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■人手不足と、騎士の帰還

※R18

ユリウスは時計修理の手を止め、窓の外を眺めた。
窓ガラスに映る顔は、自分でも分かるくらいにやつれている。
いったい、何をどう間違ったのか分からない。
役割に忠実に、誰とも接点を持たないように生きてきたのに。
どこから歯車が狂ってしまったのだろう。

後ろから優しく抱擁される。
鍛え抜かれた身体は、強くたくましい。
自分が女だったなら全てを任せてもたれかかれただろうに。
「ユリウス、俺に言いたいことはない?」
「出て行って時計になるまで顔を見せるな」
「あははは。余裕だな。ユリウスー」
首筋に顔をうめる男は爽やかに笑う。
だが、向こうも知っている。実際は余裕どころではない。

ユリウスを悩ます問題がある。
回収不能の時計がたまっているのだ。

…………

回収役を募ってはいるが人が来ない。
帽子屋と時計屋に何らかの確執があるという噂が流れているという。
顔なしは帽子屋の報復行動を恐れ、葬儀屋には近寄らない。
抗争に長けた連中は事態を完全に傍観する。遊園地のオーナーも気のいい男だが、
こういうときは冷徹に公私を使い分ける。
時計塔にこもり、全てに背を向けていたツケはこんなところに来る。

――こんなことでは、いつか誰かが時計を破壊するかもしれない。

……そう、時計破壊。それだけは何としても阻止しなければならない。
後ろからユリウスを抱きしめる、部下志望の男。彼はわざとらしく、ため息をつく。
「ユリウスは何で俺を頼ってくれないかなあ……」
「お前が最低で、最悪で、おまけに馬鹿だからだ」
本当はひと言だけ言えばいい。

――助けてくれ。部下になって欲しい。

だが、そのたった一言をためらってしまう。
この男はよく分からない。関わりたくもない。
知り合って、誰よりも多くの時を過ごし、幾度と無く身体を重ねたというのに。

「……うっ!」
騎士の手がゆっくりと降り、服越しに胸のあたりをまさぐる。
以前は気色悪いとしか思わなかったのに、今の自分はそれだけで反応する。
「ユリウス、俺は女の子じゃないから、ユリウス一筋じゃないんだぜ?
あんまり待たせると、他に目移りしてどこかに行くかもよ?」
「……だろうな」
自分のような根暗で面白みの無い男に、執着が続くなどと思っていない。
ある日フラリと時計塔から足が遠のき二度と訪れることは無い。
この男との別れは、そんなアッサリしたものだと思っている。
「あーあ、ユリウス、冗談だって。そんな落ち込んだ顔しないでくれよ。
本当にうじうじしてて気持ち悪いな、ユリウスは」
けなすような言葉と裏腹に、騎士の声はなぜか嬉しそうだ。
たわむれかと思われた手の動きは次第にしつこくなっていく。
服越しに胸の部分を強く刺激し、そのたびに身体に熱が走る。
「おい、いい加減に……」
もがいてふりほどこうとするが、鍛えられた身体は強靭でビクともしない。
手の動きはさらに遠慮のないものになり、胸から下半身にゆっくりと降りていく。
「ユリウスは疲れてるんだ。もっと気楽に考えればいいのに。
全部一人で背負い込んじゃうだからな」
「やめ……っ!」
布越しに股間をまさぐられ、必死に身をよじる。
冗談抜きでそんな場合ではないのだ。
やるべきことも考えるべきことも山ほどある。
「本当にやめろ、騎士……」
声に怒気をこめ、本気で怒っているということを伝える。
だが騎士は頓着しない。
熱をこめ、形をなぞり、反応する箇所はとりわけ強く刺激する。
「騎士……」
声に熱がこもる。意思とは裏腹に騎士が触りやすいよう身体を
動かしてしまう。わずかに足を開き、手をより深くに迎え入れる。
いつの間にか顔をなぞっていた逆の手に舌を這わせ、甘噛みする。
熱い。
騎士はまるでユリウスの心を読んでいるかのように触れてほしい
箇所に触れ、与えて欲しい刺激を与えてくれる。

「く……あ……」
いつの間にか手は服の中に潜り込み、より巧みに動き出す。
直に触れられ、快感はより深さを増す。
「はあ……はあ……」
立っていられず、床に膝をつく。
ユリウスに抵抗の意思が失せたと分かると騎士も遠慮なくのしかかってくる。
背にかかる重みが、身体をさぐる手の力強さが、これから与えられる快感への期待を
高めさせる。
「はあ……はあ……」
服がゆるめられ、日に当たらない肌があらわにされていく。
騎士は手の動きをゆるめず聞いてくる。
むきだしになった肩に口付けながら、
「ユリウス……俺が欲しい?」
「…………っ!」
ユリウスはつまる。
「……あ…………」
応えないでいると、騎士はより動きを激しくする。
もう半裸の状態で獣のように四つん這いになって耐えるしかない。
「ユリウス……俺の助け、欲しいよな……?」
先走りの雫が騎士の手にこぼれ、その手が後ろに回され、固い場所をほぐされていく。
「痛……やめろ、騎士……!お前の、助けなど……誰が……」
必死に虚勢を張る。だが情欲に溺れた目で言って誰が信じるだろう。
「そう?なら別にいいけどな。実は俺も、城の仕事サボりすぎて陛下から呼び出しを
くらってるんだ。しばらくは塔に来られないかも……」
「……っ」
城が、ハートの騎士に手を引かせようとしている、というのは邪推だろうか。
「なら、行くといい……役割には、従うべき、だ……」
言うと、後ろに熱いものをあてがわれるのを感じる。
一瞬震えてしまったのは恐怖なのか期待か。
「……っ!……」
「俺は、ユリウスのためなら捨てるぜ」
「……なに、を……ぁっ……」
奥深くに挿入し、騎士は動き出す。
「は……あ……」
強く揺さぶられ、本能が理性を侵食していく。
冷静な思考がはじけ、気が付くと律動にあわせるように腰を動かしていた。

「はあ……はあ……」
「俺さ……ハートの騎士なんか止める……ずっと時計塔にいるよ……。
ユリウスの、ために、ずっと、働くよ……俺を、望んで、くれるなら……」
「ん……馬鹿馬鹿しい……」
この男は狂っている。いや、壊れている。
欲情に流され、自分も、この男も、おかしくなってしまっている。
閨の睦言にしてはあまりに愚かしい、呆れ果てた言動だ。
だがまともに思考できたのもそこまでだった。

熱い。
もう何もかもどうでもいい。

「はあ、はあ、はあ……」
「ユリウス……もう、イク……!」
瞬間、白いものがはじけ飛ぶ。
同時に自分も達して、ユリウスは汗と精液で濡れた床にくずおれた。
「なあ、ユリウス、本当に、俺に頼らないのか……?」
同性を抱き、少し汗ばんだ騎士がユリウスに軽く口づける。
「……当たり前だ」
「そっか……」

時計屋とハートの騎士には、何の関係もない。

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