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■時計塔のチェシャ猫6

※R18

「ん……やめろ…猫……っ」
「猫じゃなくてボリス。そろそろ名前で呼んでくれよ、時計屋さん」
「いや、おまえこそ……」
襲われながら何となくツッコミを入れてしまうが、
「そ?何か時計屋さんの方がしっくり来るって思い直したんだけど。
ならしっくり来るように練習するよ。ユリウス、ユリウス……」
呪文のように自分の名を呟かれても怖いだけだ。
何とか押し返そうとするが、なぜか力が入らない。
チェシャ猫はユリウスの前をはだけながらニヤニヤ笑う。
「本当はさ、ちょっとだけ興奮したんだ」
「は?」
「俺にこんな趣味があったのかって、驚いちゃったよ。
騎士さんに襲われてるユリウスってすごく……×××だった」
「何を言ってるんだ。おまえ、頭がおかしいんじゃ……っ……」
猫舌に胸を舐められ、常と違う感覚に背筋がゾクリとする。
「ほら、その声。騎士さんに力ずくで×××××させられたり、無理やり×××を
させられたり、なのに××××××してたり……で、嫌がってるはずなのに……」
そう笑い、こちらの下を撫でる。反応し始めている下を。
「……ん……っ!」
猫がこちらの長い髪を撫で、耳朶を舐める。耳元に唇を触れる寸前まで近づけ、
「嫌だ、止めろって言いながら顔真っ赤にして、起ってるとことかさ」
「…………」
「何か俺まで興奮して、クローゼットの中で××××しちゃったんだけど……匂いで
気づかなかった?あとで掃除しとくからさ」
「…………」
猫はどこまでも猫だった。気まずい思いどころか、こちらの苦痛を見ながら勝手に
一人で愉しみにふけっていたとは……勝手に悩んでいた自分は何なんだ。
住むと言われた時点で一切の容赦をせず銃を乱射すべきだった。
だが後悔してもすでに時遅し。
「ね、ね。騎士さんって時計屋さんに舐められてるとき、すごく気持ち良さそうな
顔してたけど、時計屋さんってそんなに上手いの?俺もやってもらっていい?」
「…………」
図々しい上に好奇心いっぱい。げんなりして言葉も出なかった。

…………

夜の時間帯は続く。ユリウスの服はもちろん、猫のファーも服もベッド下に落ち、
ベッド上では男二人が絡み合っている。
「あ……ああ、止めろ……チェシャ猫……ん……」
猫舌が悪い、猫舌が悪いと思うしかない。
下に顔をうずめられ、今にも達するところだった。
しかし猫は容赦せずに舌を這わせ、闇の中に金の目を光らせる。
「だって、時計屋さんのが、すごく良かった、から……」
「ああ。早かったな。だからといって……おまえと、関係を、持つつもりは………!」
促すように一際強く刺激され、頭が真っ白になる。
解放感ともに……猫の口の中に放ってしまった。
「はあ…………馬鹿が」
脱力してベッドに沈むと、口の端から漏れた白いものを舐めながら猫が笑う。
「猫。おまえ、本当に初めてなのか?ずいぶん慣れていたようだが……」
「そう?それって褒め言葉だよね。猫は器用なんだ。
騎士さんと時計屋さんの見よう見まねだよ」
それもどうかと思うが……しかし絶頂を迎えさせられた身では何も言えない。
仕方なく、横たわる裸の猫を抱き寄せ、軽く唇にキスしてやる。
けれど猫は不満そうにユリウスの胸を撫でる。そして決意した顔で、
「あのさ、時計屋さん……ユリウス……」
「おまえの頼みは分かった。もうクローゼットでもどこでも勝手に住めばいい。
だから、これ以上は好奇心でも踏み込むな。後戻り出来なくなるぞ」
「大丈夫、大丈夫!あのさ、俺、ユリウスともっと楽しいことがしたいんだ」
猫は欠片も悩まない。押し返すユリウスを無視して押し倒してくる。
「ハッ。二番目にでもなりたいのか?奴に斬られるぞ?」
押し倒されてはいるが、いちおう釘を刺しておく。
「間男になる気はないよ。ひどいことをする騎士さんから、あんたを守ってやりたい
んだ。俺だって役持ちだし、簡単に負ける気はないぜ」
「おまえの守りなど必要ない。あいつと私は利害が一致した、合意の上の関係だ」
「そう?でも俺にされてるときのあんたの方が、絶対にイイ顔してるって。
俺、自分のものに手を出されるのが嫌なんだよね」
猫は何を言われようと引く気はないようだ。
「あのなあ。自分のものも何も、私は……」
「うん。だから、これから俺の物にするから」
チェシャ猫は邪悪な笑みを見せる。
「……好きにしろ」
反応しだしている己を、情けなく自覚しながらユリウスは素っ気なく呟いた。

…………

猫が器用というのは本当だった。男とは初めてだというのに、手順に迷いはなく、
取り立てて障害もなく、こちらの中に入り込む。
「ん……ぁ……」
機械油の力を借り、深くに押し入った猫は、こちらを見下ろし、愉しそうに笑った。
「本当、すごく気持ち良い……ユリウス、動くから……」
無言でうなずくと、猫はこちらの足を抱え、ぎこちなく身体を前後させる。
最初は慣らし、具合を試すように慎重に、
「あ……ダメだ……良すぎる……すごく……」
ほどなくして、徐々に動きを速め。

ときおり視線を交わし、舌を絡め、抱きしめ合う。
内にある優しい熱は容積を増し、そのたびに得も言われぬ快感が全身を走る。
「チェシャ猫……もっと、来てくれ……ひどく……っ」
「ユリウス……名前、呼んでくれよ……」
速度を増して何度も責め立てながら猫は懇願する。
手がこちらの××を激しく愛撫し、その快感だけで先に達するところだった。
「……ああ……ぅ……」
「ボリス……俺の名は、ボリス=エレイだよ、ユリウス……」
「…………ボリス……」
やっと聞こえるくらいの小さな声でそういった。すると相手はパッと顔を輝かせ、
「ああそうだよ、その名前で呼んでよ。これからも、ずっと、ずっと……!」
そう言ってキスをする。その背を強く抱きしめてやった。
「あ…………っ!!」
そして絶頂に達し、同時に己の内でも、ボリスが放つのを感じた。

…………

…………

クローゼットの中を清掃しながら、ボリスはユリウスに言う。
「ユリウス。ずーっと片づけてないだろ?着ない服は処分するよ?
いくら汚れがキレイになるって言っても、たまにはクリーニングに出さないと」
「うるさい!どうでもいいだろう!」
スパナを投げる勢いで怒鳴るが猫は右から左に受け流す。
迷惑な猫が強引に時計塔に住み着き、しばらく経つ。以来、定期的に食事や睡眠を
強要されるわ、外出に誘われるわ、ときどき押し倒されるわと、迷惑この上ない。
「ほらユリウス、また食べてないだろ。はい、魚肉ソーセージ食べて」
「…………」
放り投げられたソーセージを受け取り、無言で包装を外して食べる……不味い。
「あははは。何?この光景」
そして騎士もやってくる。
ボリスはクローゼットから顔を出し、騎士に親しげに笑う。
「騎士さんお疲れ。部屋が汚れててごめん。珈琲淹れるからちょっと待っててよ」
騎士は青空のように朗らかに笑い、
「やあ猫くん、相変わらず住人面だね。ユリウスの迷惑お構いなしだ。
何とか家主に気に入ってもらおうと、必死すぎて笑っちゃうよ。あはははは!」
「騎士さんこそ、殺気が隠せてないぜ?
俺がいるからユリウスが襲えなくて困るんだろ?」
「あははは。いても別に構わないさ。見られてるって結構、興奮するし。
浮気する恋人にお仕置きもしたいしね。まあ、動物と共有まではしないけどさ」
「にゃはは。俺だって、ユリウスをいじめる××な騎士さんとはごめんだよ」
「…………」
会話は和やか……だと思うが、殺気は双方供に隠せていない。
見えない火花が飛び散る音が聞こえるようだ。
ユリウスは黙々と魚肉ソーセージをかじり、時計修理を続ける。
「はあ……」
猫のいる生活は騒がしくて仕方ない。
だが、この騒がしさに慣れようとしている自分も感じる。
強引な猫に住みつかれ、こんな賑やかな時計塔も悪くないのではないか。
何となくそう思うようになってきた。

ユリウスは窓の外を見る。
外は快晴、猫と騎士を散歩させるのもいいかもしれない。

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