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■白と黒の時間8

「痛……やめ……」
後ろに指が潜り込み、悲鳴を上げる。
必死で逃げようとするけれど、押さえつける力は頑強で、身体が全く動かない。
ジョーカーの指先は瓶の中身である潤滑油をまとっている。
だが、それで苦痛が緩和されるわけでもない。
「やめ……て……」
泣きながら懇願するが、
「ああ、止めてやるさ。俺が楽しむだけ楽しんだらな」
残酷な宣告とともに、ジョーカーはユリウスの下を全て取り去ると、己の前を緩めた。
恐怖の記憶も覚めやらぬユリウスは、ひっと身体を凍りつかせた。
だがジョーカーは、そんなユリウスには構わず、
「いくぜ……」
先走りに濡れるそれをユリウスに押しつけ、一気に押し入った。
「い……や……っ」
身体が引き裂かれるかと思う痛みに時計が止まりそうになる。
衝撃に慣れる間もなくジョーカーが動き、ギシギシとソファが揺れる。
「いや……ああっ……やめて……出して……っ」
「……く……力を抜け……くそ……」
涙混じりの懇願と、切なげな低い声。
押し込まれるたびに内蔵が圧迫されるかと思う異物感と痛みが走り、悲鳴が上がる。
けれどジョーカーは止めることも緩めることもなく、ひたすらに責め続けた。

「…………」
「時計屋……ああ……時計屋……」
どれくらい経ったのか分からない。
結合した箇所から零れる赤混じりの体液がソファを汚している。
ユリウスは声も枯れ、抵抗する力も失せ、両手を投げ出し、無感動に宙を見つめていた。
――これと同じことが、あった気がする……。
あったとすれば、これ以上の悪夢はない。
けれど、こんな風に強要され、抵抗を封じられ、叫び疲れて、なすがままにされていた
ことが……あった気がする。その相手は、自分を揺さぶるこの男だっただろうか。
けれど考えようとするたびに突き上げられ、痛みに喉の奥から小さな悲鳴が上がる。
快感に理性を奪われ、一心に責めるジョーカーも限界が近いようだった。
律動が激しくなり、圧迫感に思考が虚しく散っていく。
「はあ……はあ……う……」
小さな相手でジョーカーも楽ではないのだろう。
こぼれた汗がユリウスの身体に落ち、流れる。
勢いをつけ、渾身の力で押し込まれ、それは次第に速くなる。
いいように揺さぶられ、嬲られながら、ユリウスは何とか考えようとした。
――あれは……自分を押さえつけていたのは……
「時計屋……ユリウス……っ」
一瞬の間、赤い影が脳裏を横切った。
次の瞬間に、ジョーカーが一際強い声を上げ、ユリウスの中に放った。

…………
こんな場所、早く出て行きたい。
けれど思い出せない。
だからここから出られない。
早く、思い出さないと……。

ユリウスは暗闇の中で目を開ける。
「起きたか?」
「起きた?」
両隣から声をかけられた。
自分の隣に怖い方のジョーカーが眠っていて、片腕を自分の身体に回している。
逆隣には、寝間着に着替えた道化のジョーカーがいて、彼もユリウスの身体に腕を回す。
「…………」
「そう強ばった顔で見ないでよ、可愛いな」
ジョーカーがこちらに覆いかぶさり、キスをしてきた。
「ん……」
舌を絡め取られ、唾液が混ざる嫌な感触。けれど抵抗しても無駄だと知っているので
やりたいようにさせる。
背中を抱かれ、胸に抱き寄せられる。
「好きだよ、ユリウス」
「…………」
――誰かに、これと同じ事を……。
また何かを思い出しそうになる。
そうだ、名前だ。
確か『誰か』は自分のことを『時計屋』とは呼ばなかった。
「おい、集中しろよ、時計屋」
乱暴に言われ、我に返る。
いつの間にか抱きしめる相手は粗暴な方のジョーカーに代わっていた。
彼はユリウスを睨みつけ、
「そんなに俺に抱かれるのは嫌か?」
「ん……っ」
噛みつくようにキスをされ、呼吸が辛い。
「ジョーカー。散々ひどいことをしておいて、好かれようなんて図々しすぎだろ?」
すると抱きしめていた方のジョーカーが身体を離し、肩を押してユリウスを
ベッドに押さえつける。
「べ、別に俺は好かれようなんて思ってねえよ、ただこいつが……」
「そうだね。ちょっと思い出しかけてるみたいだね」
「…………」
知られては不味いことを知られた気がして身体が強ばる。
「……ん……」
横たわるユリウスに、ジョーカーがもう一度、唇を重ねてきた。
大人しくされるがままになっていると、舌は耳元をたどる。
怖さとくすぐったさとに震えていると、
「そうだ、その調子で思い出せ。早く出て行け……」
自分だけに聞こえる声で、小さくささやかれた。
「……?」
問い返す前に、ジョーカーの手が自分の身体をそっと這い出す。
「ジョーカー、もう少し休ませてあげたら?」
もう一人のジョーカーが笑い、けれど彼の手もユリウスの下半身に触れる。
これからされることにすぐ思い至り、必死に暴れる。
「……っ!い、いやだ……!」
「うるせえっ!」
ジョーカーに怒鳴られ、服のボタンを外される。
もう一人のジョーカーも手早くズボンを下ろし、すぐに一糸まとわぬ姿にされた。
どれだけ叫んでも、救いはどこにもない。

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