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■引きこもりと理不尽な季節3

――引きこもっていたい。
自分の領域に逃げ帰り、二度と外には出たくない。
……ワケが分からない。
ユリウスはひたすら理不尽な思いにかられている。
今は監獄の石畳の上に押さえつけられ、脱がされこそしていないが、前をはだけられ
薄い胸板を外気に晒している。そして自分を押し倒す部下は看守服だというのに、
邪悪な笑みを浮かべ、何度も口づけをする。
「ほら、ユリウス。もっと声を出してくれよ。ジョーカーに聞こえるようにさ」
押し倒されている。口づけをされている。男に。監獄で。人前で。
「誰が……いいから離……ん……」
抵抗しようにも、片手だけでは限界がある。
相手のいいように、舌を絡め取られ、弄ばれる。
「エース……おまえ、本当におかしくなったのか?……何で……ぁ……っ」
胸の先端を舐められ、嫌悪に身じろぐ。
監獄の格子に引っかけられた手錠が、不快な金属音を立てた。
「処刑人、後で覚えてろよ」
監獄の床に転がるジョーカーは、凶悪なまなざしで二人を見ていた。

……あの後。エースがジョーカーを黙らせ、表に帰るかと思いきや。
エースは矛先を変えて、ユリウスを襲ってきた……××な意味で。
もちろんユリウスは全力で抵抗した。だが、エースは連戦だというのに奴は疲れた
様子もなく、さっさとユリウスを押し倒すと、看守服から手錠を出した……。
「理由がないわけじゃないさ。目の前でちゃんと抱けば、誰が誰の物かって、思い
知るだろ?な、ジョーカー」
「…………」
床に腹ばいになったジョーカーは、怨念のこもった目で睨むのみ。
エースはそれを笑い、反応をうながすように、またこちらの胸を愛撫してくる。
前は全てはだけられ、ベルトは抜かれ、長い髪が床に乱雑に広がる。
何から何まで気持ち悪くて仕方がない。
「おい、ジョーカー……」
もう会話すら通じないと思い、ユリウスは第三者に助けを求めた。
「んだよ。俺は昼寝中だ。邪魔すんじゃねえよ」
床に転がるジョーカーは、ユリウスに稚拙な虚勢を張る。
ケガをしていただろうところに、追加攻撃を加えられ、起き上がれないようだ。
憎まれ口を返すものの、かすかに顔色を青くしている。
「あははは。悪かったって。お詫びに、俺がいいものを見せてあげるからさ」
そう言って、こちらのズボンに手をかけようとする。
「おい!止めろ、エースっ!!」
ユリウスはサッと顔を赤くし、怒鳴りつけ、身を守ろうとした。
だが片手を手錠で拘束されていて、ズボンをおさえる程度が精一杯だ。
もちろん部下は、そんな抵抗を抵抗とさえ思っていないらしい。
「本当に止めろ!ジョーカーっ!手錠の鍵だけでもこっちに……!」
もう普段の関係がどうとか言っている場合ではない。
必死にズボンを抑えながら、この場で唯一、共闘を望める男に呼びかけた。すると、
「その、すまねえ、時計屋。俺はちょっと体調が悪くて……」
「は?」
歯切れが悪いというか、かなり奇妙な返事が戻ってきた。
ジョーカーの顔にはそれなりの葛藤があったが、何かを割り切ったのか、何とか起き
上がり、鉄格子に背中をもたれさせ、こちらを見てくる。
「えーと、その、何だ。プライベートだし、俺は口外しねえから……」
「はあ?おまえ、ここの所長だろう。だから手錠の鍵を……」
「あー、ちょっと身体が痛くてな。ここで休んでいるから心配するな」
嘘でないだろうが、言い方がやけに白々しいのは気のせいか。
先ほどの険悪な空気はいったいどこに行ったのだろう。
「あはははは。他の男とヤッててもいいから見たいんだ。そこまでお休み前のネタが
欲しいって?ジョーカー。ちょっと倒錯趣味に走ってきたんじゃないのか?」
「んだよ!誰がさせてるんだよ!そこまで言うならヤらせろよ!」
「うーん。そうだなあ。三人でもいいけど、俺はユリウスが……」
顔色悪くジョーカーが怒鳴ったところで、ようやくユリウスも気づく。
ジョーカーが何かと絡む理由。友人であるはずのエースと最近、険悪である理由が。

「そうか、ジョーカー。おまえ、エースが好きだったのか!」

『…………』

「な、何だ?」
二人にじっと見られ、ユリウスはワケが分からず、手錠をガチャガチャ鳴らす。
そしてしばらくの沈黙の後、エースが哀れみをたっぷり含んだ目で、ジョーカーに、
「ジョーカー。何か君が可哀相になってきたからさ……混ざる?」
「ああ。本気で殺したくなったのは久しぶりだ」
ジョーカーがこちらににじり寄ってくる。
「え?は?」
ユリウスはただ一人、カヤの外続きでワケが分からない。
そして力がゆるんだ隙に、下を一気に下ろされた。

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