続き→ トップへ 短編目次

■時計と麦の穂6

※R18

時計塔の作業場に、苦痛の叫びが響く。
「止めろ……エリオット……!!ぐっ…出せ……っ!!」
しかし己の××を後ろにねじこみ、律動を開始する三月ウサギは、
「ああ、そうだ。もっと泣きわめいて叫べよ。
みっともなく、止めて下さいって哀願してみろよ」
酷薄に言い放ち、さらに奥にねじこむべく、腰を進める。
「やめろ、やめてくれ……痛っ……ああ……っ!!」
全身がおかしくなるほど、強く貫かれ、時計屋の矜持も何もかもかなぐり捨て、望み
どおりに泣き叫ぶが、それで三月ウサギの行為が止まるわけがない。
「ああ、その顔……声……興奮するな……くそっ……」
こちらの苦痛の声に笑みさえ浮かべ、さらに結合が深くなるよう、奥を貫いた。
――おまえなど、絶対に……
その先は痛みにまぎれ、言葉にならない。
だが視界の端で、彼の友人の時計が、悲しげに月光を反射した気がした。


月明かりが変わらずに室内に差し込む。
夜の時間帯が続いているのかもしれない。
「ああ、はあ……く……」
もう罵声を吐く力もなく、ユリウスは揺さぶられる苦痛を何とか受け流そうとした。
「いい……すげえ……ああ……あ……」
三月ウサギからは汗がしたたり、同様に汗ばんだユリウスの身体に跳ねる。

――熱い……な……。

どこかで思う。ユリウスに苦痛を与えることだけが目的のはずなのに、貫かれ、声を
耳にするたびに、どこか身体の奥深く、冷え切っているはずの己の時計が熱くなる。
エリオットも気づいたらしい。
「おまえ……おかしいんじゃねえか……?」
こちらを貫きながら汗をひとしずく流し、手を伸ばしてユリウスの××をつかむ。
「あ……――っ!」
苦痛で完全に萎えていたはずのそれは、いつのまにか熱を取り戻し、エリオットの
手の中で、また育ち始めていた。エリオットは唇の端を嘲りの形に持ち上げ、
「この変態野郎……やっぱり……ずっと思ってたんだ……絶対に××だってな……」
「違う……私は……ぁ……っ!!」
ひときわ強く扱かれ、奥に打ちつけられ、ビクンと背がしなる。
「なのに、目が離せなかった……なんで……何で、あんたなんだ……っ!」
××から手を離され、腰をつかまれ、さらに結合を深められる。
「エリオ……っあ……ああ……っ」
根元まで埋め込まれ、それで興奮する己がいる。
「時計屋……あっ……くそ……っ」
エリオットはさらに動きを速め、全てを振り捨てたように求めてくる。
「もっと……おまえが……」
「ああ……っ……」
何も分からない。自分の役も、目の前の男も、何もかも。
「ユリウス……っ……!」
本当に小さく、名を呼ばれた気がした。
その瞬間、内側に経験したことのない感触――何かが大量に放たれるのを感じた。
「――っ!!」
そして自分自身も、その感触を受け、声にならない声を上げて達した。

「はあ、はあ……」
「ん……」
胸板を上下させて息を整える自分と、最後の残滓まで内に搾り出し、やっと力を抜く
三月ウサギ。同時に時間帯が変わり、窓の外が昼になった。
どこか澄み切った静けさの中、ユリウスとエリオットは少しの間見つめ合う。
そして互いに目を閉じ、唇を重ねた。
「あんたが、好きだ……」
「…………」
ユリウスは返答をしない。ただ横目で、遠くに転がった時計を見ていた。

…………

…………

――蜜月が続いたのは、何十時間帯だった?

そして今、縛られ、床に転がされながらユリウスは思う。
「あんたが悪いんだ……友達の時計のことをいつまでも、しつこく言うから……」
「…………」
そう言われては確かにその通りかもしれない。


しばらくは上手く行くように見えた。三月ウサギは時計塔に住みながらマフィアの
仕事も両立し、塔に帰れば身体を求めてくる。
だが優しく抱かれようと乱暴に抱かれようと、ユリウスは三月ウサギが隠し持つ
時計のことが常に頭にあった。折に触れては時計の譲渡を要求し、暴力で返された
ことも一度や二度ではない。
だからといって忘れることは出来なかったし、見逃す気もなかった。
「『でも、なぜ今……』って顔してるな。
俺だって、ずっと今の関係を続けても良かったけどよ。
だって、あんたは部下もいない。俺の時計がいくら欲しくても取れねえだろ?」
……悔しいが、三月ウサギの言葉は間違っていない。
だが、時計を秘匿し、時間の正常な進行を妨げるのは、世界の理に反する。
時計屋として、決してそれを見逃すことは出来なかった。
「やっぱり、ヤクザもんの俺とは合わねえよな……あんた、クソ真面目すぎるしな」
ユリウスにのしかかりながらエリオットは自嘲気味に笑う。
「ブラッドさんがな。帽子屋屋敷に住めって、最近言ってくるんだ。俺もマフィアの
2として重宝してもらってるし、やっぱり拠点を移した方がいいと思ってさ」
要は時計塔を引き払い、役持ち同士の奇妙な同居生活を終わらせるということか。
ブラッド=デュプレは時計屋の敵だ。
こんな関係が容認されていたこと自体が奇跡だったのだ。
胸の奥の鋭い痛みを無視し、ユリウスは三月ウサギを睨む。
三月ウサギはそのあごをつかみ、骨がきしむほど手に力をこめると……三月ウサギは、
苦痛に歪むユリウスに顔を近づけ、
「でも、あんたは、俺無しじゃ生きていけねえだろ?」
「――っ!!」
そんなワケがあるか。自惚れもたいがいにしろ!
そう怒鳴りたかったが声を封じられ、言葉には出来ない。
「時計屋……あんたが好きだ……」
そう言って、三月ウサギは、布の上からユリウスにキスをした。

6/7

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -