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■馬鹿と再会

※R18

クローバーの塔の廊下にて。
その二体の獣の剣技は、伯仲していた。
サーカスのときに見た気迫に、匹敵するのではないかと思わせるほどに。

「いいから動くな!ガキ!俺は貴様を殺したくて仕方ないんだ!!」
「あははは!トカゲさん、暗殺者時代の勘が戻った?
全力だけど、何かすっごくブレがある。でも、今のトカゲさんは……好きだぜ!」
トカゲは猛烈に怒っている。
エースは、その攻撃ぶりを批評するくらいに余裕だったが、額にはうっすらと汗が
浮いている。だが楽しそうだ。
刃と刃が激しくぶつかりあい、火花まで見える。
ほとんど実戦と変わりない。
それを廊下の角からボーッと眺めていたユリウスは、
――……部屋に帰るか。
よく考えれば廊下は寒い。部屋に引きこもっていたい。

……そう思ったが、声をかけないわけにはいかない。
エースは自分の部下で、相応の責任はある。

「エース」

案の定、声をかけるとピタリとエースが止まる。
「あ、ユリウス!久しぶりだなー!!」
嬉しそうに手をぶんぶん振る。
ようやく拘束を解かれたのか、単に逃げてきたのか。
サーカス以来、初めて会う。
相変わらず薄ら寒い笑顔。目に痛い赤のコート。
そして尻尾を振る犬のようにこちらに駆け寄ってきた。
「ユリウス!いつ会っても陰気だよな、あははは!」
一瞬、外で口づけをする気かとユリウスはかまえた。
だがエースは、ポンと肩を叩いただけだった。
「おい、時計屋」
そして地を這う爬虫類のような凶悪な声。
エースの切り替えで、攻撃が見事に空ぶったトカゲ。
奴が、不機嫌を顔に貼り付け、こちらを睨んでくる。気のせいか、疲労の色が濃い。
「ガキに塔をうろつかせてんじゃねえよ!てめえの犬ならしっかり躾けとけっ!」
以前は考えられない、粗暴な口調で怒鳴ってくる。
「す、すまん!」
勢いに押され、つい謝ってしまう。
「あははは!トカゲさん、フラれたからって、手の平返して八つ当たりするなよ」
エースは人の神経を逆なですることを言う。
そして馴れ馴れしくこちらの肩を抱きながら、やはり笑っている。
トカゲはただただドス黒いオーラを放っている。
ユリウスはきまりが悪く、口を引き結ぶしかなかった。


そしてまあ、作業場では作業場で、いつもの光景だった。
「この、馬鹿が……!!今は真っ昼間だろうが!!」
床に押し倒され、ユリウスは怒鳴り、叩き、もがく。
しかしエースは子猫でも相手にしているかのように、余裕でユリウスを押さえる。
そして、こちらの身体に無理やり押しつけられる××はすでに熱を持っていた。
「ユリウス〜、サーカスのときのご褒美、俺はまだもらってないぜ?」
手の甲に歯を当て、手套を口で外して放り、素手でユリウスの頬に触れる。
「……つっ」
触れられた箇所が熱い。トカゲに触れられても何も思わなかったのに。
「あ、ユリウス。赤くなった。可愛いなあ!」
馬鹿はデリカシーのないことをほざき、何度もこちらの顔を撫で、耳に口づける。
「……や、やめ……っ!」
真っ赤になってエースを押し返そうとするが、エースは別の手で、ユリウスの手を
押さえつける。
「あははは。分かりやすいなあ……好きだよ」
そう言って、唇を重ねる。
――エース……。
この男は部下だ、ただの駒だ。
必死にそう思おうとした。
「ん……」
だが口づけられた瞬間、身体が自分のものではないかのような錯覚に陥った。
抵抗が完全にゼロになり、全身の力が抜ける。
「ん……」
部下の舌が無遠慮にこちらの口内に入り、水音を立てて絡み出す頃。
ユリウスは両手をエースの背に回し、強く抱きしめていた。

…………

ベッドが激しくきしみを立てている。
元は一人用だし、そのうち本当に支柱が折れるのではと気が気ではない。
「ん……あ……」
しかし今のところは補強する余裕もなく、シーツを握りしめている。
「あははは。ユリウス、感じすぎだって。女の子みたいだぜ?」
背後から手を回し、ユリウスの××の反応を確かめた男が笑う。
「ち、違う、これは……!」
貫かれ、揺さぶられながら、真っ赤になって否定する。
自分が、男同士の情事で感じるようになったと、未だに認めたくなかった。
「これは……背後からの圧迫で、前立腺を刺激される、生理的な反応で……」
「理屈っぽいなあ、ユリウスは。俺の××な×××に×××××されて、××が
××××になって、××××に××××ってますって、認めちゃえば?」
下品な言葉を連ね、騎士が煽る。
しかし耳元で卑猥な単語をささやかれ、身体がゾクッと熱を持つ。
そしてエースが急に責めを止める。
「……?おい、エース……」
するとエースはユリウスの胸を弄りながら、
「な、俺が欲しいって言ってくれよ、ムチャクチャにされたいって」
「……っ!い、言えるか……!!」
「そう?」
するとエースがからかうように腰を動かす。
奥をゆるやかに抉られ、身体が悦びに震える。だがそれでは全く足りない。
「ん……っ」
「ほらほら。生理的な反応なんだろう?
言いたくないなら、ユリウスが勝手に動いてくれよ」
「…………エース……っ!」
自分で動くのと、プライドのない言葉を吐くのと、どちらがいいか。
一瞬にも満たない時間、激しく迷いが交錯し、
「お、お、おまえが、ほ、ほ、ほし、欲しい……」
耳まで真っ赤になって、どうにか言えた。
「うんうん。それから?」
「……………――――して、くれ……」
殺意に全身を苛まれながら、要求されたセリフをどうにか言い切った。
「まあ、合格にしてあげるか。次はもっと恥ずかしいことを言ってもらうからさ」
――絶縁したい……。
だがエースの、より一層激しい責めに、そんな思いも流れていく。
「あ、ああ、エース……っ!」
「ユリウス。好きだぜ……俺の、俺だけの……」
もうベッドの強度も時間帯も、何もかもがどうでもいい。
貫かれるたびに達しそうになるのを押さえる。
他の誰でもなく、自分が選んだ騎士に支配されている。
長い髪を振り乱し、汗を垂らし、雫をこぼし、快楽を得ることしか頭になかった。
「……エース……もっと……おまえが……」
「ユリウス……っ!」
互いに名を呼び合い、一際激しく貫かれ――声を上げて、達した。
同時に、内に慣れた生温い熱を感じる。
「……はあ、ああ……」
吐精感に大きく息を吐き、ベッドに沈む。
「ユリウス、最高。すごく良かった……」
背中に口づける、エースの声を感じながら。

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