続き→ トップへ 短編目次 ■時計屋は流され中2・上 ※R18 窓の外には夜が広がっている。 宵闇は穏やかで、銃声も悲鳴も聞こえない。 この時間帯の街は比較的平和なようだ。 仕事をすれば、さぞかし集中出来るだろう。 時計屋ユリウスは仕事がしたい。 来訪者のない静謐な空間で、時計修理だけに打ち込んでいたい。 けれど、それを許さない者がいる。 「ん……」 「もっと口を動かせ、時計屋」 「……っ……」 ソファに座る男がユリウスの長い前髪をつかんで揺さぶる。 口の端から白濁したものが、こぼれ、長い髪に、服に不快に絡みつく。 「やる気がないな。騎士がそれほど良かったか?」 ギリギリと音がしそうに強く前髪をつかまれ、痛みに顔をしかめた。 だいたい、この男の来る直前までエースに強要されていたし、そもそも誰に対しても 『やる気』などあるわけがない。 ユリウスはただ、ソファに座る男が満足して、拷問が終わることだけを願っている。 憎悪と、嫌悪を喉の奥深くに押し込み、グレイ=リングマークへの奉仕を続けた。 「この……××××が……くそ……」 それでもトカゲの声から冷静さが少しずつ薄れていく。 必死に舐め上げ、口の筋肉を使ってできる限り刺激し、解放を促す。 「時計屋……時計屋……」 グレイが切なそうに小さく呻く。トカゲ自身も座りながらわずかに腰を動かし、 快感に酔いしれているようだった。 そのことに暗い慰めを見いだし、あと少しだとユリウスは自分自身を叱咤して、 必死に口を動かした。 「……く……っ」 そして、口内に慣れたくもない味が大量に放たれた。 「げほっ……う……」 生々しい匂いと粘液の感触にむせこみながら一度口を離し、吐き気を抑えながら 無理やり嚥下する。 「おい、時計屋」 もちろん、これだけで済む相手ではないと知っている。ユリウスはもう一度、 のろのろとトカゲの……に口を近づけ、舌をのばしてゆっくりと清めた。 胃は逆流を訴えるが、押し殺す。とにかく、これで満足して去るだろう。 この男がいなくなってから、好きなだけ戻せばいい。 心身の疲労も限界で、ようやく終えたユリウスは無気力に座っていた。 そんなユリウスを冷酷に見下ろしながらグレイは、 「脱げ。時計屋」 「…………」 時計を止められてもいいから拒みたい。 いや、拒むことでやってくれるなら、本当に拒んでいた。 だがこの男は元暗殺者という嫌な肩書きだ。 グレイもチラリと、室内の珈琲メーカーを見、 「身体のどこに熱湯を流し込んでほしい。上か?下か?」 「……そのご大層なナイフで脅せばいいだろう」 出来る限り無表情に言った……つもりだったが、通じただろうか。 「ナイフが汚れる。これはナイトメア様をお守りするためのものだ。 おまえごときが、ナイトメア様と同列に扱ってもらえると思ったか? 淫乱な葬儀屋は大人しくひざまずいて、みじめに咥えていればいい」 嘲笑が返る。こちらの気を引きたいわけではなく、純粋な事実としての発言だと 知っている。 ――本当に、こいつは私に惚れているのか? 夢魔にも心を隠す男だ。本心は分からない。 「何だ、その目は。ナイフを使った拷問がお好みか?俺はおまえを愛しているから、 叶えてやってもいい。先端を使って一枚ずつ×をはいでいく古典的な手法になるが」 ここまで支離滅裂な『愛している』は久々に聞いた。 だが、いつまでも愚図っていては本当に拷問されかねない。 ――部屋は暗いし。トカゲからは見えづらいはずだ。 ユリウスはトカゲの視力の良さを無視して自分を慰め、仕方なく立ち上がる。 そしてグレイが見ている前で首元のタイを緩慢な動作で外し、コートを脱いだ。 ドサッと、虚ろな音が室内に響く。 二人の赤の他人の行為により、黒いコートのあちこちには嫌な染みが残っていた。 それを脱ぎ捨て、ベストを放る。身なりは軽くなるのに、重く感じる一方の身体を 叱咤し、シャツのボタンを一つ一つ、外していった。 そして全てボタンを外し、シャツを脱ごうかというとき、 「何なに?ユリウス、トカゲさんの前でストリップ?」 決して聞きたくなかった声が耳に入った。 ユリウスとグレイは同時に部屋の入り口を見る。 血のように赤いコートをまとったハートの騎士がそこにいた。 1/3 続き→ トップへ 短編目次 |