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■捕らえられた話5

※R18

冷や汗が滝のように流れる。それでも止めて欲しいとは思わなかった。
「あ……ああ……っ」
「……興奮しすぎ、だ。もっと力を……抜け……」
苦笑しながらも息を乱し、帽子屋が後ろからゆっくりと深く侵入してくる。
ユリウスは手足を床につけ、四つん這いにさせられている。
痛みに耐え、屈辱的な姿勢にされながら、ぼんやりと思うのは、帽子屋の美しい瞳が
見られないのが残念だ、ということだけだった。
「……時計屋……きれいな、髪だな……」
こちらの腰を押さえつけ、ゆっくりと結合を深めながら帽子屋が言う。
心から愛おしげに。それだけで、少し苦痛が減った気がした。
そして貫く深さが増す。
「はあ……あ……」
「奥まで……入ったな。動くぞ……」
「ん……」
歯を食いしばり、何とかうなずく。
帽子屋が嗜虐的な笑みを浮かべているのが、なぜか見える気がした。


「ああ、ぅ……ぁ……」
宵闇の時計塔に苦しげな声が響く。
だがその声には、少しずつ悦楽の色が強くなっていた。
作業場の床でユリウスを這わせる帽子屋は手を前にやり、時計屋の反応を確かめると
冷酷に笑う。
「いいようだな。時計屋。まさか本当に、××の素養があったとはな。
よもや騎士に片恋でもしていたか?」
「ち、ちが……ぁ……ああ……」
激しく揺さぶられ、喘ぎ声が漏れる。
「帽子、屋、おまえ、だから……」
痛みか悦楽か分からないまま、うめく。


何度も揺さぶられ、嬌声が上がる。
もう時間帯の変化も分からない。だが今のユリウスの内からは、時計のことも部下の
こともルールのことも、なにもかもが消失していた。
貫かれているというのに、自分の××は反応しきって達する寸前で、気がつくと己も
相手に合わせて、快楽が深くなるように腰を動かしている。
「もっと……帽子屋、おまえが……」
「く……堅物そうに見せかけて実は××趣味の持ち主……とはな。
私も、思わぬ嗜好を、掘り当てたものだ……」
帽子屋の声はどこまでも冷静で冷淡で、それだけに興奮を覚える。
きっと自分はあの碧の瞳に見下されているのだろうと。
同時に内におさまる帽子屋の××も硬さを増す。
そして深みと速さを増し、さらに時計屋を責め立てた。
帽子屋は、もうたわむれを口にする余裕もないのか、さらに激しく抽送を繰り返し
絶頂の近さを感じさせた。

「あ、ああ……帽子屋……」
「く……この……××××……おまえ、ごときに……」
貶める言葉さえ、快感にしかつながらない。

「……――っ!!」

獣じみた咆吼を上げたのはどちらなのだろうか。
解放されとめどなくあふれる××で床を汚しながら、帽子屋の重みを背中に心地良く
感じる。そして己の内も白濁したもので穢されていくのを感じた。
「帽子屋……」
ようやく圧迫から解放され、どこか満たされた思いで振り向く。
帽子屋もユリウスの頬に手を当て、口づけをした。

そして、ユリウスの意識はゆっくりと闇に溶けていった。

…………

…………

あれから、どれだけ時間が経ったのか。
見えるものは監獄のように冷たく暗い石の空間。
こちらからは開けることの不可能な鉄格子だけだ。

ユリウスはぼんやりと不明瞭な意識のまま、時計を修理している。

ずっと時計を修理している。それ以外には何も考えられない。

だが不満はない。周囲の景色が以前いた空間と少し違う気もしたが、時計の修理も
出来るし、食事も勝手に用意される。紅茶も出るし、特に異存はなかった。
そして、どこか遠くで声が聞こえる。

「さっすがブラッドだな!あの時計屋を……にしちまうなんてすごすぎるぜ!」

暗い目で声の方向を見ると、鉄格子の向こうに、どこかで見た気もするウサギがいた。
そのウサギはユリウスの視線に気づくと、不快そうに舌打ちする。
だがユリウスの目は、すぐにかたわらの男に移る。
薔薇つきの妙な帽子をかぶっていた。碧の瞳が遠目にも美しいと思った。

「これからも薬を定期投与しつづける。
それで時計屋はもう、時計を修理するだけの、我々の人形だ」

役名は忘れたが、ときどき来て自分を抱いてくれる男だ。
あの碧の瞳に自分が映らないかと期待したが、彼はこちらを一瞥もしない。
「すっげえ!ブラッドは本当にすげえ!!」
「時間をかけて……にする薬品だからな。懐に入り込むのに特に苦労した。
中でも薬品を……から体内に入れる作業が危険を伴ったが、どうにか果たした」
「やっぱブラッドは賢くて偉大だな!どうやったんだ?やっぱ女を使ったのか?」
「ん……まあ、そんなところだ」
「だよなあ。常套手段だもんな!へへ。ガキどもにはいい玩具が出来たぜ。
俺も、これで、いつでも時計屋をいたぶり放題だ!」
ウサギが楽しそうに銃を出し、こちらに向ける。
だがユリウスは虚ろな瞳で見つめただけだった。
「殺すなよ。余計な傷をつけるなとは騎士の注文だ」
するとウサギの男はまるで鳥肌を抑えるように腕をひっかいた。
「……!あの××野郎……!今まで通り時計屋の部下として働く。で、俺らにも、
協力する。その代わりに、たまに屋敷に入れて時計屋を抱かせろとか気色悪ぃよな」
心底からおぞましそうに言い、床に唾を吐き捨てる。
そして碧の瞳の男がすまして言う。
「まあ全て上手く行った。言いなり状態の時計屋を、帽子屋屋敷に監禁する。
そうすれば、いろいろな制約から解放されるというものだ。ゲームも有利になる」
「さっすがブラッド!最高だぜ!」
ウサギから尽きることのないような称賛の声。しかしその声が止まり、
「なあ、でもブラッドは偉大だし、何もなくても何回かゲームに勝ちかけただろ?
別に時計野郎を監禁してまで、ゲームを有利にする必要はないんじゃねえか?」
すると、薔薇つき帽子の男が用意していた答えを、返すようにすぐ言った。
「退屈だからだ。馬鹿の一つ覚えのように同じ事をしていてもつまらないからな」
「そっか。よく分からないけどブラッドはすげえぜ!じゃ、仕事に行ってくる!」
ウサギの男は元気よく応え、頑丈な鉄の扉を開け、走って行った。
残された男は、その扉をしっかり閉め、厳重に鍵をかける。
そしてこちらを見た。

やりとりを聞きながら、黙々と修理を続けていたユリウスも手を止める。
そして男がこちらにやってくる。
どうやってか、鉄格子の鍵を手も触れずに開け、こちらに入ってくる。
監獄のような石の床に靴音が響いた。
彼の手がユリウスの眼鏡を外す。
そして男が抱きしめ、唇を重ねた。
ユリウスも特に抵抗せず、男を抱きしめる。

「これで、おまえが手に入った……」

ユリウスは返答しない。だが男もそれでかまわないようだった。
「ずっと、いつか私の物にしようと思っていた……。
まあ正気のおまえは、決して受け入れはしまいが」
自重するような笑いとともに、優しく口づけられ、愛撫が始まる。
ユリウスの身体は早くも反応を始め、悦びに震えた。
「ルールは私がねじ曲げる。引っ越しが起ころうとも、おまえは私たちから決して
逃れられない……催しのときは出してやるが、鎖をつけ、逃げる隙は与えない」
一人つぶやき、笑う。

「屋敷に閉じ込め、調教して快楽に溶かしてやろう。いつまでも、永遠に、な……」

ユリウスは、男の言葉の全てを理解したわけではない。
だがこれからの行為を予期して、恍惚としたものに満たされた。
けれど……不明瞭な思考のどこかに悲しさも感じていた。

――おまえは、私を少しも見ていない。

碧の瞳に捕らえられたのは、姑息な手段を使われるより前だったのに。

――少しでも、私を見ていてくれたら……。

心に思い描く。二度と戻ることのない、どこかの塔の雑然とした部屋。
珈琲を飲む自分。紅茶を飲む薔薇つき帽子の男。
互いに笑い、尽きることのない会話を交わし、夜は更けていく。

それはいつか本当にあったことなのだろうか。
それとも、夢魔が慰めに見せた悪夢だっただろうか。

「時計屋……」
しかし深く、激しく口づけられ、愛撫されるうちに思考が霧散していく。

それきりユリウスの意識は、快楽の闇に落ちていった。

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