜ!」
言われる前から喧嘩腰だ。
しかも七並べで負けたことをさりげなく引きずっている。
だがユリウスの体を拭く手は止めない。
好戦的な男だが、根は悪くないのだ。
「ジョーカー、気持ちは言わないと伝わらないぞ?」
「え……は?え、てめえ、何言って……」
露骨なくらい顔を赤くするジョーカー。
「こういうことをされても、私は困る。
好きなら好きとハッキリ言ったらどうだ」
「え……あ……その、いや、お、お前がそこまで、言ってほしいなら…。
いや、ええと。いや、俺は、その……俺は、お前が……」
黒のジョーカーは完全に狼狽している。だがユリウスは続けて冷静に、
「同じ顔の相方に恋心を抱く自分に戸惑うのは分かるが、
私に対して恋敵と苛立ちを向けるのは筋違――どうした?」
黒のジョーカーは深く深くうなだれていた。
「いや……何ていうか、もう、な……」
なぜかひどく意気消沈している。
恐らくは本心を突かれ、動揺したのだろうとユリウスは一人納得する。
「まあ、相手があんな奴では、惚れた欲目が入ったとて恋路が不安だろう。
だが、私とあいつは合意の関係ではないし、私なら喜んで引き下が――」
サーカスの団長は布を床に放り投げ、時計屋を抱きしめた。
そのまま再度ベッドに押し倒し、まだ熱さの残るユリウスの体に手を這わせる。
「ちょっと待て、ジョーカー。図星をさされ八つ当たりをするのは子供だぞ!」
「ああ、もう何かもうどうでもいいから黙れ」
黒のジョーカーは深く口付け、ユリウスの抵抗を封じた。

監獄の爛れた空気は未だに晴れない。

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