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■対抗心・下

「はあ……はあ……」
高まっていたものが冷めれば、濡れた衣服の感触が気持ち悪い。
快感の残滓でぬめる手を抜いたグレイさえ憎らしくて、睨みつける。
「おい、服が汚れただろう。どうしてくれるんだ」
「はは。おまえに触れたくてつい急いでしまったんだ」
「人ごとだと思って……」
「怒るなよ。もっと良くしてやるから」
そしてグレイの手がユリウスの下衣をつかみ一気に下ろした。
シャツ一枚を羽織っただけの姿になったユリウスは外気に少し震えた。
爬虫類はというと、上機嫌で手に潤滑剤を塗りつけ、指でのばし、量を確かめている。
ユリウスはチラリと、脇に見える床に視線をやり、
「トカゲ、熱中しすぎて落とすなよ」
「保証は出来ないな。心配なら今度はダブルベッドでも買っておいてくれ」
「そんなことが出来るかっ!……あ……」
後ろに感じる異物感に身体が強ばる。
グレイはユリウスを傷つけないよう慎重に慣らしていく。
おかげで痛みの引きは早かったが、内部をグレイの指が動くたびに、じわじわと
むずがゆい熱が上がっていく。グレイもそれに気づいたのか、
「時計屋、もう少し待て。そこまで素直にされると……悪さをしたくなるな」
言うなりグレイは、再び起ちあがりかけたモノをつかみ、指の腹でこする。
「お、おいっ!……この……っ」
良いようにされて腹が立つが、反応していると思われると恥な気がするので何とか
気をそらそうとした。だが目をそらすほどに下半身に意識が集中してしまう。
「ん……ん……」
執拗に与えられる快感に先端から再びあふれる液を感じた。
調子づかせるようで嫌だが、これ以上悪さをされてはこちらが持たない。
「トカゲ……頼むから……もう……」
「そうかそうか。そんなに待ちきれないのか?こんなにこぼして、仕方がない奴だ」
ニヤニヤしながらこちらの下半身を見下ろす爬虫類に腹が立つ。
――コトが終わったら、しばらく出入り禁止にしてやる。
さっきまでユリウスに怒られることをビクビクしていたくせに、勝手なものだ。
だがユリウス自身の思考もそこまでだった。前を出したグレイがユリウスの足を抱える。
「時計屋、行くぞ」
「あ、ああ……う……っ!」
瞬間、先ほどとは比にならない圧倒的な異物感と痛みが頭の中を染め、歯を食いしばる。
限界まで硬くなったモノが奥まで一気に貫いた。
「すまない、時計屋。俺も……限界なんだ……」
グレイはユリウスを苦しそうに見下ろしながら、緩慢に動き出す。
「はあ……あ……」
痛みと快感が混ざった喘ぎ声が喉から漏れる。
つながった箇所は潤滑剤と二人の体液で濡れた音を立て、抽送のたびにそれが強く
なる錯覚に襲われる。
「トカゲ……あ……」
腰を引いては体重をかけて押し入られ、のけぞって声を上げると、さらに深くに押し
入れられる。遠慮がちだった動きは次第に遠慮が無くなり、何度も揺さぶられて
痛みも遠くに押し流される。
ユリウスはソファの滑らかな生地をつかみ、大きく声を上げた。
熱い汗が身体の上にしたたる。つながった部分からあふれ出た汁が身体をつたい、
床に淫猥な水だまりを少しずつ広げていった。

いったいどれくらい攻め立てられたのか、ユリウスにも分からなかった。
熱に浮かされた頭で感じるのは、限界が近いことと、このままつながっていたいこと。
張りつめたものがさらに奥に押し入り、それだけでイキそうになった。
だが、もう持たない。
汗がにじむ視界でグレイを見上げ、視線が合う。
「……っ!!」
瞬間に最奥を激しく突かれ、一際大きな嬌声を上げ、ユリウスは達した。
次いでグレイもくぐもった声を出しながら中に一気にほとばしらせた。

「はあ……はあ……」
ゆっくりと引き抜かれ、圧迫感が去って行く。そのことに安堵と未練を感じながら、
ユリウスは満たされた脱力感に目を閉じた。

「狭いな」
「もともと一人用なんだ。仕方ないだろう」
闇の中に二人の声が響く。後始末を軽く終えた後、今度こそベッドに移り、二人は
会話を続けていた。グレイの胸に頭を乗せ、抱き寄せられながら、ユリウスはうとうとと話す。
「まあ、私も料理くらいは出来るし、暇のあるときに私の部屋に来い。
時計屋は人の出入りは少ないし、私はいつもここにいるから」
自分で聖域と拒んだ場所に男を誘うのだから世話が無い。そんな意地悪な指摘が
来るかと思っていたのに、なぜかグレイは渋い顔だった。
「だから嫌なんだ。引きこもりのおまえをもう少しいろんな場所に連れて行って
やりたいのに、俺が通っては余計にこもらせてしまうだろう」
「……あのなあ。お互い、大人なんだ。人の生活態度など別にいいだろう」
「良くないさ。おまえは俺の恋人なんだぞ」
今度は保護者が入っているグレイに呆れる。ある意味、あのダメ上司に対する
ものと同じ目線で見られているかと思うと、嫌な気分になる。
会話を打ち切るため、ユリウスは顔を上げ、グレイを強く抱き寄せた。
そのままベッドの上で二つの影が寄り添い合う。
自然とどちらともなく互いの身体をまさぐり出し、熱がまた少しずつ高まってくる。
しかし一人用のベッドは早くも悲鳴を上げ始める。落ちないかもしれないが、
今度は底が抜けそうで心配だ。
「ダブルベッド……そのうち本当に買うか?トカゲ」
「やめてくれ。時計屋にそんなものがあったら俺は笑い死にしそうだ。
それよりも、いいか?今度の今度こそ、時間を作るから市内の高級料理店で――」
「わかった。わかったから、終わった後にしよう」
「忘れるなよ、時計屋」
グレイはまた自分がリードする気満々なのか、上になってユリウスの身体に触れてくる。
――まったく、本当に世話の焼ける奴だ。

ユリウスは苦笑し、子供っぽい恋人を抱きしめ、優しく唇を重ねた。

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