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■時計と麦の穂3

※R15

「ん……時計屋、さん……」
三月ウサギの大きな手が、ゆっくりと、下着ごとズボンを下ろしていく。
「…………っ!」
そのときだっただろうか。
本来は女だけが感じるべき恐怖を、ユリウスが感じたのは。
――今、相手にしたらダメだ。つけあがられる……!
寝ているふりをしろ、寝ているふりを……とユリウスは自分に念じた。
だが冷や汗は流れ、怒りと屈辱と羞恥で、肌は紅潮し、息は乱れている。
強く握られた拳、全身に立った鳥肌。
本当に自分が寝ていると、三月ウサギは信じているのだろうか。
「ん……ん……」
下を膝上まで下ろされ、××が出てしまう。
そして三月ウサギの手が、こちらの××に触れた。
――……っ!!
瞬間、ビクッと背筋に電流が走った。
三月ウサギに『女を買え』と言った。
だが自分こそ、この前、女を買ったのはいつだっただろうか。
引きこもりすぎ、仕事に専念しすぎ、自分で慰めることも絶えて久しい。
久しぶりの刺激を受けたそれは、三月ウサギの手の中でまともに反応した。
「へへ……やっぱりな……」
勝ち誇ったように三月ウサギの声が耳元で聞こえる。
そして三月ウサギは手を激しく上下させてきた。
「あ……ぅ……」
もうユリウスには耐えきれなかった。

「おい……何をしてるんだ……寝ぼけるなっ!」

今、起きたフリをして怒鳴った。
「ああ、起きてたのか、時計屋さん」
明らかにワザとらしく言われる。
だが、いつもとは違い、三月ウサギは悪ふざけを止めることをしなかった。
「黙ってろよ。今、抜いてやるからさ」
「止め……ん……ぁ……」
三月ウサギは手を止めない。代わりに快感が増していく。
「あ、ああ……っ」
さらに手を早く動かされ、自分の××がみっともなく成長し、脈打つのがイヤでも分かった。
「三月ウサギ……いい、加減に……っ……!」
「だから時計屋さん。俺はウサギじゃねえって、いつも言ってるだろ……」
「……――っ!!」
大きく扱かれ、限界だった。
瞬間、目の前が真っ白になり、ユリウスは三月ウサギの手の中で解放してしまった。
「あ……っ……」
独特の匂いが漂い、ユリウスは我に返る。
「三月ウサギ!おまえ……」
怒りに震え、三月ウサギを振り返った。だが、
「気持ち良かっただろ。あんた。やっぱりすげーたまってたんだな」
三月ウサギは悪びれもせず、こちらを見ていた。
そしてユリウスの手を取り、こう言った。

「次は俺の番だな。やってくれよ……時計屋」

…………

小さな窓からは昼の日差しが差し込んでいる。
「ほら、時計屋。もっと舌を動かせよ……そうじゃねえ。ああ、下手くそだな」
イライラしたように言われ、髪を引っ張られ、うめいた。
どうしてこうなったのか、まるで分からない。
分かるのは自分が座るべき椅子に三月ウサギが座り、自分はそのまえにひざまずいて
女がするような奉仕を、強要されている、ということだけだ。
「ああ、そうだ……イイ……上手くやったら、そっちもやってやるからよ」
「……っ!!」
見透かしたように言われ、羞恥で赤くなる。
三月ウサギは前を出しただけの格好だが、ユリウスの格好はもっと乱れていた。
上はシャツ一枚で、前は引きちぎられ、ボタンが飛んでいる。
そして露出した肌の上には点々と噛み跡が残っている。
下は前を強引に出され……それは何もされていないのに上を仰いでいた。
――こいつを満足させたら……きっと……。
解放され、また時計修理に戻れるだろうと、はかない望みをつなぐ。
そして口の端から唾液をこぼしながら、ひたすらに三月ウサギに奉仕していると、

「……時計屋ユリウス様はいらっしゃいますか?」

ノックの音とともに、扉の外で声がした。
時計修理の依頼に来た客だ!
「っ!!」
ユリウスは慌てて顔を離そうとしたが、その前に三月ウサギが髪をつかんで止める。
そしてニヤニヤと扉を見る。いつ何を言ってもおかしくない顔だ。
客の方も、ユリウスが単に返事をしないだけだと思ったらしい。
「失礼いたします。ユリウス様。扉を開けさせていただきますので……」
と、扉のノブが回る。時計が恐怖で凍りつきそうになった。
「――っ!!」
だが扉が開く瞬間、かろうじてユリウスは自分が『時計塔の主』だと思い出した。
領主の能力を使い、作業場の扉を封じる。
そうすれば、この空間に誰も入ってくることが出来ない。
今にも開きかけた扉は閉じた。ノブをいくら回されても、開くことは無かった。
客もすぐあきらめたようだった。
「お仕事中でしたか。大変失礼をいたしました。では扉の前に置いておきますので、
家族の時計を、どうぞよろしく……」
コトリと時計を置く音がして、カツンカツンと、階段を下りる音が遠ざかっていく。
ユリウスは安堵の息をついた。だが三月ウサギは、
「惜しかったな。もうちょっとで、あんたが男の××を咥えてる変態だってウワサが
国中に広まるところだったのにな」
悪びれなく言う三月ウサギは、ユリウスの能力を知っていて、奉仕を続けさせたのだろう。
ユリウスが怒りに燃える目で見上げると、嘲りのまなざしが返る。
「いいな……その顔。無気力で、冷淡で、役に忠実に生きてますってあんたに、
そんな顔をさせられるのは……俺だけだ」
そう言って、三月ウサギはユリウスの口の中に、放った。
「げほっ……っ!」
突然放たれ、全て飲み込めず、口を離してむせていると、

「ちゃんと全部飲めよ。残ったのも処理したら、床に落ちた分をなめてもらうからな」

侮蔑の声が、崩れ落ちるユリウスに冷たくかけられた。

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