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■告白・下

ユリウスは剣をつきつけられたまま言う。
「騎士が、誓いを放棄するつもりか?」
結局、理詰めで行くことにし、冷ややかに告げた。
すると、エースの剣がビクッと震えた。
そしてユリウスはつけ加える。
「誓約を違えるな。仕えると定めたのなら、私に従え」
「あ、ああ」
もっと別の甘い言葉でも期待していたのだろうが。瞳にかすかな失望が見える。
しかしエースはゆっくりと剣を引いた。
ユリウスも内心安堵し、静かに起き上がって……拳を大きく振りかぶると、エースの
頭に容赦なく叩きつけた。いい音が薔薇園に響く。
「痛っ!何するんだよ、ユリウス!」
「それはこっちのセリフだ、大馬鹿者が!
さっさと噴水に顔を突っ込んで酔いを覚ましてこい!!」
「あ、あはは。悪い悪い」
怒鳴るが、エースはユリウスに笑う。
もういつもの笑顔に戻っていた。そして悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「じゃあ、酔いを覚ますため、もう少し楽しもうぜ」
と、起きようとするユリウスをガバッと抱きしめてきた。
「おい!」
さすがに抗議する。ひとけのない薔薇園とはいえ、通路に近い場所だ。
誰か来なくとも、近くを通りがかればこちらが見えてしまう。
「大丈夫、大丈夫。誰か見た奴がいたら、ちゃんと消すからさ」
「どこが大丈夫だ!おまえはさっきから……ん……っ」
首元のタイを口にくわえてほどかれる。
慌てて取り戻そうとするが、その手を取られ、手の甲に口づけられた。
「エース……っ」
抵抗するが、手をつかまれたまま、芝生に身体を押さえつけられる。
かすかに開いた襟元に舌がしのびこみ、鎖骨のあたりをくすぐられる。
「……ん……っ……」
口づけをされると、今度は酒臭く感じる。気分が悪いし、こんな場所でその気に
なれるワケがない。だが足の間に身体を割り入れられ、膝で刺激されると、どこか
身体が妙な気分になってくる。
馬鹿はまだ酔いが完全に覚めていないのか、獣のような熱心さで身体を舐めてくる。
「ん……ぅ……」
喉の奥から知らず、熱い息が漏れ、反応してほしくない身体が反応する。
「身体は正直だよな?ユリウス」
「定番の文句を使い回すな。いい加減、興ざめする」
「そう?マンネリにならないように気を使ってるつもりなんだけどな」
「気を使ってるのは場所だけだろう!本当に時間帯、ところ構わず……」
グチグチと不満を漏らすと、エースはこちらのボタンを外しながら笑う。
「じゃ、さ。次はもっと変化をつけてみる?そろそろ道具を……」
「使うな!!」
エースは笑う。しかし一転、咎めるような目でユリウスを見下ろした。

「だけど俺を責める前に、ユリウスも努力してくれよ」
「はあ?」
何言ってるんだ、こいつは、と非難の目で見上げると、
「だからさ、俺に頑張らせるようにユリウスも努力してくれよ」
「何を……」
図々しい提案に声を低くする。するとベルトをいじりながらエースは首を傾げる。
「嘘でも告白してみると違うんじゃないか?『愛してる』とか『離さない』とか」
「言えるか!第一、私はおまえを何とも思っていない!!」
「ふうん、言ってくれないんだ」
嫌がるとエースはニヤニヤする。
「ん……おい、やめ……」
「ここは『欲しい』って言ってるみたいだけど。あ。これも定番の文句かな?」
反応し始めた下半身を、露骨な手つきでまさぐられ、顔が紅潮するのが分かる。
「いい加減にしろ!その手に乗るか!ここは道ばたで、いつ誰が……」
「だから、誰か来たら斬ってあげるからさ。な。言ってくれよユリウス」
「…………この……」
エースの手は服の中に入ろうとし、ギリギリで止めてはまた服の上から刺激する。
完全に快楽を人質にとられた格好だ。

「…………」
悔しさで歯がみする。いつもとは違う格好の騎士。むせかえるような薔薇の香りの
庭園。開けることのない満天の星。
「……いいか。フリで告白するだけだぞ。本気に取って変につきまとうな。迷惑だ」
「うんうん。言ってくれよユリウス」
ニヤニヤニヤ。卑猥な台詞を言わされるよりはマシだと思うが、こうも急かされると
そちらの方がマシではないかという気分になってくる。

「……好きだ」
ボソッと、いかにも嘘だという感じでしゃべる。
「俺のことが?」
「ああ、おまえが好きだ」
ほぼ棒読み。
「誰よりも?」
「ああ、誰よりも」
目をそらしつつ。
「本当に?」
「ああ!本当に、誰よりもおまえが好きだ!」
しつこい上、エースが行為を進めないので、苛々してくる。
「手放す気はない!おまえが前の主君の元に戻るといっても離さないからな」
苛立ちで語気が激しくなってくる。
するとエースが抱きしめてきた。強く、強く。
そして押し殺すような声で言う。
「もっと、もっと言ってくれよ!俺とヤルために、嘘の告白でいいから、もっと!」
ユリウスもヤケになって抱きしめかえす。
そして望み通りに耳元で大嘘をついてやる。

「おまえが……おまえが好きだ。いつからか分からない。ずっと、好きだった!」

「本当に?本当にユリウスも俺が好き!?」
「そんなこと知るか!男を好きだの、そんな気色悪いことが私に理解出来るか!
だが……おまえがいなくなったら、私だっておかしくなる……正気ではいない」
「…………」
乱暴に髪に手を回し、無理やりに口づけ、見開かれる間近の緋に怒鳴る。
なぜ視界がゆがむのか分からない。相手の酒気にやられたのかもしれない。

「迷うなら私のいる場所に帰ってこい。二度とそばを離れるな。
手放したりはしない。分かたれることがあろうとも、見捨てたりはしない」

そして両手でエースの頬を挟み、もう一度深く口づける。
まっすぐに緋の瞳を見上げ、嘘を吐く。


「エース。おまえを愛している!永久に。私の時計が止まるまで、ずっと!」


エースは呆然としたようにユリウスを見下ろす。

……そしてプッと吹き出した。
「はは……上出来だぜ!ユリウス、すごい名演技じゃないか。
本当に告白されている気分だったぜ」
おかしそうに声を上げて笑う。
そしてご褒美、と言わんばかりにユリウスを抱きしめた。

「今のが本当だったら良かったのに……」
「本当だったら、私はおまえに斬られているさ」
「あはは。そうだね」
エースは笑う。笑って、行為を再開する。
夜目でよく見えない。だがほんの一瞬だけ目が潤んでいた気がした。
願望が見せた錯覚かもしれない。
だがユリウスは服を緩められながらエースを抱きしめる。
この男に会って以来初めて、という優しさをもって。
エースが笑って、まっすぐに言う。
「愛してるぜ、ユリウス」
「私もだ、エース」
「嘘だけど」
「ああ、分かってる」
ユリウスも、少し笑う。

そして二人で長い長い口づけを交わした。

「分かっている……」

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