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■引きこもりと理不尽な季節5

「……世の中って理不尽だよな。ああ、理不尽だよなあ」
遠い目をして、ジョーカーは監獄の天井を眺める。
傷が癒えてすぐ監獄に来たユリウスは、構わずにジョーカーの両手をしっかりと握りしめた。
「ジョーカー。エースを幸せにしてやってくれ」
そして熱く語る。
「いや別に幸せにしなくとも、私は一向に全然、からきし皆目、毛頭かまわない。
奴は馬鹿で方向音痴で運が悪くて笑顔が薄ら寒くて馬鹿で赤くて職場放棄していて
何も考えていない本気で馬鹿な男だが、あれでいいところもあるんだ。探せば、多分
恐らく、もしかして、あるいは、万が一にも、奇跡が起これば」
「おまえ……普段から、あいつにどれだけ迷惑をかけられてんだよ」
困惑に憐憫(れんびん)を交え、ジョーカーは言う。
「恋人など、あいつが勝手に自称しているだけだ。いつでも私から奪ってくれ。
というかノシつけてくれてやる。とにかく押して押しまくれ。男なら欲しい物は
奪い取るんだ。頼む……私が心置きなく時計塔に引きこもれるように」
ジョーカーはしばらくの沈黙の後に、
「時計屋……何て言うか、おまえ、もう少し外に出て人と話したりした方が……」
「そうだろう、そうだろう。私はおまえたちを応援する。必要とあらば睡眠導入剤や
媚薬、しびれ薬のたぐいも喜んで手配しよう。頑張って……モノにするんだ」
両肩を叩き、心の底からの声援を送ると、ジョーカーは遠い目をしていた。
「いったい俺が何をしたって言うんだ。そりゃ、ちょっとはちょっかい出したけど
幸せならそれでいいと思ってたんだぜ。なのに、俺がいったい何をしたって……」
そして第三の声がする。
「理不尽だよなあ。俺はあんなに恋人に誠意を尽くしてるのに浮気をされるし」
そしてまた、後ろから声がかかる。
しかしユリウスに押される気はない。自称恋人に向き合うと、
「エース。この男の誠意も分かってやれ。男好きは男好き同士、勝手に××って
いればいいだろう。私は潔く身を引かせてもらう。あと引きこもらせてもらう!」
「ユリウス、最後の宣言は多分いらないと思うぜ」
「時計屋!俺は男好きじゃねえよ!俺が好きなのはこんな馬鹿じゃなくて……」
と、二人の男が剣とナイフを抜く。
「……どうしたんだ、おまえたち」
真剣に疑問を抱き、ユリウスが言うと、
「あはは……ユリウス。ちょっと愛のお仕置きしちゃっていいかな?」
「処刑人。俺も、ちょっとばかり、こいつをいたぶりたい気分なんだ」
二人が勝手に仲直りするのは結構だが、自分がダシにされるのは冗談ではない。
現実空間に逃れるしかないか……とユリウスが身を翻そうとしたとき、

「何か最近、三人でどつき漫才やるのが流行って聞いたんだけど……」

「は?」
ガチャッと音がして、手首に鈍い痛みが走る。手錠がつけられていた。
「ジョーカー!」
今はサーカスの団長、白のジョーカーだった。
彼は手錠を牢の格子に固定しながら笑う。
「一体どういうブームが来てるの?俺だけ仲間外れにしないでくれよ」
そして呆然とするユリウスの、逆の手首にも手錠をし、さっさと格子に固定する。
両手を鉄格子に固定された格好になり、ユリウスはようやく状況に気づく。
「な……、おい、ジョーカー。離せ!!」
暴れる時計屋にうんうんと、適当にうなずきながらジョーカーは、
「見たかったな。ユリウスだから、すっごいツッコミするんだろう」
すると、なぜかエースと黒のジョーカーが同時に首を横に振る。
「いやあ、それが今回はユリウスがボケ役なんだよ、ジョーカーさん」
剣をしまいながらエースが笑う。ナイフをしまいながら、もう一人のジョーカーも、
「ああ。時計屋なのに、今回は頭が痛くなるくらいに何も考えてねえ」
「現実を見るのが怖いんだろうね。ユリウスって筋金入りの引きこもりだし」
ジョーカーとエースの言いぐさに、ユリウスは両手を拘束されながら、ムッとする。
「ああ、引きこもりだ。引きこもりで悪いか。私は仕事をしているし問題も無い。
私は一人でいたいんだ。もう永久に時計塔に引きこもる!!」
「いや、話のポイントはそこじゃねえし、そう堂々と引きこもり宣言されても……」
困り果てた顔のジョーカーから、ツッコミが入る。
「ならそんな可哀相なユリウスに、もう少し現実を楽しませてあげなきゃね」
と、もう一人のジョーカーが、ユリウスのコートの留め具を外す。
そこでユリウスは、ハタと自分の格好に思い至る。
両手を拘束され、妖しげな笑いを浮かべる男三人に何やら囲まれ。

「……引きこもりたい」
 
口づけをされ、ボタンを外され、ベルトを抜き取られ。
意に沿わない三人分の愛撫を受けながら、それだけ呟いた。

エイプリル・シーズンはまだまだ終わらない。

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