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■装う話・中

※R15
※エース視点

窓の外は夜になっている。
「うわっ!」
床に背中をぶつけ、突き飛ばされたのだと気づく。
シャワーを浴び、部屋に入るなり、ユリウスが乱暴に自分を突き飛ばしたのだ。
散乱した本や書類、仕事道具が横に見え、自分の傷も痛い。
「何するんだよ、ユリウス!」
養い親に、形だけは抗議しておいた。
そうすれば後で罪悪感に苦しむ姿を楽しめるからだ。
「うるさいっ!」
ユリウスはそう言って、仰向けになった自分の上に、馬乗りになる。
心のどこかで、うっすら笑う自分がいる。
顔無し程度に襲われたのは屈辱だけど、こうしてユリウスの気を引く材料になったと
思えば悪くはない。

養い親と身体の関係が出来て、どれくらい経つだろうか。
ただし向こうはこちらが嫌がっていると思い込み、頻繁に罪悪感にかられてくれる。
でもこちらは、さしてどうも思っていない。
あえて言えば――嬉しい。
でもそれを教えようと教えまいと、ユリウスが罪悪感に苦しむことには変わりないだろう。
だから行為の際は、向こうがより苦しむように、嫌がる演技をすることにしている。

「嫌だよ!止めてくれよ!」
もがくが、あちらの両足で、しっかりとこっちの下半身を押さえつけられる。
力ではかなわないと分かっているだろうに、わざわざ押さえつけるのが悪い大人だ。
「痛い!嫌だよ!今夜だけは止めてくれよ……」
手首をにぎられ、痛いのは本当だ。これは上手い演技が出来たかも知れない。
「エースっ!」
抱きしめられ、口づけられる。ねじこむように舌が入り、口内を荒らされる。
「ん……っ……」
口の傷にユリウスの舌が触れ、鈍い痛みに声が出る。
するとユリウスはハッとしたように顔を離し、慌てて、
「す、すまん。痛かったか?」
養い子に手を出そうとしておいて、まだそんなことを言っている。
「ん……大丈夫。だからもう一回、キスしてくれよ……。
あいつらは、そんなことは絶対にしなかったし」
「…………」
言葉は功を奏し、ユリウスはまた自分に覆い被さり、唇を求めてくる。
乱暴だが、今度は傷に触れてこない。
「……ん……」
腰から、時計屋の手が入り込み、腹を、胸をまさぐってくる。
荒れた手が少し痛い。だが傷の部分は上手く避ける。
傷のあった箇所を、よく正確に覚えているものだ。
「あいつらに、何をされた?」
好きなだけ口内を荒らし、ユリウスがゆっくりと聞いてくる。
だから怯えた声を作り、
「い、嫌だよ。話したくないよ。そんなこと、思い出させないでくれよ……」
涙さえ浮かべ、首を振る。もしかすると自分は本心で、そう言ったかもしれない。
だがこれだけユリウスの気を引けるネタ、そうそうあるものではない。
「……話せ」
ユリウスの目が怖い。嫉妬が半分、罪悪感がその半分。残りは何だろう。
「エース」
引き延ばしたくとも、内心で怒り狂っているだろう時計屋の目が許さない。
床に張りつけにされたような格好で、震え声で話した。
「……お、追いかけられて、囲まれて……抵抗したら、殴られて……」
ユリウスの手が、頬を撫でる。その手は優しい。だが、
「それで?」
「抵抗は止めたけど縛られて、それから……それから、一人ずつ……」
それ以上はあえて語らず、言葉に出来ない、という風を装ってみる。
「分かった……辛かったな」
ユリウスが覆い被さった姿勢のまま、抱きしめてくれる。
「…………」
優しさに浸っていたいが……養い親の下半身は、反応し始めている。
いったい何を想像して盛っているんだか。
ジェリコに頼んで彼女でも紹介してもらった方がいいんじゃないだろうか。
もっとも、本当にそんな女が出来たら、森に連れ出して始末してしまいそうだが。
「……エース……」
手首をつかまれ、無理矢理、彼の×××に導かれる。
「ユリウス!言ってることとやってることがバラバラじゃないか!
何で俺にこんなことさせるんだよ……!」
強制的に扱かされ、涙声で言ってやる。案の定、養い親はハッとした顔になる。
だが手首を放そうとしない。逆に押しつけるようにする。
「エース……私は……」
苦しそうな顔だ。理性と欲望のはざまで、本気で苦悩しているみたいだ。
素直に、見つけたときの姿やマワされた話に欲情しました、と認めればいいのに。
まあ、逆に開き直って堂々と襲われても、それはそれで斬ってしまいそうだけど。
内心の笑いは隠し、養い親に抵抗出来ない、子供の引きつり笑顔を作る。
「……や、やるよ。ユリウスがしろって言うなら、やるよ。
言う通りにすれば、俺を捨てないんだろう?」
「――っ!」
ユリウスの目に正気がやや戻る。一瞬、やりすぎたかと内心で慌てるが、
「エース……っ!」
さっき以上の力で抱きしめられ、口づけられる。
「……ん……んぅ……っ……」
首を振っても、もがいても、時計屋の力にはかなわない。
だが深く強く押しつけられる唇に、相手の傷の深さを知って満足した。

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