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■騎士の冷笑、時計屋の自己嫌悪

※R18

「さて、そろそろ紅茶を飲みたい頃合いだ。私はこれで失礼させてもらおう」
帽子屋は洗練された物腰で、形だけユリウスに一礼すると、双子と部下たちを
引き連れ、出て行こうとした。だが去り際に立ち止まる。
「……ハートの騎士」
「何?」
帽子屋の言葉にユリウスはやや正気に戻る。
「いや何、ウサギだけかと思ったらハートの騎士にまで懐かれているそうだな。
引きこもりの時計屋は、妙な人望があるようだ」
「…………」
帽子屋はユリウスと騎士に体の関係があることまでは知らないようだ。
仮に知っていれば、もっと露骨に会話にからめてくるだろう。

「ウサギは惑い、騎士は迷い、時計屋は混ざる。
このところ、盤上に妙な空気が漂うな……」

最後の方は独り言に近い。だからユリウスも応えない。
夕日の作る長い影が、床に落ちる。
帽子屋が立ち去る音を、ユリウスは微動だにせず聞いていた。

…………

作業場には月明かりが差し込んでいる。
「俺としては感謝してほしいんだけどなあ……」
「何に感謝しろと……ぅ……」
騎士の表情は、いつものように真意がつかめない。
例によって例の如し。
作業室の硬い床に組み伏せられたユリウスは、騎士に背後から貫かれている。
帽子屋が去った後、間髪いれず騎士が現れたのだ。
容赦なく腰を打ちつけながら、騎士の声は常と変わりない。
「帽子屋さんは謀略家だけど、それ以上に面倒くさがりな人だ。
脅したいなら、もっと率直にユリウスを袋叩きにするさ」
「……あ……ぅ……」
「つまり帽子屋さんはもっとえげつないことを考えてたかもしれない。
でも外に俺がいるって気づいてたんだよ。だから簡単な脅しで引いたんだ」
ユリウスには窮地でも、帽子屋やハートの騎士にとっては『簡単な脅し』らしい。

帽子屋に脅されている間、助けはなかった。
だが真相は、『騎士がピンチに駆けつけない』より、なお悪かった。
ハートの騎士はユリウスのピンチを最初から最後まで、扉の外で傍観していたのだ。

「はあ……あ……」
「おーい、ユリウス。聞いてる?」
聞いていることは聞いているが、行為のため返答が難しい。
「はあ……はあ……はあ……」
「ユリウス?」
騎士の声は不思議そうだ。
「うるさ……い……」
何故かは分からないが、最近は以前と違う感覚が混じるようになった。
苦痛でも憤怒でも悲哀でもない。
何か違う焼け付くような熱いもの。
それが身体の内に広がると、一切の判断が出来なくなる。
あとはただ求めるだけ。

「ユリウス……もしかして、感じてる?」

「!!」
騎士の言葉に頬が紅潮する。
違う。
そんなはずがない。
好きでもない男に無理強いされ、反応するはずが……
「だって、こっちもこんなになってるじゃないか」
「……あ……っ」
騎士が後ろから手を回しユリウスの前に触れる。
刺激を受けて震えた箇所は、十分に硬く張っていた。
「違う……これは……」
「これは。何?こんなに濡らしちゃってるのに?」
「……ぅ……」
口内に指が無理やりねじこまれる。
不快にぬめる苦いものを舌にこすりつけられ、それが自らがこぼした液体と気づいて
吐きそうになる。だが騎士はそれを許さない。
「ん……む……」
「ほら、ちゃんと飲んでくれよ。ユリウスが感じてるって証拠」
「ちが……ん……っ」
生理的な反応で嚥下してしまう。
指にかみつけば良かったと気づいたときには騎士はすでに
手を引いていた。背後からは騎士が己の指をなめる不快な音がする。
だが、その間も攻めは止まらない。

「ん……は……」
「はは。ユリウスが素直な反応を返してくれるなんて嬉しいぜ。
俺も期待に応えられるよう、がんばらないとな」
言葉だけは爽やかに、騎士の動きは激しくなる。
せめてもの抵抗をしようと、ユリウスは必死に熱を沈め、言葉を絞る。
「話を聞いていたと…いうなら、なぜ……最後、まで…入ってこなかった……」
帽子屋の気分次第では本当に命が危なかったのだ。
「ん?別に興味がなかったし」
「……私を助けよう…という気は……」
もし扉の外に立っていたのが三月ウサギなら、助けに来ただろう。
自分の立場や帽子屋に追われていることも頭から吹っ飛び、入ってきたはずだ。
「ないよ」
即答だった。
「殺されそうになったなら助けに入ったと思うけど、脅されてるユリウスを助ける
ことにメリットはないからね。むしろ助けないことの方のメリットの方が大きい」
「…………助けないことの、利点だと……?」
騎士とは知り合って日が浅い。
好意の表明は、どこまでが真実か判別をつけがたい。
助けることに利点はないと言われれば、確かにその通りと自嘲するしかない。
だが、『助けないことの利点』と言われると不可解だ。

「ああ。孤立して怯えてるユリウスが楽しめた」

「…………私が……怯えていた、だと?」

「自分の感情も分からない?ユリウスは本当に対人関係がダメなんだな。
敵に囲まれ、脅され、虚勢を張り切れず、帽子屋さんの言うこと聞くしかなくて、
怯えて、プライドをズタボロにされて呆然としてるユリウスの顔がすごく良かった」

心から、本当に心から嬉しそうに騎士は言う。
同時に、ユリウスの中に強引にねじ込まれた×××が、より強さを増す。
「ぁ……う……」
「あ、ごめんな……でもユリウスも、一緒に、興奮してるから…いいよな」
「…………」
否定出来ない。ユリウスの×××は汁をこぼし、床に染みこんでいく。
再び灼熱が頭を侵食し、言葉が出ない。
心底から嫌悪する男なのに。
「これでもう、ユリウスには、俺しか残ってないんだよな」
「……何を…………」
だが、言われてみると確かにそのとおりだ。
三月ウサギとは、癒着を含めるなと脅された。
当分は集まらないだろう手駒。
定期的に発生する回収不能の時計。
己の仕事は遂行したいユリウス。
不本意であっても、戦力となりうる人材は騎士しかいない。
「くそ……」
壊滅的な迷子で、不運で、無駄に爽やかなハートの騎士。
だが城に戻れば、鮮血の女王や冷酷宰相と渡り合う軍事責任者。
無能者があの城で生き残れるはずはないと分かっていたのに。

「ユリウスが人嫌いで、臆病で、不器用で、本当に良かった……」
後ろから抱きしめられる。
「!!」
それが刺激となったように、前から白濁したものがほとばしる。
同時に、己の中に不快な熱いものが放たれたことを感じる。
「ユリウス、好きだぜ……」
熱い。憤りか憎しみか屈辱か、叫びたいほどの激情が胸をうずまき、結局出ない。

だが、その矛先は誰よりも無力で無能な自分自身だ。

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