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■甘やかした話・上

役持ち同士の恋愛は不自由なものだと思う。
まして、それが男同士ならなおさらだ。

二人で手をつないで歩く。人の気配などない夕暮れの木立の中を。
特に目的もなければ、帰る時間も決まっていない。
ごく気ままな逢瀬だった。

「いやあ、幸せだなあ」
草を踏み、手をしっかりと絡ませながら、騎士は笑う。
夕陽にそまり、彼の目も服も、いっそう赤い。
あまりに鮮烈な紅で、ユリウスは目が離せない。
でもそれを認めるのが悔しくて、素っ気なく返す。
「…………私は別に」
「幸せじゃないって?」
騎士はニヤニヤと顔を寄せてくる。
「ば、馬鹿……!誰かに見られたら……」
「手をつないでるところを見られるだけでも十分に誤解されるだろ?」
「…………」
正論に言葉も出ない。
そして騎士は立ち止まり、ユリウスの身体を両手で抱き寄せる。
「ユリウス……」
「……ん」
両手で頬に触れられ、目を閉じる。
唇が重なる瞬間、冷たいはずの己の時計が熱くなるのを、確かに感じた。

騎士はからかうような顔だったが、舌を軽く絡ませるうちに、痛いくらいに身体を
押しつけてきた。
「はあ……ん……っ」
噛みつくように舌を吸われ、歯列をなぞられ、口内を荒らされる。
夕暮れの冷たい風に木々の葉が揺れ、男同士が舌を絡め合う水音が木立に響いた。
「エース……いい加減にしろ!」
押しつけられた騎士の下半身から熱が伝わり、ユリウスは顔をしかめた。
けれど、騎士はまだ足りないと言うように、さらに引き寄せる。
強行突破されそうな勢いに、ユリウスもためいきをついた。
「おまえは盛りのついた犬か!私に会うたびに場所も時間帯も構わず……」
「いいだろ……最近ヤッてないんだしさ」
「だが何もここで……うわっ」
足払いをかけられ、地面に倒される。枯れ葉が緩衝剤になってくれたとはいえ、背中は痛い。
「この……!」
スパナで叩いて目を覚まさせてやろうと懐に手を入れようとする。
だが素早く両手を地面に押しつけられ、抵抗を封じられた。
「ん……む……」
キスをされ先ほどの行為の続きをされる。
甘く噛まれ、舌先で唇をなぞられ、さらに執拗に舌を絡められる。
「……ん…………」
両足の間に騎士の足が割り込み、離れた騎士の手がユリウスの身体を荒く這い出す。
糸を引き、顔を離した騎士は懇願する。欲望の証がこちらの下半身に押しつけられる。
「なあいいだろ。ユリウスが今、ここで欲しいんだ……」
「……馬鹿が」
他にかける言葉はない。
ユリウスはあきらめて、拘束の解かれた両手を襟元に持って行き服のボタンを外し始めた。

…………

時間帯は、珍しく規則的に夕暮れから夜に移り変わった。
「こういう開放的な夜もいいもんだな。ユリウス」
豪快に一糸まとわぬ変態は、草床の上で星を見上げて笑う。
「……開放的すぎるだろうが」
ユリウスは、とりあえず下着程度は身につけている。
髪に引っ付いた枯れ葉や枯れ草を神経質に取りながら、恋人を睨んだ。
「おい、とっととテントを張れ。冷えるだろうが」
「ええー。別にいいだろ?今からじゃ面倒くさいぜ」
「そういう問題か!いいからとっとと張れ。でなければ私は帰るぞ」
「へええ。さっきは『エース……もう離さないでくれ』とか『もっと、おまえが
欲しいんだ……!』とか言ってくれてたのに?」
「――――っ!!」
口調まで真似られ、耳まで真っ赤になる。
思わず殴りかかるとその手を取られ、身体を引き寄せられ、また唇を重ねられる。
「ん……っ」
何度も思い通りになるか!と、熱が冷めたこともあり抵抗するが、騎士の力は強い。
「くそ……っこの、××××が……!」
「あははは。ユリウス。そんな汚い言葉を使うもんじゃないぜ?」
「誰がそうさせていると……!」
「はいはい。じゃあ、次のラウンド、行ってみようか」
「ん……っ」
弱い箇所を愛撫され、抵抗が薄れる。もちろん騎士はそれを見逃さずにつけこんでくる。
下着を剥がれ、押し倒され、また髪に枯れ草がついてしまう。
もちろん、騎士は今さらテントを張る気は皆無のようだ。
「おまえといると、私の生活が乱れるばかりだ」
「俺を恋人にした時点で、半分はユリウスの責任だろ?」
「…………」
反論が全く出来ない。
ユリウスはもうあきらめて星空を見上げ、騎士に身体をゆだねることにした。


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