続き→ トップへ 短編目次

■時計塔の大型犬1

※R18

時計屋ユリウスは鳥のさえずりで目を覚ました。

見ると枕元のサイドテーブルに、水の入ったコップが二つ。
それと、バゲットの入ったバスケットが見えた。
隣に寝ている馬鹿の提案で用意したものだ。
「…………」
首が痛い。時計屋ユリウスは不機嫌に身体を動かす。
「あ。ユリウス、起きた?」
「…………」
すぐに真横からかかる能天気な声。
首が痛いのは、腕なんて硬いものを枕にされたからだ。腹が立つ。
そして、男相手に腕枕をしている馬鹿。
その男は、何も衣服を身につけていない。自分もだ。
ユリウスはさらに不機嫌になって起き上がる。
寝る前の行為のせいか、長い髪があちこちに跳ね、ひどいことになっていた。
一部には体液までついている。最悪だ。
「うわ、寝癖だらけだな、ユリウスは髪が長いからなー」
続いて起き上がり、べたべたと髪に触れてくる男。
部下であり、友人であり……認めたくない関係にあるハートの騎士、エースだ。

「あー、腹が減ったな。ほら、用意しといて良かっただろ?」
エースは手を伸ばして、バスケットから少し硬くなったバゲットを取ると、力押しで半分に割り、
「ん」
と、短い方を差し出す。
「…………」
まあ、こちらの方が食事量が少ないのだし、と若干モヤモヤしながら受け取ろうと
すると、触れる直前にエースがすっとパンを逆にし、長い方を出してくる。
「…………」
「俺だって恋人には優しいんだぜ?」
片目をつぶる馬鹿。自分で言うか。
無言で受け取るとかじりだす。やはり硬くなっていて、身体にボロボロこぼれる。
心底から不快だ。
「うーん、やっぱ、これだけじゃなあ」
「…………」
二人してすぐに食べ終わると、
――身体を洗うか……。
汗とその他の体液が髪が絡みつき、最高に最悪な気分だ。
「あ、ユリウス。風呂だろ?俺も一緒に行くぜ」
無視する。
枕元の水を軽く飲み、上を軽く羽織ってベッドを下りるとエースもついてきた。
やはり相手にする気になれず、ユリウスは無言で浴室に向かった。
「あはは。いつも寝起きは機嫌悪いな。待てよ」
騎士もコートだけ羽織り、能天気に笑ってついてくる。
別に機嫌が悪いわけでは無い。寝る前に二人でした行為のせいだ。
でも言葉にする気にもなれず無視して歩いた。

…………
湯気の立つ浴室に不機嫌な声と陽気な声が交錯する。
髪をくくりあげたユリウスは、
「うるさい……触るな……!」
意図をもって伸びてくるエースの手をはらい、手早く身体を洗う。
背後ではなおも馬鹿が騒いでいる。
「ええ、でもユリウスも反応してるじゃないか。朝だから仕方ないけど、ヤッた後
だってのに、お盛んだよなあ」
「…………」
自分の身体を見下ろしたくない。うつむいていると、エースの手が後ろから回される。
「ほら、手伝ってやるからさ」
「ん……」
石鹸で泡だった手で×××を刺激され、声が出る。
「離せ……止めろ……」
「あはは、嘘言うなよ。こんなに興奮してるのに?」
無視して身体を洗おうとするが、エースの手の動きに意識が行き、集中出来ない。
「ん……く……」
「……ん……」
身体を密着させられ、何度も何度も扱かれる。先走りのものが溢れ、浴室の熱気で
頭の芯までおかしくなりそうだ。もう身体を洗うのは不可能だった。
後ろに押し当てられるエースの……にも、認めたくないが刺激される。
「……エース……」
「ほら、イっちゃえよ。身体がふやけるぜ」
エースは煽るように手の動きを速める。身体が震え、もう我慢が出来ない。
「…………っ……!……」
絶頂感とともに白濁したものが放たれ、浴室の床に流れていく。
「はあ……はあ……」
快感と気まずさをないまぜに息をついていると、
「よしよし、それじゃ俺も抜くか」
「…………」
達したこともあり、みるみる冷めていく。
背後でエースが何をしているか嫌でも分かる。
「ん……ん……ユリウス……」
よりにもよって自分の名前だ。
ユリウスは何を言われようと決して後ろを向くまい。
というか振り向いたら、襲われるという確信がある。
冷たく無視するフリをして、何とか身体を洗うことに専念しようとした。
「ユリウス……あ……」
身体を洗う苦行を続けるが、名前を呼ばれるたびに動きを止めてしまう。
「ああ……ユリウス……っ……」
「…………」
そして背後にかかる生温かい何か。
最悪中の最悪の気分だ。けれど、さっき手伝ってもらった手前、罵倒が出来ない。
エースはというと満足そうに、シャワーを浴びて流しながら、
「これはこれで興奮するよな。必死に見ないフリをするユリウスをネタにするのって」
「…………」
何とかしてこの男と縁を切れないかとユリウスは真剣に考えた。


1/4

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -