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■ゴーランドさんと一緒3

「何で、おまえは俺の告白を受けてくれたんだ?」
ワインを開け、グラスにつぎながら、ゴーランドは言った。
どうにか落ち着いたらしい。
初めて入ったゴーランドの部屋は、高価な楽器が無造作に転がる彼らしい部屋だった。
外は夜の刻に転じ、遊園地の喧噪は、少しだけなりを潜めている。
二人はソファに並んで座り、軽食を取っていた。
「おまえこそ、なぜ私などを……その、好きになったんだ」
もらったワイングラスをゆっくり仰ぎながら、ユリウスも言う。
「時計屋、質問に質問で返すなよ」
「私の方が聞きたいんだ。教えろ」
そうするとゴーランドは少し沈黙し、
「……可愛いから、かな」
「帰る」
音を立ててワイングラスをテーブルに置き、立ち上がろうとすると、
「ま、待て!おまえを馬鹿にしてるわけじゃねえ!」
ゴーランドが未練がましく腰にすがってきた。うっとうしくて仕方なく座ると、
「だ、だってよお、いい奴だし、何ていうかその……」
もごもごと口の中で呟き、ふいに髪をぐしゃぐしゃかき回す。
「だあーっ!音楽家が愛を語れないなんて、音楽家失格だぜ!」
――いやスタート地点より遙か手前から失格になっていると思うが。
万人が同意するであろうツッコミは、あえて言葉にしないでおいてやる。
ゴーランドはがばっと顔をあげ、
「とにかく、気がついたら好きだった!これでいいだろ。さあ!」
「『さあ』?」
すると彼は苛々したように、
「今度こそおまえの番だろ。何で告白を受けてくれたんだ」
「…………」
沈黙するしかない。『何となく』とはさすがに言えない。
「い、いや、その……」
冷や汗が出る。膝の上で握った拳が白くなり、声が出ない。
「時計屋……」
ゴーランドの懇願するような声。
なおも応えないでいると、ゴーランドがユリウスの肩を抱き寄せ、
「やっぱり、俺より騎士がいいのか?」
「は?」
「あんた、あの騎士がお気に入りみたいだからな。
正直、割って入れないものを感じてた」
「誤解するな。あいつはただの友人だ。それ以上でもそれ以下でもない」
慌てて否定するが、
「本当か?自分の陣営に引き入れて使ってるのに友情以上の情がないと?」
ゴーランドはそれ以上は言葉にしない。この国の誰でも、騎士の行動は
見て見ぬふりをする。ルールゆえ、ルールを乱す者への無言の制裁ゆえに。
「あいつは、ただの友人だ」
そう繰り返すしかない。
「そうだな。そしてガードの堅いあんたの懐に、唯一入れた男だ」
「……っ!」
突然、ゴーランドが唇を重ねてきた。観覧車のときのような軽いものではない。
驚いて開いた唇の隙間から舌が入り込み、激しく中を荒らす。
初めてのことに反応も出来ないでいると、ゴーランドは顔を離し、ソファに
ユリウスを押し倒した。

「お、おい、ゴーランド!」
ゴーランドは返事をせず、上着を脱ぎ始めた。不思議なことに、あの奇妙な色合いの
ジャケットとベストを取り去ると、どこか印象が変わる。
そういえば、それなりの地位を持つ男だったなと、今さらながらに確認する。
そしてゴーランドは眼鏡を取り、壊れない程度の強さでテーブルに放ると、再び
ユリウスを抱きしめた。
「お、おい、ゴーランド。今は何もしないんじゃなかったのか?」
「すまん……だけど不安なんだ。このまま何もしないであんたを帰したら、
あんたが騎士にどうかされそうでな」
「……おまえ、妄想がたくましすぎないか?何もなかったら私があいつに
押し倒される展開になるとでもいうのか?」
だがゴーランドは真剣な顔でうなずいた。
「そうだ。だから、現実にならない妄想に取り憑かれている俺を安心させてくれ」
そう言って、ゴーランドはユリウスの服に手をかけてきた。
「ち、ちょっと待て、ゴーランド!」
急なことに焦り、慌てて腕を突っ張って抵抗すると、ゴーランドは、
「嫌か?」
「い、いや、その……こういうことはもっと段階を……」
するとゴーランドは悲しそうな顔になる。
「あんたが、時計屋じゃなかったらな……遊園地に閉じ込めて、ゆっくりと
事を運んださ。だがあんたは時計塔の主で、俺と同じ高位の役持ちだ。
遊園地にはとどまれない。時計塔に戻れば騎士に先を越されちまう」
「だから!エースと私は何も……」
「すまないな。なるべく優しくするから」
「すまないですむと……んっ!」
再び唇を重ねられた。

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