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■サーカス南瓜戦線・下

サーカスの前で、道化と騎士に両腕を捕まれた、南瓜を持った時計屋。
男に取り合われている薄幸のヒロイン……ではなくシュールな風刺画だ。

エースが言う。
「さ、帰ろうぜ。ユリウス。新婚旅行の件についてはもう一度話し合おう」
ついユリウスがツッコミを入れる。
「いや、新婚旅行に行くほど観光地があるわけじゃないだろう、この世界」
ジョーカーが口を挟む。
「待ちなよ、ユリウス。サーカスで俺と愛し合うために来たんだろう?」
「いや、何でそんなエキセントリックな場所で愛し合う必要があるんだ」
そして切れる仮面。
『だー、時計屋、お前、やっぱツッコミキャラ向いてねえよ! 
 もう少し事態を収拾する方向にツッコミを入れろよな!!』
「ああ。ツッコミいれるポイントが違うと、他人からよく指摘されるんだが……」
そして南瓜が重い……。


「よし、じゃあもっとベタベタに、ユリウスを賭けて勝負する? ジョーカーさん」
エースがやっとユリウスの手を放し、剣をかまえる。
同時にジョーカーも手を放しナイフを構えた。
「いいね。勝った方がユリウスのプロポーズを受けるということで」
「乗った!」

――……私は誰にもプロポーズしていないのだが。

そして始まるやかましい鉄のぶつかりあい。
猛烈な勢いで剣戟(けんげき)をはじめる二人をよそに、ユリウスは南瓜を抱え
戦線を離脱しようとし――エースのキャンプセットが目に入った。


…………

…………

ごはんができたぞー。


……そしてなぜか話は監獄に移る。

「へー、ユリウスって結構料理も出来るんだね」
「うん。南瓜がホクホクしてて美味いぜ」
「わ、悪くねえな。時計屋」
「…………まあ、どんどん食べてくれ」
ここは監獄。

あれからどうなったかと言えば、ユリウスがエースのキャンプセットで南瓜の
煮物を作ってしまった。その煮物の匂いに、馬鹿二名は戦闘を中断した。
だが、いざ食べようとしたとき、仮面のジョーカーが、自分だけ食べられないと
ゴネ出した。
なので、アレやらコレやらの謎の技術や能力をフル活用し、鍋をサーカスから監獄に
持ってきてしまったのだ。

エースが南瓜の残りを使って何品か作り、ジョーカーが妙な手品でパンやワインを
出し、それなりに満足出来る食卓になった。

……そして制服四名で食卓を囲んでいる。

シュールだ。非常にシュールだ。
そして食い物につられて平和が訪れるあたりがとことんベタだ。
とは思いつつ、ようやく南瓜の煮物を口に出来、ユリウスは至福だった。
さっきまでの妙なやりとりや諍いの空気は消えている。
ジョーカーとエースが、親しげに笑いあう姿まで見えた。
――こういうのも悪くは無いか。
いろいろトラブルは起こったが、それなりに楽しかった。
外に出るなど冗談ではないと思っていたが、こんなにぎやかで面白いことがあるなら
たまには外に出て誰かと接するのもいいかもしれない。
ユリウスは煮物を口の中で転がしながら思った。
そして隣では、いち早く食べ終えたエースが、空になったワインの瓶を振る。
「あー、食べた!ジョーカー、もっと飲み物ない?」
「ああ、あるぜ。秘蔵の酒だ。飲んじまおう」
口の悪い方のジョーカーが、意気揚々とラベルのついた酒瓶を持ってきた。
「あれは美味いよ。ユリウスも飲みなよ」
白いジョーカーも機嫌よく笑う。ユリウスもつい笑顔になり、
「ああ、いただこう」
そして、南瓜パーティーは男四人の酒盛りへと移行した……。

…………

ユリウスが目覚めたとき、彼は無駄に豪華なベッドの上にいた。
「…………何で、記憶が何もないんだ?」
ユリウスは痛む頭を抱える。
次々に出される酒を開けていき、その後の記憶がない。
だが服に乱れはなく、身体もきれいだった……酒盛り前よりずっと。
『俺たちがユリウスをとことん疲れさせちゃったから、ユリウス本当によく寝てさ。
悪いことしたと思ったから、身体はきれいにしておいてあげたよ』
起きたとき、白ジョーカーはベッドのかたわらでニヤニヤ笑っていた。
意味はよく分からない。だが、記憶を失う前にエースと二人のジョーカーから大量に
酒を飲ませられたのは覚えている。恐らく戻してしまうなどの醜態を演じ、酒を
勧めた責任から、ジョーカーがきちんと後始末してくれたのだろう……多分。

ユリウスは制服姿でベッドから起き上がる。そして頭痛に頭をおさえた。
「めまいが……」
だが不思議なのは、頭どころか身体のあちこちまで痛んでいることだ。
しかも身に覚えの無い小さな傷が、色んな箇所に散らばっている。
重い体を抱えるユリウスの前で、エースはジョーカーと談笑している。
「四人ってのも結構いいもんだね」
「是非、またの機会をもうけよう!」
と笑ってジョーカーと肩を叩きあっている……恐らく食事の席の話だろう。
すっかり仲が改善されたようで結構なことだ。
……気のせいか酒盛り前より、連携が深まっているようにも見えるが。
そして彼らはときおりユリウスを指差し、邪悪な笑いを浮かべている気がする。
……だがきっと目の錯覚だ。
身体が痛むのはきっと酔って転んだのだろう。
あちこちに散らした傷跡については……蚊に刺されたのだ。
酔って転んだだけでは痛まない箇所が痛むし、監獄に蚊がいるのか謎だが、きっと
そうに決まっている。そうでもないと説明がつかない……つけたくない。

「さあ、帰ろうぜ、ユリウス」
こちらに歩いてくるエースの顔は最高にきらっきらしていた。
そして、その顔を見て、ユリウスはなぜだか、なぜだか、深く深く決意した。

――もう二度と、外には出ない!

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