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■縛られる日常

※R18

宵闇に包まれる作業室に、懇願の声が響いていた。
「はあ……あ……トカゲ、もう……」
「ダメだ。もう少し我慢しろ。傷は最小限にしたい」
冷たく突き放され、ユリウスは必死で首を振る。
すでに前を開けられ、下は引きずり下ろされている。
外気に晒されたものが雫をこぼし、解放を待っていた。
だがそこまで導いたグレイは達する寸前のユリウスの根元を押さえ、後ろを解す作業に
専念しているようだった。
「あ……ああ……」
濡れた指が潜り込む淫猥な音が響き、その音がユリウスを煽り立てる。
だがイキたくともどうしようもない。
手首も縛られ、出来るのはただ与えられた快楽と苦痛を享受することだけだ。
崩れかけのプライドは瓦解し、何度もグレイに懇願するが一向に聞き入れられない。
「そろそろ、いいか」
対するグレイは冷静だ。どこか計算している気配さえ感じる。
水音を立てて指が引き抜かれ、片足だけ抱えられ、入り口に何かが押し当てられる。
「入れるぞ」
形ばかりの抵抗など嘲笑されるだけだろう。ユリウスはただ待っていた。
ほどなくして、鋭敏な部分に熱い塊が押し入ったのを感じ、ユリウスはのけぞる。
「ん…………!!」

十分に慣らされた隘路に易々と入りこまれ、奥まで貫かれて悲鳴が漏れる。
その刺激だけで達しそうになるのに、グレイの手は未だにユリウスを抑えている。
「トカゲ……頼むから……」
「まだだ」
そして静かにグレイが動き始め、悪寒にも似た快感が背筋を走り抜ける。

「はあ、あ……」
貪欲に快楽を求める身体は理性を無視して勝手に動き出す。
「……そうだ、もっと動いてくれ」
ぼんやりした頭は支配者に忠実に従い、醜い姿を晒す。
グレイは次第に深く激しく腰を打ちつけ、荒い声で言う。
「もっと見せてくれ。浅ましいおまえを……俺に抱かれて喜ぶおまえを……」
いつの間にか、手首を縛っていたネクタイがほどかれていた。
ユリウスはグレイを抱きしめ、より彼を奥に引き入れようと抱きよせた。
身体はどこもかしこも熱く、頭まで快楽で溶けそうだ。
わずかな思考も、激しく揺さぶられるうちにかすんでいく。
――駄目だ。いいようにされていては……
頭の隅で叫ぶ声がする。涙があふれ、頬をつたった。
だがグレイが動くたび、その思考すら霧散していく。
残るは重苦しい罪悪感と、快楽に逃避しようとする自分自身。
「時計屋。何も考えるな。俺が背負うから……俺のことだけ考えていろ」
見透かしたようにグレイが言う。ユリウスはただ、抽挿に合わせ動いた。

「そろそろ……イクぞ、時計屋」
「ん……ああ……」
激しすぎてもう何も考えられない。グレイの手がユリウスを解放する。
堰が切れ、快感の波が押し寄せたかと思うと、ユリウスは絶頂を迎えた。
声を上げながら熱をほとばしらせ、高ぶるままにグレイにしがみついた。
「時計屋……っ!」
次いで自分の最奥に熱いものが放たれた。
「はぁ……はぁ……」
息までが熱い。固い木の床が汗を吸い取って湿っている。
グレイはゆっくりとユリウスの中から自身を引き抜くと、口付けを落としてきた。
後ろからあふれた白濁した液がユリウスの身体を伝い、床にこぼれる。
そして熱が冷めたユリウスの頬に、屈辱の涙が伝う。
「くそ、私は……私は……」
時計をバラバラにされそうな激しい嫌悪がわきあがり、痛みに耐えていると、
「時計屋、おまえのせいじゃない」
ユリウスは素っ気なく、
「もう出て行ってくれないか?私を好きにして気が済んだだろう?」
だがグレイはユリウスを抱きしめる。
「いや、俺のせいだ。俺が策を弄し、自由を奪った」
そして一度身体を離し、下半身に熱の残滓を散らすユリウスを見る。
静かに言った。
「だから仕方ない。そう思えばいい。そう考えると楽だろう?」
「…………」
ユリウスは振り向き、ただグレイを凝視した。

…………

…………

「また、縛るのか?」
手首に布を巻きつけるグレイと、静かに見ている自分。いっそ茶番だ。
グレイはユリウスの作業室にいる。
懸案の話し合いとは名ばかりのこと。抵抗がないのをいいことに念入りに縛り上げた
グレイは軽く引っ張り強度を確かめる真似さえしていた。
「抵抗されないようにな」
「抵抗など、もうしていないだろう……」

あれ以来、扉を閉ざせなくなった。なぜなのかは自分でも分からない。
ルールは適用中のはずなのに、グレイは入ってこられるようになった。
グレイが何を目的で作業室を訪れるかを知っていて入れてしまう。
そしてグレイに縛られている己がいた。
「いいや。おまえのせいではない。俺が強要しているから、仕方ない」
「…………」
グレイの本心はときどき分からない。
抵抗する手段を奪ったグレイはユリウスの頭を優しく撫で、唇を重ねる。
――今も『代わり』になりたいと思っているのだろうか。
ユリウスは目を閉じて、甘受した。
「時計屋……」
夢魔の部下は微笑み、そっと、ベッドにユリウスを押し倒した。

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