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■別離・上

そして時間帯は容赦なく進む。
ユリウスは時計を修理し続けていた。
あれから時計の修理を再開した。理由は自分でも分からない。
時計の墓場と化した部屋を片付けるのは並大抵ではなかったが、何とか乗り切った。
「ユリウス、時計を持ってきたぜ!」
「……ご苦労」
そして今の時間帯も、次の時間帯も、その次の時間帯も時計を修理する。


三月ウサギはまだ逃げ回り、親友の時計はまだ時計塔に戻らない。
だが三月ウサギと完全に切れたことで、帽子屋も時計塔にちょっかいを出すことは
なくなった。望んでいた平穏は望まない形で戻ってきた。
ユリウスと騎士の関係はと言えばさして変化は無い。
最近は半ばあきらめ気味に騎士を受け入れるようになった。
帽子屋の妨害は終わったものの、もともと葬儀屋の評判は悪い。
新たな時計回収役がすぐさま集まるわけでもない。
結局、今は騎士に頼るしかない。
迷子癖のおかげでそう頻繁に塔に顔を出すわけでもないし、流されれば
苦痛さえも単なる日常に同化する。
今までと変わりない、これからも変わらない時間の中で。
役割を放棄した男を手駒とし、役割に忠実に生きていく。
そうして、ユリウスは以前と違う形での平穏に沈もうとしていた。

…………

「はぁ……はぁ……」
冷たい汗で髪が首筋に張り付いて気持ち悪い。やはり少し切るべきだろうか。
脱がされた身体にコートだけ引っ掛けているのも滑稽だなと、どこか冷静に思う。
「……ぐっ!」
「ユリウス、もっと集中してくれよ」
下から突き上げられ、思わずのけぞる。
「はは。俺がそこまで欲しい?嬉しいぜ」
「何を……バカな……」
笑顔の部下の方は汗一つなく、むしろ嫌な汗をかいているのは自分の方だ。
「何?俺を差し置いて他の男のこと考えてた?」
見上げる爽やかな笑顔の男の真意はつかめない。
「いや……お前以外のことを考えるわけないだろう」
「ははは。嘘でも嬉しいぜ」
「ああ、嘘だ」
苦痛から気をそらすために考え事をしていた、と隠さない。
「はは。ごめんな、痛くして」
「いつもはもっと……その……慣らすのに………」
「ははっ。だってたまにはユリウスが痛がる顔見たくてさー」
これだ。
「ユリウスだって俺がいなきゃ仕事出来ないんだろ?
ほら、部下を励ましたいなら、もっと腰を振ってくれよ」
「お前のような部下など……」
持った覚えはない、とはもう言えない。
仕方なく、苦痛が強まるのを承知で腰を動かす。
「ユリウスー、そんなんじゃダメだ。もっとこう、さあ」
「……ぐっ……」
腰をつかまれ無理に揺さぶられ、うめき声がもれる。
ふいに鋭い痛みを感じ、突き上げられるたびに鈍痛が走る。
この調子では、またどこか切ってしまっただろう。
もはや快感どころではないが、騎士は止める気配もない。
――やはり、この男は私を愛していない。
一度は心が通じた気がしたが、時が経ち、それも今は錯覚だとすら思える。
見下し、嬲り、慰みの対象でしかない。今となっては好意の有無さえ怪しいものだ。
それでも、一度として言葉にしたことはないが、もう騎士はユリウスの部下だ。
――自分は、どこでどう間違ったのだろう。
友人は去り、騎士は強引に部下におさまり、報酬代わりとばかりに自分を抱く。
「ユリウス……好きだぜ」
「そうか……」
不快な感触が内にはじける。騎士は一方的に達した。
だが抜く気配はなく、再度腰を突き上げる。
ユリウスはただ痛みに耐え、終わりを待っている。
もう、ユリウスには騎士しか、すがれるものがなかった

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