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■ダイヤの国のユリウス・上

※発売前の情報を元にした、BL妄想です。(・ω・)
※オール捏造。起承転結はありません。<(_ _)>


…………


その1:墓守と時計屋

――静かだ……。
時計屋ユリウスは、時計を修理している。
ここは墓守領の仮宿で、ユリウス一人しかいない。面倒を見ている子供は迷子だ。
すなわち、今は自分を煩わせるものは何も無い。
――この静謐(せいひつ)が永遠に続けばいい。
ユリウスはただ願う。一人が好きだ。
誰にも会うことなく、己が身が朽ち果てるまで、孤独でいたい。

そして、部屋の扉がバタンと開く。
「時計屋!」
扉の入り口に、屈強な墓守の姿があらわれた。
ユリウスはジロリと扉を見、無言で指をはじく。
すると扉が魔法のように、バタンと閉まり、忌々しい墓守の姿も消してくれた。

だがそれも一瞬。
「おい、ふざけるな!」
そしてまた、バタンと開いた。やはり墓守だ。無理矢理こじ開けたのだろう。
認めるのは屈辱だが、ここはこの男の領土。ユリウスの力では何も出来ない。
墓守はランタン付きのシャベルを担ぎ直しながら、大股に近づいてくる。
「いいから出かけるぞ、時計屋。たまには陽光を浴びろ。カビが生える」
「カビなど生えるか!……おい、汚れたシャベルを室内に持ち込むな!!」
精密機械の時計に砂でも入ったら……と、ユリウスは眉をひそめて抗議した。だが、
「ん?かまってもらえなくて寂しかったか?」
無神経な墓守は、ユリウスの傍らに立つ。
「時計屋。出迎えもしない、冷たいおまえも悪くない」
「痛……」
そして乱暴に腕をつかまれ、無理やり注意を向けさせられた。
顎を持ち上げられ、顔が痛い。
「おい、いい加減に人の話を……ん――」
抗議の言葉は、強引な口づけに封じられる。


――おい!汚れた手で私の髪をつかむな!というかシャベルは床に置け!!
ほんのわずかな間だけ頭が真っ白になっていたが、すぐに正気に戻る。
どこかの白いウサギではないが、土の臭いが心底から嫌だ。
それが墓場の土と思うと、さらに吐き気がする。
時計の内部に土が入らないか本気で心配だし、汚れた絨毯も掃除してもらいたい。
だが、抗議の言葉は山ほどあれど、墓守でマフィアのボスで、無駄に力が強い。
「舌を出せ、時計屋。はは。可愛いな、おまえは」
「ん……ん……っ!!」
逆に、遊ばれるように髪に触られた。
汚れた手で頬に触れられ、泥がついたことに嫌悪感が走る。
「ん……ぅ……」
だが感情と裏腹に、なぜかユリウスは、身体の熱が上がっていくのを感じた。
気がつくと、墓守の好きなように、何度も何度も、口づけられていた。
「ん……ん……」
汚れていると嫌悪した墓守を、自分から抱きしめていた。


「…………」
やがて、気が済んだのか、墓守がゆっくりと離れる。
唾液がいやらしく糸を引くが、なぜかぬぐう気にもなれない。
「時計屋?……おい、大丈夫か?そんなに激しくしたつもりはないんだがな」
ぐったりしたユリウスを見下ろし、墓守は笑ってユリウスの唇をぬぐった。
……その指にも土の汚れが少し残っているので、きれいになるどころか、その反対なのだが。
しかし、抗議する気になれない。
そして墓守は頓着せず、ユリウスの長い髪に指をもぐりこませ、顔を近づけた。
「悪いな、汚した。おまえに会いたくて、焦ったかもしれない」
「いや……」
見つめられるとなぜか頬が熱い。
目を細め、ジェリコが何度も自分の髪をすくのが分かる。
そして耳元で低く囁かれる。
「シャワー、一緒に入るか?」
「……ああ」
自分は汚れているから仕方がない。仕方がないんだ、と己に言い聞かせる。
「時計屋。疲れた領主を、労ってくれるよな?」
もう一度ユリウスに口づけ、墓守が言う。
「…………ああ」
自分の意思では無い。この男が、間借りしている領土の領主だからだ。
応じる理由は他にない。
ユリウスはそう思うことにした。
そしてユリウスは腕を取られ、浴室にずるずると引っ張られていった。


その2:暗殺者は見た

こんな悪夢のような経験をするのは、女だけかと思っていた。
「おい!止め……っ!」
時計屋ユリウスは怒鳴りそうになり、慌てて口を押さえる。
そして隣をうかがい、変わらずに寝息が聞こえていることを確認し、安堵の息をつく。
だが頭上の男は、ユリウスほどに気遣いの精神はないらしい。
「大声を出したって、聞こえやしないさ。その子は強い薬を飲んでるんだぞ?」
絨毯に自分を押し倒しながら、墓守が言う。
墓守だが、今はエセくさい館長のスーツ姿だ。
眼鏡までかけ、いつもの薄汚い墓守とは、別人のようだ。
「それなら、せめて別の場所で……!」
大柄な墓守を押し返そうと、腕にギリギリ力を入れるが、墓守は全く介していない。
「そう嫌がるな。本当はおまえも興奮しているんだろう?」
「誰が……っ!!」
墓守は、いいようにユリウスを床に押さえつけ、服に手をかけようとしている。


墓守領の美術館の一室。その部屋で大の男が二人、絨毯の上で争っていた。
そして、かたわらのソファには銀髪眼帯の少年。
墓守のコートを布団代わりにかけ、すやすやと寝ていた。
権力者でもあるこの少年夢魔は、多忙な公務から逃げ、美術館に遊びに来ていた。
だが、気分を悪くしてしまい、応急処置で薬を処方された。その薬に眠気を喚起する
成分が入っていたのか、容態は落ち着いたものの、代わりに深い眠りに落ちている。
そしてたまたま現場に居合わせたユリウスは、美術館館長に押し倒された。

「ジェリコ!非常識にもほどがあるだろう!」
両腕を押さえつけられながら抗議するが、
「時計屋。俺はいちおう、マフィアのボスでもあるんだぞ?
マフィアのボスに常識を説かれてもなあ……」
それはそうだが、論点が全く違う。
「いい加減にしろ……この×××××……!!」
服の中に手を忍ばせようとする墓守に、ユリウスは怒鳴る。
しかし墓守は気を悪くした様子もなく、笑った。
「おまえこそ、常識が飛んでいるぞ、時計屋。
俺は美術館館長という学のある肩書きだ。少しは敬意を持ったらどうだ?」
眼鏡をワザとらしくかけなおし、墓守が笑う。
――都合良く、名乗る肩書きを変えるな!!
怒鳴りたいが、すでに声にならない。墓守はやはり笑い、
「三つの肩書きなんぞ持つと、休憩らしい休憩も取れないからな。
暇があるときに、抜かせてもらうぞ」
――何をだ……。
だがベルトに手をかけられ、ユリウスは内心で少年にわびるしかなかった。

――それはそうと……。

抵抗をあきらめ、無力に天井を仰ぎながらユリウスは思う。

……天井の板が少しズレている気がする。
そしてその隙間から、誰かがこちらを見ているような気がするのだ。
思い当たる存在がいないでもない。

――機会を見て『回収』する予定のはずが、出るに出られなくなったのか?

なぜかそんなことを考え、その可能性にゾクリとする。
――ち、違う!あれは天井工事のミスだ!誰もいない!見られていない!!
だがやはり視線を感じる。あれは絶対に……。
と思っていると、下半身にひやりとした外気を感じる。
「どうした?ずいぶんと興奮しているみたいじゃないか。
な、たまにはこんなシチュエーションもいいだろう?」
こちらのズボンを下着ごと下ろしながら、墓守は笑った。
だが墓守は隣で熟睡する子供ではなく――天井の方を見た気がする。
――おい、ちょっと待て!おまえも気づいてるのか!?
だが墓守はユリウスを強く抱きしめる。
「時計屋」
下半身に触れられ、抱きしめられ、口づけを受けながら、ユリウスは必死にねじる。
――た、頼む。どこかに消えてくれ!!男同士の情事なんて見て、どうするんだ!!
ろくに会話したこともない天井裏の住人に、必死に祈った。


しかしまあ、その後、何度も貫かれ、叫ばされ、果て、汚された一部始終。
視線が途切れることは一秒たりとも無かった……。

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