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■夜が来る・上

※「ダイヤの国のアリス」の『少年エース×時計屋』妄想
※発売前のため、少年エースの口調は前作準拠です

※R12

その街外れの安宿は、宵闇に包まれていた。
「…………」
時計屋ユリウスは、宿の部屋の扉を、しっかりと施錠した。
自分の目で何度も、鍵をかけたことを確認する。
その後、わざわざドアノブを回し、開かないことを確認する。
「…………」
冷たい汗が額を流れる。
強迫的な行動だと、ユリウス自身にも分かっていた。
だが、そうせずにはいられない。
――いったい、なぜこんなことになったんだ……。

ユリウスは汗をぬぐい、宿のテーブルに向かう。
そして時計修理の道具を広げ、最初の時計を手に取ったとき。

扉を叩く音がした。
ユリウスの表情が強ばり、全ての動きが止まる。

「ユリウス!」

無邪気そのものの、少年の声がする。
瞬間、ユリウスは、まるで心臓のように己の時計が跳ねた気がした。
作業を即座に中止し、息ももらさぬよう動きを止める。
自分がたてた作業音は一瞬だったはず。
耳のいい、あの少年だろうと聞こえているはずは……。
「ユリウスー、俺、眠いんだ。開けてくれよ」
――それに、おまえには別の部屋を借りてやっただろう。
時計修理の仕事に集中させてほしいと、理由をつけて。
少年は一見、聞き分けのいい笑顔でうなずいたものだ。
だが今、当たり前のようにユリウスの部屋に入ろうとしている。忘れたフリをして。
「ユリウスー。ユリウス?」
扉をガチャガチャと開けようとする音。
ユリウスは口に手まであて、必死に息を殺す。
扉を開けようとする音はしばらく続き、
「帰ってないのか。ちぇっ」
子供らしく舌打ちする音が聞こえ、足音が扉から遠ざかっていく。
「…………」
完全に足音が消えたことを確認し、ユリウスは深く深く安堵の息をついた。
――寝るか。
時計修理に戻る気にはなれず、肩を落とし、ベッドに向かった。

…………

…………

「ん……あ……」
やけにもどかしげな声が聞こえる……と思ったら、それは自分の声だった。
暗闇の中、違和感を覚え、ユリウスは目を開ける。
どうも下半身がうずき、反応しているらしい。
最初は己が、思春期特有の夢を見ていたのだと思った。
――いい歳をして、そんな夢を見るなど……。
自分で自分に赤面し、下半身の熱を解消しようと、手を伸ばす。
「……?」
そしてまた違和感を抱いた。
閉めたはずの窓が大きく開いている。外から吹く風がカーテンを揺らしていた。
誰かが……ベッドの中にいる!!

「ユリウス、気づくの遅いぜ」
その声に、ユリウスはガバッと掛け布を持ち上げた。
「エース……っ!!」
ベッドの中に潜んでいた短髪の少年は、ユリウスの声に顔を上げた。
上半身裸で、愛撫していたユリウスの××から顔を離し。

「おまえ……何を考えている!止めろ……自分の部屋に戻れ!!」
少年を引き離すため、暴力も辞さず殴ろうとした。
だが少年は、スッと身体を離し、拳をかわす。そして悪魔のような笑みで、
「ユリウスこそ何を考えてるんだよ。俺をしめ出すなんてさ」
ユリウスは思わず少年の身体から目をそらし、気まずく言う。
「……お、おまえが、私に妙なことを……しようとしたから……」
「あんなことって?」
答えにくいと知っていて、笑いながら聞いてくる少年。
ユリウスはしばし逡巡し、結局別のことを言った。
「おまえは、もう子供ではない。別の部屋を取って当たり前だろう……」
「そう?俺が女ならともかく、一緒の部屋の方が金がかからないだろ?」
あっさりとエースは言う。
「……子供が金のことを気にかけるな」
「あはは。さっきは俺が子供じゃないって言ったのに?」
そして少年は宵月に緋の瞳を光らせ、ユリウスににじりよる。
大人になりかけの身体は、ひ弱な時計屋よりも筋肉がついている。
ユリウスは、相手が、自分よりずっと小柄な少年だと分かっていて動けない。
そして少年はユリウスに顔を寄せた。
「よせ……エース……!」
だがエースはそのまま、ユリウスに口づけた。
「ん……」
「…………」
触れるだけの口づけを、まるで初恋の少女にするように。愛おしげに。
「ユリウス……好きだよ」
そう言って、ユリウスの下半身に手を伸ばす。

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