続き→ トップへ 短編目次

■エースを嫁にしてみた・下

こちらから抱きしめると、応えて強く抱きしめる腕。
身動きを封じるためでなく、力を誇示するためでもない、想いのこもった……
「…………」
下半身に、何か押しつけられるものを感じる。
何というか、そっち方向の想いまでこめられてもという気もする。
顔を離したエースが、耳朶を舐めながら低くささやく。
「なあユリウス。いいだろう。俺たちは夫婦なんだから……」
「私はおまえのように盛る気分ではない。だいたい、まだ仕事が残っている」
冷たく言って、さっさとふりほどこうとする。
けれど、元々基礎体力から違う相手だ。
完全にその気になっている相手をふりほどけない。
「疲れた夫を癒やすのも妻の役目だぜ、ユリウス」
エースの手が下半身をまさぐり、別の手が服のボタンを外そうとする。
ユリウスはため息をつく。
「分かった。ならそこに突っ立ってるか、どこかに座れ。
口でしてやるから、終わったらさっさと寝ろ」
こちらが消耗するよりは、相手を満足させればいいかと腹をくくった。
「ええ、それじゃあ俺が気持ち良いだけだろ?」
エースは不満そうだった。
けれど欲求には勝てなかったか、思惑通りに解放してくれた。
場所を変える気配がなさそうなので、エースの前に膝をつき、彼の前を緩める。
「ん……」
出したエースの……を口に含むと、エースが小さく息を吐くのが聞こえた。
そのまま口を動かし、奉仕を始める。

時計塔の外は相変わらず月夜。
作業場にも、夜半にふさわしいただれた空気がこもっている。
「ん……ユリウス……すごく、いい……」
エースの声はうわずり、快感に集中しているようだ。
自分の前に膝をつくユリウスの髪を押さえ、自分自身も無意識に腰を動かしている。
――そろそろか……。
先走りのものを何度か飲み込み、冷静に試算する。
何度も何度も音を立てて刺激し、さらに舌を使い、吸い上げて、××を煽る。
「う……ダメだ……ん……」
達したくないのか、首をふる気配がする。けれど声とは裏腹に、彼自身はしっかりと
反応し、とりわけ強く吸い上げた瞬間に……
「ん……」
形容したくない、慣れたくもない味と感触が口内に吐き出される。
「……はあ……はあ……」
上からは荒い息がし、手がゆっくりとユリウスの髪から離れた。
「ゴホ……」
軽く咳をし、口元をぬぐうと、さっきの珈琲で口内を軽く清める。
「ユリウスー」
だらしなく前を出したままソファに座ったエースが、甘えるようにこちらを見ていた。
「手のかかる奴だ。それくらい自分でやれ」
けれど手近な紙を持って行き、前をぬぐってやる。
そうすると、その下でビクリと反応するものがある。
「ん……」
「おい、またか……?」
「ユリウスー。なあ、ユリウス」
こちらに抱きつき、身体をすり寄せてくる。
「おい、本当に怒るぞ?」
「すっごく良かった。良すぎて、口だけじゃダメみたいなんだ……」
それ以上は何も言わず、馬鹿みたいに抱きついてくる。
満足したはずなのに、やはりこちらの服に手をやり、脱がそうとする。
ユリウスもしまいには、冷たくあしらうことさえ面倒になり、
「……もう好きにしろ」
とだけ言った。

簡素なロフトベッドが揺れるたびに、今度こそは壊れるのではと心配になる。
――終わったら補強をするべきだろうか。
「ユリウス……もっと、集中して、くれよ……」
「ん……」
後ろから自分を責め立てる男は、この後に及んで不満そうだった。
――というか、妻役なら、こちらが挿れる側では……?
基本的なところに疑問を覚えるが、エースは勢いに任せ、腰を打ちつける。
「ん……あ……」
こちらも嫌々エースの動きに合わせて腰を動かしてやる。
「ん……ユリウス……」
内に収まるモノがさらに硬さを増し、動きも速くなる。
結合した箇所からあふれるものが、潤滑油になって彼を奥へ誘う。
「はあ……あ……」
後ろから手を回されて前を扱かれ、シーツをつかみ、必死に快感に耐えた。
「ん……エース……」
おかしくなるくらい激しく揺さぶられ、次第に何もかもがどうでも良くなる。
「ユリウス……ユリウス……!」
「……ん……エース……もっと……」
ひときわ強く突き上げられ、歯を食いしばった瞬間、
「く……っ」
内側で何かが迸る。同時に自分自身もエースの手の内で達し、解放感に視界が白く染まった。

…………

「…………はあ……」
軽く後始末を終え、仕事に戻る気にもならず、力を抜いてベッドに身を沈める。
「ユリウスー、すごく気持ち良かった……」
エースが笑って抱きしめ、キスを落とす。
「馬鹿が……」
けれどエースは嬉しそうだ。
「俺、何で男と結婚したのか疑問だったけど、やっと分かったぜ」
――というか、未だに真に受けているのか、おまえは。
第一、ベッドの中での役割が逆転している点にも、疑問を抱いてほしかった。
「すごく優しくて、真面目で、根暗で卑屈だから。
何か俺がついてなきゃダメな感じだ。だから結婚を受け入れたんだな」
「…………」
まあ、本人が納得しているのなら、と喉まで出かけたツッコミを押さえる。
事後の疲労感もあり、ユリウスはエースの腕を枕に、次第にうとうとしてきた。
――まあ、こういうおかしな馬鹿も悪くないか……。
いつになく、ほのぼのとした気分でゆっくりと目を閉じた。

…………

後日談。

「ええと、そこのうさんくさい笑顔のおまえ。私は誰なんだ?」

何が起こったのかさっぱり分からない。
ユリウスは何も思い出せなかった。
見えるのは、まるでケンカした後のように乱雑な室内。
なぜか自分の胸ぐらをつかんでいた赤いコートの男。
それと、後頭部の謎の痛み。
訳が分からず、ユリウスは目の前の男を不安な思いで見た。
今はこの男にしか、すがれない。
彼の言うことを全て信じて行動するしかない。
そして、その爽やか男はニヤーっと笑い、

「おまえは俺の奥さんだ。この前、結婚したんだぜ?」
と、青空のように薄ら寒い笑顔で言った。

3/3

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -