続き→ トップへ 短編目次 ■監獄ゲーム・上 ※R18 監獄の闇は深い。陰鬱で冷涼な空気が流れ、壊れた玩具たちが散らかっている。 その最奥で、サーカスの団長と監獄の所長、時間の番人が顔をつきあわせていた。 「次は俺だね、ハートのキング。ふふ、実物よりも立派な柄だ」 監獄の所長が笑い、芝居がかった仕草で絵札をテーブルに放る。 カードは意思を持ったもののようになめらかに動き、定位置でピタリと止まる。 「ジョーカー、てめえ……」 対するサーカスの団長はギリリと歯噛みし、所長をにらみつける。 今は物腰柔らかな白のジョーカーが監獄の所長だ。 そして粗暴な黒のジョーカーがサーカスの団長の姿をしている。 ユリウスは監獄の制服のまま、足を組みポーカーフェイスを保っている。 サーカスの団長はユリウスに 「と、時計屋。お前は、出すよな……?今度こそ、出してくれるよな?」 「フン、よりにもよってお前に懇願されるときが来ようとはな」 「ふふ。余裕を失ったジョーカーは小物みたいだね、見苦しいよ」 「うるせえ!」 凶暴に吼える黒のジョーカー。だが一抹の希望を目にユリウスの動きを見る。 だがユリウスは優雅にカードを定められた場所に放る。 「ハートのエース。実物と同じく愚にもつかんカードだ」 「畜生ーーーっ!!この×××××どもが!!」 「ははは。口が悪いな、ジョーカー、またパスする?」 「………………する」 「カードゲームなのにお前は表情を出しすぎだ、ジョーカー。もう少し冷静に……」 「うるせえ、時計屋っ!!」 かみつかれそうな勢いで怒鳴られる。 「最初から不利だったんだ……陥れられたんだ、俺は」 黒いジョーカーはうつむいて肩をふるわせる。白いジョーカーは笑いながら、 「おいおいジョーカー。俺はカードに小細工なんてしてないよ。 全ては運命の采配さ。俺たちのツキがいいのも、君が負け――」 「やかましい、ジョーカー!そもそもお前らが……」 そしてサーカスの団長は監獄に叫ぶ。 「お前らが6と8を止めてるのが悪いんだろうっ!!」 七並べ。 そもそも監獄で男三人、『七並べ』に至った理由がユリウスにもよく分からない。 監獄に仕事に来たユリウスは、帰りに白のジョーカーに襲われそうになった。 ……白のジョーカーと体の関係を持ってそれなりの時が経つ。 いつ、なぜ関係を持つにいたったかは、覚えていない。 思い出したくも無ければ、記憶が思い出すことを頑として拒む。 合意の関係ではないことだけは確かだ。ともかく、白のジョーカーに気に入られて いるユリウスは監獄に来るたびに狙われることが多かった。 そして、抵抗するうちに、仕事で監獄にいたらしい黒い方が監獄で騒ぐなと乱入。 そのまま逃げられるかと期待したが、黒のジョーカーは二人にカードを突き出した。 「お前らが勝ったら勝手に続きをしてろ! だが俺が勝ったら、監獄でイチャつくのは二度と止めてもらう!」 ……まるでユリウスと白のジョーカーが合意のような言い方だ。 不愉快極まりないが、上手く行けば手を出される機会は激減するはずだ。 ユリウスは同意し、白のジョーカーも面白そうだと承諾して、ゲームが決まった。 だが今度は何のカードゲームをするかで揉めた。 クローバー&ハートやブラックジャックは定番すぎてつまらないと黒のジョーカー。 ババ抜きか神経衰弱でいいんじゃないかと、呑気に白のジョーカー。 児戯過ぎる、ポーカーにしよう、とユリウス。 その後、論争の末、消去法に消去法を重ね、なぜか七並べに落ち着き、現在に至る。 なぜ8と6がユリウスと白のジョーカーに集中したのか。 理由を誰も知ることは無い――ちなみにカードを切ったのは白のジョーカーだが。 1/3 続き→ トップへ 短編目次 |