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■引きこもりと理不尽な季節2

ユリウスはまた、監獄の仕事を終えて戻る最中だった。
監獄の所長は、不機嫌な顔で牢獄の鉄格子にもたれかかっていた。
「……ンだよ、殺すぞ。葬儀屋」
目が合うなりケンカを売られそうになる。
しかし常と違い、ユリウスはあまり怒る気になれなかった。
「この前は部下……と私がすまなかったな」
奇妙な詫びをする。ジョーカーとエースが自分をダシに、どういうケンカをしたかは
分からない。だが男二人に眼前でイチャつかれ、ノロケられ、一人に言いがかりを
つけられ、剣まで向けられる。その不条理は想像して察するに余りあった。
「監獄は野郎がサカる場所じゃねえ。とっとと帰れよ」
嫌悪の表情で吐き捨てられた。だが、とりあえず仕事仲間への謝罪はすませた。
「以後、善処する。それでは……ん?」
ナイフを投げられる前に立ち去ろうとし……ユリウスはふと、違和感を覚える。
足の向きを変え、ジョーカーに近づいた。
「ジョーカー?」
「んだよ、ウザ……っ!?」
突然、目の前に近づいてきたユリウスになぜかジョーカーは慌てた顔を見せた。
「いや、顔を見せてみろ」
「な、な、な、何だよ……殺されたいのか、てめえ……」
どもりつつ挑発という、妙な真似をしてくる。
「すまん。暗がりでよく見えないんだ。ナイフを投げるなよ」
「と、時計屋……」
顔をさらに近づけると、ジョーカーの顔になぜか怯えが走る。
いつナイフを取り出されても逃げられるようにと、自分自身も警戒しつつ、ユリウス
は、さらに顔を近づける。
間違いない。
凶悪な顔でこちらを見るジョーカーだが、いくつかの傷をつけていた。
――エースの奴、加減というものを……ん?
まぶたのあたりにも傷があるように見える。
だがジョーカーが、あまりにも目を見開いているのでよく見えない。
「目を閉じてくれ」
先だって殺されかけた警戒もあって、つい声が低くなる。
「あ、ああ……」
なぜか、あのジョーカーが大人しく従う。
部下との戦闘でどこか打ったのだろうか。
まあ、確認したら治療だけ促して、帰ればいいかとユリウスはさらに……。

「ジョーカー。俺の恋人を誘惑しないでくれないか?」
『っ!』
殺意を感じ、ユリウスはバッと後ろに飛びすさり、ジョーカーは横に転がりナイフを
構えた。一瞬の後、二人のいた場所に剣が振り下ろされる。
危うく難を逃れたユリウスとジョーカーは、闖入者を睨みつけた。
「てめえ、何のつもりだ、エース!」
「エース!おまえ、私まで斬ろうとしただろう!」
ふいに現れ、剣で斬りつけてきた看守に言うと、
「えー、だって、せっかくこの間、ジョーカーを『説得』したのにさ。
今度はユリウスが浮気してるだろ?困るんだよな。ユリウスはただでさえ、押しに
弱くて流されやすいんだから、誘惑しないでくれよ」
「はあ?」
こいつもこいつで、どこか打ったのかとユリウスは疑う。頭痛をこらえながら、
「ゲスの勘ぐりにも程があるだろう。男が男に、そうホイホイと惚れるか。
私はこいつの顔の傷を見ていただけだ」
「え……?そ、そうなのか!?」
なぜか一転して絶望的な表情になるジョーカー。するとエースは嬉しそうに、
「あははは!フラれちゃったね、ジョーカー」
「うるせえっ!!」
なぜかジョーカーが怒り出す。
そしてナイフを抜くやいなや、エースに襲いかかった。
「おっと!」
そして、それを嬉々として剣で受けるエース。始まる攻防戦。
「…………」
――何なんだ、こいつら。
またしてもカヤの外なユリウスであった。
引きこもりたいし、いい加減、帰ろうか。
「エース。先に行くからな」
「分かった。すぐ終わらせる……ぜっ!」
別に『早く終わらせろ』という意味で言ったつもりはなかったのだが。
しかしエースは最後の一声で一気に踏み込み、猛烈な斬撃を浴びせる。
「ぐ……っ畜生……!!」
元々手負いだったジョーカーは、それを受けきれず監獄の床に沈んだ。
勝負は決したようだった。

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