続き→ トップへ 短編目次 ■緋と藍の時間5 ※R18 バスルームに湯けむりが上る。 狭いが、どこか心地良い場所だと思う。懐かしいとさえ思える。 ……だが、なぜ懐かしいのか、深く考える余裕もなかった。 「13、14……っ……!」 深く突き上げられ、痛みか快感か分からない何かで、言葉につまる。そして、 「またつっかえたぜ。ユリウス。やり直しだ」 笑い声はもちろん騎士だ。自分たちは互いに服を着ていない。 あれから、情事の汚れを落とす、と称してこのバスルームにつれてこられたのだ。 ……もちろん汚れを落とすどころか、余計に汚されている最中だ。 長い髪の先が湯に浸かっている。後でまた洗わないといけない。 背後からユリウスを苛む騎士は、ユリウスに浴槽のふちをつかませ、笑っている。 「ほら、じゃ、また1から数え直しだ。ちゃんと30は湯につからないとな」 「このっ……」 自分の苦痛を嘲笑されたようでカッとなるが、大きな相手には逆らえない。 仕方なく浴槽のふちをつかみ、相手に後ろを突き出すようにする。 「いい子だ」 「……っ……」 騎士の大きな手が自分の腰をつかみ、自分の内におさまる××が動きを再開する。 「ユリウス。早くしないと、俺が先にイッちゃうぜ?そうなったら――」 どうなろうと知ったことではない。 だが、バスルームで苛まれるより、悪いことになるとは容易に想像がついた。 「1、2……」 屈辱を押し殺し、従順に数え始めた。 何度も数え間違い、湯に浸かっていない上半身は冷え切っている。 騎士の言うとおりにして、奴を少しでも早く満足させるしかない。 「5、6……っ」 下半身にゾクリとする快感を抱き、また数が止まる。 そして呆れたような声が、 「ユリウス〜、感じすぎだろ?俺がちょっと弄っただけでさ」 「ち、違う……っ」 カッと頬を熱くして騎士の言葉を否定する。 「そう?ほら、見てみろよ」 濡れた藍の髪を引っ張られた。 「っ!」 内を支配され、抱きしめられたまま、強引に起き上がらされる。 だが苦痛にうめく間もなく、視界に見たくないものが入ってくる。 「でかいときだって、こんなに敏感じゃなかったのにさ」 「止め……ろ……」 騎士の言葉の意味が分からない。 だが羞恥で顔が、これ以上にないほど真っ赤になるのが分かる。 「ほら、目を開けてちゃんと見ろよ。でないと、もっと悪戯するぜ?」 「…………っ」 唇を噛み、目を開ける。 目の前には浴室の鏡。映されたのは、騎士の腕に捕らわれた小さい自分の身体。 だが騎士に弄られている前は……どう目をそらしても、反応しているのが分かる。 「っ……」 「ユリウスは可愛いよな。小さくなっても可愛い」 数を数えさせる遊戯には飽きたらしい。 うなじに口づけられ、前を悪戯される。緩慢に腰も動かしながら。 「ん……や……」 「そんな声出すなよ、ユリウス……ひどくしたいのに、出来なくなるぜ……」 騎士の声も熱を帯びてくる。 いつしか湯冷めの寒さは遠ざかっていた。 「ん……やあ……ぁ……」 「ユリウス……もっと、声、出してくれよ……俺……」 「ああ、……ん……――――……」 動くたびにバシャバシャと湯がはねる。 先走りのものが自分の前からこぼれ、騎士の手を汚すのが分かる。 「あはは。汚れを落とすつもりが、余計に汚れたな」 「…………」 騎士が自分と同じ事を考えていることに、フッと奇妙な感覚を抱く。 道化たちに捕らわれていたときは、絶対になかったことだ。 「…………」 騎士が動きを止める。 「……?」 ユリウスは騎士の腕の中で、気まずく身じろぎする。 別に欲しいわけではない。断じて。だが何か変な行為を始めるなら早くしてほしい。 また湯冷めして身体が冷えてしまう。 「ユリウス、今、笑ったよな……」 「?」 そんな馬鹿なことがあるわけない。 サーカスの裏で目を開けてから、一度も笑ったことはない。 だが騎士は、自分たちが映る鏡をじっと見ている。 鏡に映る騎士は驚いたような表情をしていた。 「……別に……笑ってなど、いない……」 ユリウスはそれだけ、やっと言った。どう言葉を続ければいいか分からなかった。 「……っ」 そして、騎士がふいに腕を放す。 「!」 支えを失い、ユリウスは慌てて浴槽の縁をつかむ。 だが振り返る間もなく、 「ユリウス……!……」 「……ぁ……っ」 遊んでいた先刻の比では無い勢いで、動き出した。 「あ……ぁ……っ……っ」 なぜ騎士の様子が急に変わったのかは分からない。 だが、騎士の熱が自分にも移ったのだろうか。 灼熱の塊を何度も打ち付けられ、思考はすぐに快楽で埋まってしまう。 「ユリウス、ユリウス……っ」 「――、ぁ、ああ……」 浴槽をつかむ手が、力が入りすぎて白い。 つながった箇所から卑猥な音が響き、湯がさらにはねる。 感じたことのない熱い波が何度も押し寄せ、自分でもおかしいほどの声が出た。 「ユリウス……」 「ん、ああ、あ……っ」 「ユリウス、名前を……!」 どこか切羽詰まったような声で、騎士が言う。 「なま、え……?」 何のことかと鏡越しに騎士を見た。 「俺の、名前……」 「……っ……」 さらに何度か責められ、限界の思考の中で考える。 この騎士の名前……名乗られただろうか。そうである気もするし、ない気もする。 だがどっちにしろ、覚えていない。 「あ……っ……」 ユリウスに叩きつけながら、騎士は待っているようだった。 手も激しくこちらの身体をまさぐり、反応を促している。 ――変な奴……。 「名前を、呼んでくれよ……」 そう言われても、思い出せるわけがない。 思い出せるわけが……。 「……エース」 フッと、そんな名が口から出た。 5/10 続き→ トップへ 短編目次 |