続き→ トップへ 短編目次 ■サーカス南瓜戦線・中 「どうしたんだい、ユリウス」 ジョーカーは珍しく伊達男の表情を崩し、ポカンと口を開けている。 「引きこもりの君がサーカスでもないのにこんなところに来るなんて。 何があったのさ。それとも俺たちに何か用事?」 「え……何なんだ?」 見回してみると、確かにそこはサーカスの設営地だった。 「それはこっちの台詞だよ。どんな風の吹き回しなのさ」 「あー……」 つまり、道を間違えた……。 サーカスは、常ならば時計塔のある位置に近い。 あれやこれやで判断力が鈍り、つい、いつもの道をたどってしまったのだ。 ジョーカーはユリウスの抱えたカボチャをしげしげと眺め、 「しかも、そんな大きな南瓜抱えちゃってさ。それどうするんだよ」 『相変わらず頭のおかしな男だな。とっとと巣に戻れよ』 訝しげな白ジョーカーと、悪態をつく黒ジョーカー。 苦手な面々の前で失態を晒したことに赤くなり、 「い、言われなくともそうする。じゃあな」 立ち去ろうとして、 「あ、ちょっとユリウス」 腕をつかまれた。 振り払おうにも、一抱えある南瓜を持っていては難しい。 「何だ?」 不機嫌に振り返ると、嫌な笑いを浮かべるジョーカーがいた。 「……何か用か?」 「うん。せっかく『こっち』で会ったんだ。サーカスを見学していかない?」 「……見学ついでに舞台裏に引きずり込むつもりか?」 「さあ、どうだろうね? まあお茶でも出すからさ。ゆっくりしていきなよ」 いい加減、南瓜を持つ手が重い。 それを知ってかジョーカーはグイグイとユリウスを引っ張っていく。 「ちょ、ちょっと待て、ジョーカー!」 「ま、いいからいいから」 不味い。このままでは歓迎したくない展開になってしまう。 銃で応戦しようにも、もちろん両手が塞がっている。 「はなせ、ジョーカー!」 「ふふ。歓迎させてもらうよ……たっぷりとね」 「待ちなよ、ジョーカーさん」 そこに、鋭い声がした。 「!!」 二人が振り向くと、木立の間に一人の影が立っていた。 緋色の鋭いまなざし、隆とした長身の騎士、構えられた剣に迷いはない。 ……遭難する気満々だったのかキャンプセット一式を背負っているが。 「騎士っぽい登場の仕方じゃないか? 珍しいこともあるもんだ」 ユリウスの腕を放さないまま、ジョーカーは笑った。 「ユリウスを探そうとして、道に迷ってサーカスにたどりついたに決まってるだろ!」 相変わらず自慢出来ないことを胸を張って言い切る。 「それより、ジョーカーさん。俺のユリウスに手を出すのは止めて欲しいな」 するとジョーカーは意味ありげな笑いを浮かべる。 「『俺の』、ねえ。相棒はともかく君とは、ユリウスを共有する気にはなれないな。 悪いけどお邪魔虫は帰ってくれないかな。三人相手は無理だろ。 俺はユリウスの身体を大事にする男なんだよ」 「……何の話をしているんだ、お前は」 しかも、賭けてもいいが大嘘をついている。 「俺だってユリウスを大事にしてるぜ、ジョーカーさん」 大嘘をつく男その2がキャンプセットを地面に置き、剣を構えなおす。 「俺はさっきユリウスからプロポーズをされたからね。 騎士として、未来の妻をサーカスに渡すわけに行かないぜ」 「は……?プロポーズ?」 ポカンとするジョーカー。 『な……っ!!き、聞いてねえぞっ!!』 腰の仮面が、やけにショックを受けたような声で叫んだ。そして、 「え……やっぱり、私が妻役なのか?」 突っ込むべき点はそこではない気もするが、ユリウスは突っ込まずにいられない。 ユリウスの真剣さが伝わったのか、エースもしばし考え込み、 「……騎士として、未来の義理の父をサーカスに渡すわけには行かないぜ」 「いや、言い直さなくとも。それにその言い方だと、まるでお前が私の娘と結婚する ように聞こえるんだが……」 というか今どき、養子縁組という発想がやっぱりベタだ。 「えー、じゃあ何がいいんだよ、ユリウス。 義理の兄弟とか、敵同士のキャラと見せかけて実は遠い昔に別れた血縁でした? なんかベタベタすぎないか?あれって誰も気づいてないと『当人同士だけ』は信じ 込んでいるみたいだけど、ベタ過ぎて実はバレバレ。 でも今さら指摘するのも可哀想な気がして、皆して口つぐんでる。 そんな気がして仕方ないんだよな」 ……どうあっても『夫役を譲る』という発想はないらしい。 それにしても、血縁について何か心当たりがあるように見えるのは気のせいか。 ジョーカーも戸惑いがちに話しかけてきた。 「え、えーと、それじゃ結婚式の打ち合わせに来たのかな? 式の余興でサーカスの演出をしてほしいならお値段交渉を……」 「冗談に決まっているだろう!そろばんを出すなジョーカー」 「じ、冗談!?俺を弄んだのか?ひどいぜ、ユリウス!」 ひどく衝撃を受けたらしいエース。 『結婚ちらつかせて金をむしろうとしたのか?お前もやるなあ、時計屋!』 一人沈黙していたと思ったら、非常に嬉しそうに話し出す黒ジョーカー。 「そうだね、男心を踏みにじるような悪い子にはおしおきが必要だ。 じゃあ、ユリウス、一緒に監獄に行こうか」 「いや、この程度のことで罪悪感を持つわけがないだろう!」 「この程度のこと!?俺はユリウスのプロポーズを受けようか、 それともユリウスを殺そうか本気で悩んだんだぜ!?」 「ちょっと待て、普通『受けるか断るかで悩む』だろう! 何で『受けるか殺すかで悩む』になってるんだ!」 ……何か突っ込み疲れてきた。 2/3 続き→ トップへ 短編目次 |