続き→ トップへ 短編目次

■ゴーランドさんと一緒4

本当に好きか分からない相手に、妄想に近い嫉妬から抱かれるなど冗談ではない。
「……ん……ぅ……」
けれど、ゴーランドの力は思いの外、強かった。
いや、自分の抵抗が弱いのかもしれない。
口内をかき乱され、何かよく分からない気まずい気分が湧き上がってくる。
「ゴーランド……その……」
「好きだぜ、時計屋。おまえのことが、すごく、な……」
そう言ってユリウスの襟元の飾りを外した。わずかに開いた場所がやけに涼しい。
そしてゴーランドが指でそっと鎖骨をたどった瞬間、背筋に電流が走る。
「っ!」
反射的に彼の手を払い、あわてて襟元を押さえ、顔を背ける。
――あ、しまった……。
露骨に拒んでしまい、傷つけたのではないかと不安になる。
けれど、うかがうように、覆いかぶさる相手を見ると、低く笑っていた。
「おいおい。ちょっと触っただけだろ。女だって、ここまで反応しないぜ?」
「う、うるさいっ!!」
ゴーランドが怒っていなかったことには安堵したが、娘のようだと笑われ、カッとなる。
「もう止めだ。遊園地など二度と来るか!」
「ははは。すねるなよ、時計屋」
ソファから下りようとするのを、意外に強い力で押さえつけられる。
暴れる手首をつかまれ、優しく唇を重ねられ、息が止まりそうになった。
「…………」
そんなユリウスをゴーランドはじっと見る。
「な、何だ。気持ち悪い」
「いや。その……可愛いなって思ってさ」
「……は?」
訳が分からずにいると、また抱きしめられ……顔に思い切り頬ずりされた。
「ヒゲをちゃんと剃れ、この馬鹿っ!本当に離れろ!も、もう帰るっ!」
「帰さねえぜ?時計屋」
ゴーランドがニヤリと笑い、髪をなでる。そして驚いたように、
「おまえ、どう手入れしてるんだ。男がここまでサラサラなのは反則だろ?」
髪を一房口づけられ、本当にどうしていいか分からなくなってくる。
「ええと、その、ええと、あの……」
「……ああ、畜生。本当に可愛い、可愛すぎるぜ。時計屋!!」
止める間もなく、胸の時計飾りを取られ、ベストの前を軽く開かれる。
「ま、待て、ゴーランド。おい……!」
「時計屋……好きだ……」
「…………」
シャツのボタンを一つ一つ丁寧に外され、肌があらわになるたびに、その場所に
愛おしそうに口づけられる。
男どころか女の経験さえままならない身で、どうしていいかさっぱり分からない。
やがてボタンが全て外され、左右にはだけられる。
「おいおい。白すぎだろ。もう少し外に出ろよ」
「う、うるさいっ!」
女ではあるまいし、男が男に見られて羞恥心も何もないはずなのに、ゴーランドに
じっと身体を見られていることが落ち着かない。
「……っ!」
ゴーランドの舌が胸の先端に触れ、身体がビクッと震えた。
「よせ、や、やめろ……!」
けれど、今度はからかいの言葉も何も返らない。
生温かい感触が動くたびに身体が熱くなり、顔が紅潮するのが止められない。
「ゴーランド……」
戸惑いながら、恋人らしい男の頭を撫でる。
するとそれに気づいたゴーランドが顔を上げ、笑う。
自然に、どちらからでもなく唇が重なった。
「ん……」
抱きしめ合い、飽きることなく舌を絡める。
頭が芯まで熱くなり、ふざけた景観の室内にいることや、ふざけた名前の男に
抱かれようとしていること、全てがどうでも良くなってくる。
「……ん……」
「手がガサガサだな。機械油の匂いも、うつっちまいそうだ」
「…………」
やっとこちらが乗ってきたというのに、ゴーランドはどこまでも余裕だ。
「今から一緒に風呂に入るか?それなら後始末も簡単に……」
「本当に帰りたい……」
そう言うと、ゴーランドは爆笑した。
「本当、本当に可愛いな。時計屋……騎士なんかには、絶対譲れねえ……」
言葉の後半は、一転して笑いが消えていた。
だからあいつとは何の関係も……と言い返そうとしたが、その前にゴーランドが
ズボンのベルトに手をかけた。

楽器だらけの室内に、男の艶めいた声が響く。
「はあ……あ……ん……」
下の衣類を脱がされ、中心部を手で愛撫され、ユリウスはあられもなく悶えた。
手で盛んに刺激するゴーランドは、ニヤニヤと恋人が乱れる様を見守っている。
「時計屋。もう少し我慢しろよ。こんなに出して、本当に見かけによらず……だよな」
「うるさ……い……」
手の動きが良すぎるのがいけないんだ、と逆恨みに思う。
けれど悔しいので言われた通りに何とか耐えようとし、
「ん……っ!」
後ろに別の手が這わされ、同時に鈍い痛みが走る。
「く……おい、何を……っ!」
「何って、慣らしてるに決まってるだろ。おまえに怪我させるわけに行かないしな」
そう言ってゴーランドが、潤滑剤らしきものでぬめる指をゆっくりと沈めていく。
「痛……出せ……止め……っ」
「少しの辛抱だぜ、時計屋。ほら、力を入れるな」
言われた通り、強ばる身体を必死でなだめ、異物を受け入れるようにする。
「……良い子だ」
「く……っ!」
言うとおりにしたご褒美に指を増やされ、喜べるはずもない。
痛みと快感に挟まれ、喘ぎながらゴーランドを睨む。
「痛いか?すまないな、時計屋……でも、恋人だろう、俺たちは……」
「…………」
ふざけたコートを外し、眼鏡を取った遊園地のオーナー。
無精ヒゲや中途半端な三つ編みがまだ愛嬌を演出している。
けれど、本来は精悍な顔立ちの、品格ある男であることをユリウスは知っている。
その二つ名にふさわしい男だと。

4/5

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -