続き→ トップへ 短編目次

■時計と麦の穂7

※R18

時計塔の作業場には、よどんだ雄の臭気が広がる。
「時計屋……ユリウス……っ!!」
腰を抱え、揺さぶりながら三月ウサギは叫ぶ。
――最初から、一度も通じ合ったことはなかった……。
奥深くに埋め込まれ、白濁したものを何度も吐き出され、ユリウスは力なく思う。
もう全身の戒めは解かれたが、なぜか反撃する気も逃げる気も起こらない。
代わりに三月ウサギの身体に腕を回し、何度も口づけを求めた。
「ああ……っ……」
絡む舌、つながった唾液が光り、また貪るように互いの唇が重なる。
時計塔の床は汗と白濁した液、それに血が混ざり合ってひどい状態になっている。
だが互いにそれを頓着せず、結合を深めては互いに求め合った。
「あ……はあ……っ」
内を抉られ、潤滑油と体液で苦痛も失せ、熱を打ち込まれるままに声を上げる。
「エリオット……っ……!」
だがどれだけ快楽でごまかされても、譲れはしない。
「時計は、必ず渡してもらう……っ」
「あんたを……殺す……!」
愛をささやくように、エリオットも言う。

「もう一緒にはいられねえ。だが、俺がいなくなって……他の奴のものになるなんて
俺は絶対に許さねえっ!!」

さらに激しく最奥を貫き、深く揺さぶりながら続ける。
「苦しむだけ苦しめて、あんたの中を、俺への憎しみでいっぱいにして……殺してやる……!」
――本当に『三月ウサギ』は狂っているな……。
快楽に浮かされながら、ユリウスはどこかそう思う。
――だが、私も、殺されるつもりはない。相手がおまえなら、なおさら……っ!
「時計屋……ユリウス……好きだ……っ!」
白濁した大量のものが内に放たれる。
「あ、ああ……エリオット……っ――っ!!」
そして、最後の絶頂とともに、ユリウスは三月ウサギの名を叫んだ。


…………

…………


あれから、どれだけ時間帯が経っただろうか。
牢獄の奥の三月ウサギは、鎖に首を拘束されている。
そして死んだような目で、鉄格子の外にいるユリウスを見た。
「で?あんたはお強い処刑人を、どうやって手に入れたんだ?
やっぱり身体か?××をしゃぶったのか?」
「おまえは時計を渡すことを拒んだばかりか、時計を破壊した。
その大罪は、一万時間帯の刑期を持って償ってもらう」
看守服を着たユリウスは、挑発には一切応じず、冷酷に言う。
「俺が馬鹿だったぜ……葬儀屋なんかに一時期でも気を許した俺がな……」
三月ウサギは自嘲気味に呟き、それから牢の床を見る。

――おまえが愚かではなかったことなど、あるのか?

せめてもの反撃をしようかとも思ったが、もう三月ウサギは遠くを見ている。
ユリウスの言葉は届かないだろう。
だからユリウスも背を向ける。
時計はついにユリウスの手に渡ることなく破壊された。
そして、新たに入った部下の手により、三月ウサギは捕らえられた。
今、牢獄に入った三月ウサギは管轄が別の者に移っている。
もはやユリウスに、三月ウサギへの興味は微塵もない。
あれはほんの少しばかり時計が狂っただけだ。
二度と互いの時間が交わることはない。

「……殺す」

呪詛のようにかけられた言葉に、ユリウスは足を止めた。
振り向くと、三月ウサギが鉄格子の向こうから、こちらを見ていた。
もう永久に光を宿すことはないと思っていた瞳に、怨念の暗い炎が見える。

「あんただけは、俺が必ず殺す……誰にも渡さねえ……」

「一万時間帯後にまた言うことだ」
素っ気なく答え、ユリウスは今度こそ背を向ける。
「本当に最低な男だぜ、時計野郎……」
独り言のように三月ウサギが小さく呟くのが聞こえた。
「俺を夢中にさせるだけさせて、何をしても俺を見やしねえ。
いつもいつも覚めた目ぇして、仕事以外、眼中にねえ。
俺が出て行くと言ったときだって……表情を変えも、引き止めもしなかった」
「……っ!」
ユリウスは足を止め、目をかすかに見ひらく。
胸の時計を、鋭い何かが切り裂いた気がした。
「…………」
だがそれもほんの数秒のことだった。
ユリウスはすぐに歩みを再開し、監獄を後にする。
胸を切り裂く痛みを自覚しないようにしながら。

「殺す……必ず殺してやる……二度と、俺以外を見られないように……」

どこまでも追いかける三月ウサギの呟きを、遠くに聞きながら。

7/7

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -