続き→ トップへ 短編目次

■白と黒の時間9

どれくらい揺さぶられ、奉仕を強制されただろうか。
「ん……ん……」
二人のジョーカーにいいようにされ、こぼれる涙が止まらない。
苦しさで時計が止まるのではないかとさえ思った。
「うん。前よりずっと具合がいいね。
ジョーカー、俺がいないとき、ヤリまくってただろ?」
「お、おまえだって……くそ、元の図体のときみたいな舌の使い方しやがって……」
一際強い苦痛、そして前と後ろに放たれる。
「げほっ……ごほ……」
「おい、全部飲めよ。吐いてんじゃねえよ!」
頭を容赦ない力で殴られ、嘔吐をこらえながら何とか飲み込む。
「次はどうする?そろそろ道具も使ってみる?」
「そうだな。とりあえず前と後ろを交代して……」
ジョーカーがもう一人のジョーカーと嫌な相談を始める。
ユリウスは敷布に顔をうずめ、力なく横たわる。
何も思い出せないまま、自分は永久にここにいなければいけないのだろうか。
――誰か……助けて……。

その耳に、足音が聞こえた。
誰かが、歩いてくる靴音が。

そして場に不似合いな、明るい声がする。
「はあ……探したぜ、ユリウス。
向こうにいないと思ったら『こっち』にいたのか!
しかも、また小さくなっちゃって」

赤いコートの男だ。暗闇の中、自分に笑いかけてくる。
「ちょっとちょっと、処刑人。ここはプライベートな場所なんだけど?」
身を起こし、ジョーカーが迷惑そうに言った。
「ごめんごめん、ジョーカーさん。俺、迷いやすくてさ」
そう言いながら、赤いコートの男は剣を抜く。
「でも、おかげでこんな場所まで迷い込めた」
全てを叩き斬りそうな大きな剣。それがジョーカーたちに向けられる。
「それじゃあ、ジョーカーにジョーカーさん。
楽しんでたとこ悪いけど、『それ』を返してくれるかな?」
暗闇の中、ユリウスは男の目が光ったように思えた。
獣のような、全てを威圧する鮮やかな緋色。
「けっ。そう言われると返したくなくなるな。
人の部屋にズカズカ乗り込んで、得物出して、脅迫か?」
「もう少し楽しみたいんだけどな、何なら、混ざる?」

風がうなったような音がして、ハッと見ると、ソファが一刀両断にされていた。

「返せ」

赤いコートの男は、それだけ言った。
顔も声も、もう笑ってはいない。
「分かった分かった。余裕がないなあ。次は俺たちを本気で斬るつもりだったろ?
勘弁してくれよ。こっちは就寝時間で丸腰なんだからさ」
ジョーカーが起き上がり、自分の服をさっさと整える。
もう一人のジョーカーもそれに続き、
「こいつはこのままでいいな。どうせ戻る前に、おまえも突っ込みまくんだろ」
「……っ!」
乱暴な方のジョーカーが自分の身体をつかんだかと思うと、素裸のまま放り投げた。
「っ!」
誰かが自分を受け止める。もちろん赤いコートの男だ。
するとコートの男はもう用はないと言いたげにクルッと向きを変え、ユリウスを
抱いたまま部屋の出口に向かう。
悪夢の終わりはあまりにもあっけなかった。
「じゃあね、処刑人、ユリウス」
「……またな」
最後に肩越しに見たとき、一人は笑い、一人は無表情に自分を見ていた。

…………

ここはどこなんだろうと、ユリウスは辺りを見る。
檻が並ぶ奇妙な場所。思い出せそうで思い出せない。
そもそも、自分を連れ出したこの男は誰なのだろう。
腕に抱えられ、そっと見上げると、自分を見下ろす瞳と目が合った。
「っ!」
ビクッと身をすくませると、優しい笑顔で言われた。
「もう心配いらないぜ。この正義の騎士が塔まで連れて行ってあげるからな」
正義の騎士とは何なのだろう。

それに、助けられたはずなのに……不安が増していく。

今は、ユリウスの身体に赤いコートをかけ、両腕で抱えてくれているが。
その自信に満ちた足取りでどこに行こうとしているのか、分からない。
だがきっと出口だろう。騎士は少し身をかがめ、額に口づけをしてくれた。
優しい仕草なのに、不安はどんどん強くなっていく。

まさか……何度か思い出しかけた、自分を苛んでいた男の幻影は……

「大丈夫。思い出せないなら俺が思い出させてやるよ。
俺が……ジョーカーさんたちより、もっと激しい方法で、な」

暗く淀んだささやきが落とされる。
けれどその内容を理解するよりも先に、ユリウスは疲労でまぶたを閉じた。
そのままゆっくりと闇に沈んでいく。
次に目を開けるとき、さらなる闇が待っているのだと、どこかで悟りながら。


9/9

続き→

トップへ 短編目次

- ナノ -