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■時計と麦の穂2

※R12

それからまた少し時間帯が経った。
三月ウサギとユリウスは、相変わらず半同居生活を続けていた。
だが、身体的接触は少しずつ露骨なものになっていった。

「おい……触るな!私は男だぞ?」
宵闇の中で目覚めるなり、ユリウスは怒鳴った。
まただ。三月ウサギがベッドに勝手に忍び込み、身体を触っていた。
同居当時から、ユリウスがベッド、三月ウサギがソファと、暗黙の了解で寝床を
分けていた。だがそれを破り、三月ウサギがベッドの中に忍び込むようになっていた。
それだけなら、単に図々しい居候の話だ。
しかしそれにとどまらず、身体をまさぐってくるのだ。
「あ……悪い、時計屋さん。何か寝ぼけてたみたいだ」
三月ウサギはそう言って、ユリウスを抱きしめていた手を離す。
だがその声は、寝ぼけていたという割に、あまりにしっかりしていた。
しかし、ユリウスもベッドで眠りたいほど疲労していた。
追及するのも億劫で、三月ウサギに背を向け目を閉じた。

だがしばらくし、半ば寝た状態から覚醒すると、
「はあ……あ……」
耳元で荒い声。悪趣味だと笑われた寝間着の中に、三月ウサギの手が滑り込み、胸の
先端をくすぐってくる。
その指使いは露骨で、どう考えても、寝ぼけているように思えない。
「おい、三月ウサギ!!」
「……あ、悪い悪い」
悪びれずに三月ウサギは笑う。
しかし、寝に戻ればまた同じことをしてくる。
――何なんだ、いったい。
いっそソファで寝ようかとも思ったが、家主が同居人につけあがらせてどうする、
という警戒があった。
……それに、ソファに行っても同じことが起きるという確信が、なぜかあった。

「はあ、はあ……」
耳元でウサギの息が聞こえる。抱きしめ、寝間着に手を入れ、胸をまさぐる。
こちらが起きていると知っているだろうに、身体を密に押しつけてくる。
ユリウスの後ろに……硬く勃ち上がった××を……。

…………

「金をやる。これで街に行って、女でも買ってこい!!」
次の朝の時間帯、ユリウスは紙幣を机に叩きつけ、三月ウサギに怒鳴った。
同居人につけあがらせてもいい。とにかく、二度とあんなおぞましい体験はごめんだ。
しかし三月ウサギはきょとんとして、
「何言ってるんだ?時計屋さん。俺は2だぜ?女くらい、自分の金で大丈夫だって!」
と、笑顔で返してきた。
ユリウスは睡眠不足の目で三月ウサギをにらむ。
「なら……なぜ……あんな悪質なことを……」
欲求不満ではなかったのか。女と遊ぶ金があるなら、なぜこちらに絡んでくる。
そう聞きたかった。
だがユリウスの口からそれは出なかった。
三月ウサギが、彼らしくもなく、ニヤニヤと笑っていたからだ。
「…………」
自分に懐き、じゃれついてきた三月ウサギ。
それがなぜか、マフィアの2と称される恐ろしいものに思えた。
そして三月ウサギは作業台を周り、ユリウスの近くに来る。
そうして、耳元に口を近づけた。
「時計屋さんは、俺が出ていったら困るよな?」
「…………」
それは間違いでもない。
三月ウサギと知り合う前は、誰に頼らなくとも上手くやっていた。
知り合ったばかりのころも、三月ウサギが一方的に依存していたはずだ。
だが今は違う。半同居の状態となってしまい、状況は変化している。
食事の世話、塔の管理、帽子屋ファミリーの人脈、三月ウサギを通した各種の援助、
回収不能な時計の回収……全て三月ウサギの意思一つで止められる。
ユリウスは時計屋だ。
可能な限り、時計修理の仕事に集中したい。
「俺だって時計屋さんを手伝ってるんだしさ。ちょっとくらい大目に見てくれよ」
「…………」
奴の意図がつかめない。だが承諾も拒否も出来ない。
三月ウサギは笑う。
奴への物質的な依存は、今やユリウスの方が強くなっていた。

…………

「時計屋さ……ん……時計屋さ……っ」
宵闇の寝台の中、三月ウサギが後ろから、こちらの身体をまさぐってくる。
胸の先端は刺激されすぎて痛いほどだ。他の箇所も荒く触れられ、爪を立てられ、
軽い傷がついている箇所さえある。
だがユリウスは息を殺し、一切の反応をしないようにしていた。

――こいつは悪ふざけをしている。私が相手にするから面白がっているんだ。

そして行為がエスカレートし、止まらなくなっている。
ユリウスの出した結論はそれだった。
なら無視し続ければいい。興ざめして、いずれ止まるだろう。
ユリウスは寝たふりに集中した。だが、
「あ……ぅ……」
「……っ」
上半身を痛いほどに探っていた三月ウサギの手が下にのびていく。
ユリウスは息を呑んだ。今までなかったことだった。
「…………っ」
腰から手が中に入り、布に覆われていない臀部を、形を確かめるようになぞられた。
全身が総毛立ち、おぞましくて叫びそうになった。
だが必死に抑える。
――相手にするな……相手に……っ!
ユリウスは声をかみ殺し、寝ることに集中しようとした。
だが三月ウサギの動きは、さらに露骨になっていくばかりだった。

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