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■塔の夕暮れ・下

※R15

窓の外は穏やかな夕暮れだった。
だが塔の中は喧騒だった。

エースの行為は、すでに冗談の域を逸脱している。
「いい加減にしろっ!!さっさと出て行け!二度と姿を見せるな!」
温情をさっさと放棄し、怒声を浴びせた。
けれど騎士は動かない。
ユリウスも死に物狂いでもがくが、ビクともしない。
だが騎士は利いた風でもなく態勢を変える。
両腕をはなし、ユリウスにまたがる形になると――赤いコートを脱いだ。
赤いハートの騎士が黒い騎士になり、なぜか背筋が寒くなる。
「おい、本当にどういうつもりなんだ。何を考えている」
「うーん、つまりさ。俺はユリウスの仕事仲間になりたいんだ」
騎士も自分の中でまとまらないのか、首を傾げた。
「それで、なぜ男を抱くなんて狂ったことを考えるんだ!!」
本来は女性だけが抱くだろう、本能的な危機感が徐々に強さを増していく。
「よっと」
重いコートを脇に投げ捨て、上着の襟元をゆるめながら騎士は言う。
「うん。俺はノーマルだ。男を愛するなんて趣味はない。
で、俺は、友達としてのユリウスは好きだ。
でもユリウスが俺を全然、相手にしてくれないのなら」
と、一呼吸置き、


「俺がユリウスの『特別』に、力ずくで入ればいい」


言われた意味がサッパリ理解出来ない。
だが反応する前に騎士が覆いかぶさってくる。


舌が首筋を這い、嫌悪感で吐きそうになる。
「止めろ!いい加減に……」
「ひどくはしたくないから、抵抗しないでくれよ」
手が下半身にのびてくる。
ユリウスは冷静になろうと頭をふる。
自分は時計塔の主だ。
騎士を圧倒したこともあったはずだろう。
だが、頭が動かない。
撃ち合いや刺客に襲われている状況ならともかく、男に犯されかけている状況に頭が
真っ白になり、彼に対処するルールなど考え付かない。
騎士の手も、まるで考える暇を与えない、と言いたげに動く。
時計付きのタイが引き抜かれ、ベストのボタンが外されていく。
もう叫ぶしかない。

「止めろ、エース……!!」

すると、相手は目を見開き――笑った。
哄笑と言っていい、自棄にも似た笑い方だ。
「は……ははは。ユリウス、やっと俺の名前を呼んでくれた。
はは。初めて呼んでくれたよ。いつも『おい』とか『お前』だったのに。
ははははは。やっぱりこのやり方で良かったんだな。
今回は珍しく道に迷わなかったみたいだ。俺ってついてるぜ」
「……!!」
失言だった。どうやら最後の一押しをしてしまったらしい。
「ユリウス、好きだぜ」
エースは再び口づけ、ユリウスの服に手をかけた。
その言葉が嘘であることを、ユリウスは知っている。

…………

「はぁ……はぁ……」
外は夜の時間帯に変化していた。
時計塔では、月明かりの中、二人の男が動いている。
ユリウスは前をはだけられ、エースも上着を脱いでいる。
「ぁ……はあ……」
ユリウスは何とか冷静になろうと頭を振る。
「……ぁ……」
胸の突起をなめられ、小さく声をもらす。
別の手で布越しに股間を刺激され、頬が熱くなる。
冷静になれと思う心とは裏腹に、体は刺激を求めて動く。
今やユリウスが戦っているのは、エースではなくもっと別のものだった。

「ユリウスって、本っっっっ当にイメージどおりだよな。
たまってそうだとは思ってたけど、禁欲もほどほどにしとこうぜ」
直前の抵抗と正反対に、いざ押し倒すと、ユリウスがあまりに素直に反応する
ので、エースは拍子抜けしたようだった。
実際に、ユリウスの股間の×××はズボン越しに分かるほど起ちあがっている。
抵抗の薄れた唇に口付け、エースは笑う。
「んー、どうしようか。ユリウス、本番前に出しとく?」
頭が熱くて思考が難しい。
見上げる目は潤んでしまったかもしれない。エースはニヤニヤと、
「なあ、ユリウス。どうしてほしい?俺にしてほしい?それとも自分で処理する?」
「……っ!」
「自分で処理するなら、ズボンを下ろしてやってくれよな。
俺は騎士だから、邪魔せず見ていてやるぜ」
言って、あれだけどけようとして動かなかった体をアッサリどかし立ち上がる。
「……ぁ……」
声に懇願が混じったかもしれない。
たちまち、見下ろすエースの目に加虐的なものが浮かぶ。
「俺にしてほしい?なら言葉にして言ってもらわないとなあ」
エースはユリウスの耳元に顔を近づけ、低い声で、
「どうしてほしいんだ?馬鹿な俺に言ってみてくれよ」
「…………!」
エースが何をさせようとしているか気づき、欲望が一瞬だけ遠のいた。

ユリウスは我に返る。
いったい自分はどんな姿で、格下の騎士に何をされようとしているのか。
「この……っ!」
スパナを出し、騎士に叩きつけようとした。

「あ。さすがに冗談がすぎた?あははは!」
騎士は軽々とユリウスの手首を押さえ、
「ぐ……っ!」
力を容赦なく加えられ、手首が折れるかと思った。
「ごめんごめん。お詫びにやってあげるな」
「え……」
言って、別の手でユリウスの×××を握る。
「……っ!」
そして、手袋をした手で撫でさすってきた。快感にビクッと背筋がはねる。
「ぁ……あ……」
それだけで声が出、腰が動いてしまう。
遠のいた欲望が帰還し、抵抗が失せた。
「エース……」
「そんな誘うような声を出すなよ。本当に途中で終わらせるつもりだったのに。
……最後まで行きたくなってきた」
エースの声に、聞き流してはいけない何かを感じた。
けれどユリウスは騎士の手の中で、その言葉をアッサリ忘れた。
激しく上下に扱かれ、それに意識が飲み込まれる。
「ぁ……ああ……ぁ……」
一瞬にして、頭が真っ白になる。

欲望を介抱され、脱力して、ユリウスは床に倒れこんだ。
「はあ……はあ……」
「ユリウス。いくら何でも早すぎだろう」
呆れたエースが苦笑する声。そして己の服に広がっていく不快な感触。
「…………」
ずいぶんと久しぶりに、しかも知り合いの目の前で、男の手でイカされた。
その事実が、羞恥心を伴いユリウスの時計にゆっくりと広がっていった。

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