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■名前

※R18

縛られた手首が痛い。
どれだけ責められたか。時折視界が白く染まりかける中、誰かの声がした。
どこか驚嘆しているような声だった。
「なぜ……これで……。俺にここまでされて……」
――ああ。そう、かもな。
自分もまた狂っているのだと、内部でわき上がる熱を感じながら思う。
快感を考慮されずここまで手ひどくされて、なぜ起っているのか自分でも判らない。
「はあ……はあ……」
触れられもせず、先端がぬめりを帯びる。
声に自覚出来るほど艶が混じり、頬が熱くなる。
浅ましい姿を晒し、もう相手の顔を見たくもない。
――もっと、強く……もっと……
かすかにぼやける視界で陵辱者を見ると、望んだ通りに動きが激しくなる。
ユリウスは快感と苦痛に叫び、グレイを見上げる。グレイは、
「時計屋どうした。涙を見たくらいで、俺が止めるとでも……」
その割に、どこか戸惑った声がする。
「……手首を……」
「何?」
「ほどいてくれ……もう、必要ないだろう?」
――そんな拘束が無意味なほど、おまえは抵抗を許さなかったな。
「ああ。そうだな。もう、俺はおまえを……」
ゆっくりと、戒めがほどかれていく。
「…………」
ユリウスは解放された自分の手をゆっくり動かし、血のにじむ手首の傷を見た。
だが、感傷に浸れたのも一瞬だけ。
「いくぞ」
「――っ!!」
律動が再開され、身体が揺れる。だが手首を自由にされたため、どうにか平らな床に
手をやり、何とか身体を支えた。
「はあ…あ……トカゲ……」
ユリウスの苦痛を考慮しない攻めが、不思議に誰かと重なる。
――だが、違う。どうしても、違う……。
何も見たくないと、腕を目にやり、視界をふさいだ。
激しい呼吸が聞こえる。低く、うめくように自分を呼ぶ声。
――…………ース……
自分を抱いているのは別の男だ。必死にそう念じる。そう思うと、不思議に熱が
高まる。いつしか自分も動きに合わせて腰を動かし、欲望のままに請うた。
「あ……あ……―――っ!」
達した瞬間に、自分を組み敷く男とは違う名前を叫んだ気がした。
だが頭があいまいでよく分からない。
「時計屋……っ!!」
グレイがゆっくりとユリウスの内から出、腹の上に何度目か分からない白いものを
吐き出した。
解放されたユリウスは、荒く息を吐きながら、慎重に夢魔の部下の様子をうかがう。

だが、グレイはあれほど気にしていた『前の男』の名を聞いた風ではない。
いつものように、わずかに微笑んで口づけた。
それだけだった。

――それで、この後はどうするんだ?時間をおいてまた『同じ事』をする気か?
手首をさすりながらユリウスが問おうとしたとき、声がした。
「グレイ様!」

扉が激しく叩かれ、グレイは起き上がった。
身体を強ばらせるユリウスの口をわざわざ押さえ、
「何だ」
「休憩時間中に申し訳ありません!塔内で複数の爆破!
刺客とおぼしき者たちが多数入り込んだ模様です!」
「そうか。ナイトメア様不在の情報が漏れたのか。
市内の混乱に乗じて塔を落とす気か……分かった。すぐに行く」
グレイは部下を下がらせると、素早く身支度をととのえ、ベッドから下りた。
「休憩時間?」
聞かずにいられなかった。確か尋問のはずだ。
グレイは悪びれもせず肩をすくめ、
「尋問を兼ねた休憩時間だな。おまえは口が堅いし、帽子屋のように危ない橋を渡る
タマでもない。叩いたところで有益な情報はさほど出ないだろうと推測していた」
――こいつ……。
少しでも情報を得たいというのは本音だろうが、尋問を盾に自分が楽しむ意図も
あったらしい。そう長くはない時間だったとは言え、厚顔さに、さすがに呆れる。
「だが当分、おまえは監視下に置かせてもらう。
時計屋と時計塔の動きが、クローバーの塔の利益を損なわないと判断出来るまで。
拒否するのであれば、ナイトメア様の名に置いて、時計塔への援助は一切打ち切る」
拒否する――とはとても言えなかった。
仕方なく渋面で、なけなしの反撃をする。
「で、蓑虫はどこにいる?そもそも、あいつがいれば私の心を読んですぐ終わったし
抗争もこんな塔の深部まで持ち込ませなかっただろう?」
抗争が飛び火し、塔陥落目的の刺客連中まで入り込んだ。
領土争いはこの世界のゲームだが、中立の塔まで巻き込まれる事態は尋常ではない。

グレイは苦々しい表情で、
「ナイトメア様は不在だ」
「何?」

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