続き→ トップへ 短編目次 ■時計と麦の穂4 ※R15 作業場の窓からは、昼の陽光が差し込んでいる。 ユリウスは抑えた声で、背後の三月ウサギに言った。 「止めろ、三月ウサギ……私は修理中だ……っ」 「反応してるのはあんただろ?一流の職人なら、誘惑には屈しないもんだぜ?」 「誘惑など……っ」 「あーあ。まだそんなにやってねえのに、もう零してよ」 ユリウスは顔を紅潮させ、時計修理に集中しようとする。 だがズボンは膝下まで下ろされ、三月ウサギに手を回され、刺激されている。 そして、ふいに楽しそうな声で三月ウサギが言った。 「なあ、その時計に『あんたの』、ぶっかけてみねえ?興奮するぜ?」 「――っ!同じことをもう一度言ってみろっ!!」 激怒して叫ぶ。時計への、時計屋とその仕事への重大な冒涜だ! だが三月ウサギはこたえた様子もない。 「何で怒るんだ?元々汚れてる時計だ。いいじゃねえか」 そう言って、なおも手を上下させ、ユリウスの××を刺激する。 「ん……く……っ」 三月ウサギの手にすっかりなじんでしまったソレは、ユリウスの心の悲鳴に反して、 成長し続けていた。 「あ……ああ……」 高まる快楽にドライバーを持つ手も震え、修理などとうてい続けられない。 「あんた時計屋なんだろ?役に忠実なら、どんな状況でも修理するもんだぜ?」 「……っ!」 煽られ、カッとなり、意地でも続けようと、ユリウスは時計に手を伸ばした。 だが、つかもうとしたソレを、目の前でひょいっと三月ウサギに取られる。 「おまえ、何を……――!」 その瞬間に強く刺激され、声を上げて達する。 「く……」 絶頂感で放心したユリウスは、三月ウサギの笑い声を耳にし、目を見ひらいた。 三月ウサギが見せつけてきたのは、白濁した液体のかかった時計……っ。 「すげえな……完全にぶっかかった」 「……貴様……っ」 「おいおい、俺に怒るなよ。俺じゃねえ。あんたのがかかってるんだぜ?」 と、時計をさらに見せつけた。ユリウスはそれから目をそらし、 「おまえは……いったい、何をしたいんだ……っ」 性的な不満が強いなら女を買いに行けばいい。 いや、マフィアの2なら向こうから勝手によってくるだろう。 何だって男の自分に悪質に絡んでくる。 すると、しばらく沈黙があった。 そして三月ウサギが言う。 「もしかしたら……あんたが嫌いだから、なのかもな」 「――っ!!」 そして三月ウサギは穢れた時計を机に乱暴に放る。 それは白い体液を机の上にまき散らし、転がって動かなくなった。 ユリウスが虚ろな瞳でそれを眺めていると、三月ウサギはマフラーを締め直す。 「じゃ、仕事に行ってくる。いい加減にファミリーに貢献しねえとブラッドさんに 忘れられそうだからな。じゃ、帰りに美味いニンジンブレッドを買ってくるぜ」 と笑い、三月ウサギは扉から出て行った。 『あんたが嫌いだから、なのかもな』 男に嫌がらせをする、最低なウサギのはずなのに、なぜかその言葉が頭を離れない。 ――イヤなら、出て行けばいいだろう。 なのに、なぜ……。 ユリウスは拳をふるわせた。 どこからか嗚咽が聞こえる。それが自分のものだと、ユリウスは気づいた。 そして作業台に顔を伏せ、ユリウスは一人、いつまでも嗚咽していた。 三月ウサギの親友が殺されたのは、そのときの抗争のことだったらしい。 ………… 「畜生……畜生っ!!」 作業場はひどい惨状だった。 壁には穴が開き、メモはむしり取られ、床には散乱したものが散らばっている。 修理した時計は故意か偶然か、次々に踏みつけられ、また動かなくなっていく。 だがユリウスは止めることも出来ず、床に座っていた。 三月ウサギの狂乱を、虚ろな目で見ていた。 「畜生……っ敵対組織の奴ら……っ!!」 三月ウサギがまた壁を殴り、大きな穴を開ける。 しかし逆の手には時計が握られていた。 血にまみれた、確かに壊れた時計が。 それを修理出来るのは、この世界唯一の時計屋の自分だけだ。 「許せねえ……死ぬよりマシっていう拷問をして、硫×××に生きたままぶち込んだ けど、まだおさまらねえ……もっと苦しめて殺すんだった……!」 恐ろしいことを言い、床にこぶしを叩きつけ、それからやっと止まる。 ――私が死んでも、ここまで荒れることはないのだろうな。 どこか自虐的にそう思い、ユリウスは言った。 「おい。私が、その時計を……」 最後まで言い終える前に横っ面を殴られた。 「ぐ……っ」 だが予測していたことでもあった。 だいたいこのウサギは本能のまま動く。処理をしたいときに人で処理し、撃ちたい ときは考えなしに撃つのだ。そしてウサギは荒く息をし、拳を下ろした。 「渡さねえ……この時計は……絶対に……」 ギラギラとした目で睨みつけてくる。 「……そうか」 それだけ応えた。まあ三月ウサギはいつでもここにいる。 なだめすかして、そのうち手に入れるしかない。 だが口の中が切れたのか、血が一筋、口元から流れた。 すると三月ウサギもやや冷静になったらしい。 「……悪い」 そう言って、だが時計は懐にしまい、膝をついてユリウスを抱きしめる。 ユリウスが目を閉じると、唇が重なった。 ――こいつに口づけをされるのは初めてだな。 なぜか陰鬱な心に光が差すのをユリウスは感じた。 「ん……ん……」 口を開けると舌が差し入れられ、すぐに唾液の絡み合う音が響く。 「時計屋……」 三月ウサギは、どこか泣いているようだった。 4/7 続き→ トップへ 短編目次 |