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■サーカス・再び

※R18

クローバーの領土は宵闇に包まれている。
そして裏路地にある安宿の二階には、男同士の嬌声が響いていた。
「時計屋……ほら、もっと腰を動かせ」
「そう言われて……ぁ……」
足を抱えられ、貫かれ、激しく揺さぶられる。これもいつものことだ。
底意地の悪い笑みをユリウスに近づけ、顔をそらす様子を楽しそうに観察する。
「本当に、どうしようもない男だな、おまえは。
ガキを選んだつもりが、他の男に××されて悦ぶなど」
そう言って、一際強く貫く。イキそうになる自分を抑え、ユリウスは、
「だから、言っているだろう、あいつを、部下にしただけで、私に男色趣味は……」
「誰が信じるか。根っからの淫乱なんだよ、おまえは。
いいから足を開け。俺にみっともなくすがりついてみろ」
「この……爬虫類が……ん……く……っ……」
だが気がつくと、トカゲの言われるままにしている自分に気づく。
雫をこぼす××を扱かれ、達しそうになるのを何とかこらえ、それを嘲笑される。
「おまえがあのガキにほだされようと、知ったことか!
時計屋は俺の物だ……渡しはしない……!」
――私は最初から誰の物でもないんだが……。
部下どころか恋人としても騎士を選んだ、と妙な誤解をされ、八つ当たりで抱かれている。
これ以上の理不尽があるだろうか。
「時計屋……!」
汗ばんだ身体を抱きしめられ、押しつけるように口づけをされる。
ユリウスも仕方なく、トカゲの肩に手を回し、口づけを受け入れた。
唾液の絡み合う音とともに律動はより激しくなり、寝台がギシギシと揺れた。
「あ……ああ……トカ……っ……あ……」
快感に耐えきれず敷布をつかんでこらえ、汗を流す。
内に激しく侵食する××は硬さを増し、機械油の滑りを借り、さらに奥を辱める。
「トカゲ……もっと……ああ、あ……」
――熱い……。
男二人に弄ばれ続けた身体は、完全に行為に慣れてしまっている。異物感は消えない
ものの、それを上回る快感が嬌声を上げさせ、獣のように求めさせている。
「時計屋、言え。俺が欲しいと……!騎士よりも俺がいいと……」
だが、それにはかろうじて点灯した理性が、首を左右に振らせる。
この交わりは強要されたもので、自ら求めたものではない。
「時計屋!」
凶暴に吼えた爬虫類は、より深く貫きながら言う。
「俺よりも、あのガキがいいのか?あんな壊れた不安定なガキが。
おまえのために全てを捨てる男なら、そっちがいいと!」
「分から、ない……」
エースが自分のために全てを捨てている?
そうだろうか。あの男は最初から全てを捨てている。中身のない虚ろだ。
「肯定しないが、否定もしてくれないか……」
そして、突き上げをさらに強く、激しくする。
熱い。何もかもがぼんやりする。何も考えられない。
「あ、やめ……ダメ……だ、トカゲ……私、は……」
もう自分でも自分が何を言っているのか分からない。
下半身の熱も限界だった。
「『葬儀屋』。おまえはやはり残酷な奴だ」
そう言ってトカゲが達すると同時に、ユリウスも声を上げて放った。

…………

…………

ユリウスは一人の部屋で怒鳴る。
「まだ来ないのか、あの男は!!」
作業台をバンと叩くが、自分の拳が痛いだけだった……。
エースは遅い。とにかく遅い。
――私が部下にしたから、か?
気のせいかもしれないが部下にする前より、時計回収の頻度が遅れている気がする。
遊びでは楽しくやれても、仕事になると途端に面倒になる。
時計回収でなくともよく聞く話だ。
しかしユリウスは、三月ウサギを捕らえる計画を進めなければならない。
三月ウサギの殺意には微塵も変化が見られない。
外出した際、何度となく、マフィアの勢力と思われる顔なしに狙撃された。だが、
あの狂ったウサギの殺意の大元は冤罪で、ユリウスは帽子屋に利用されただけだ。
そう思うと、はらわたが煮えくり返る思いだが、こちらからはどうにもならない。
「…………」
ユリウスは陰鬱な顔で窓の外を見る。
雪どけの水が窓枠をつたっている。
もちろん雪の降る時間帯も多いが、厳しい寒さが多少和らいだ気がする。

――エイプリル・シーズンの終わりが近い、か……。

それまでに何としても、と思うのに、何も出来はしない。
そして、作業場の扉が叩かれた。
「時計屋」
この前の情事のことなどカケラも感じさせない、事務的な声と顔。
『塔の補佐官』の顔をしたトカゲが立っていた。
「ああ」
ユリウスも立ち上がる。
いつもの時計屋の服ではない、正装で。
「もうサーカスの時間か」
――仕方ない。馬鹿はサーカスの後で拾うか。
催しだから役持ちは全員が集まるルールだ。
サーカスの後で拾い、三月ウサギを捕らえる算段を検討することにしよう。

…………

サーカスの幕屋の外で、ユリウスは群衆に目をこらす。
――いないのか?エースは。
落ち合う場所だけでも決めておきたかったのだが。
だが、あの目に痛い赤は、なかなか視界に入らない。するとかたわらの夢魔が、
「おいおい、どうした時計屋。キョロキョロして、愛人でも探しているのか?」
『…………』
「わ!悪かった!悪かったから、そんな怖い映像を見せるな!!」
ユリウス(と、なぜかグレイ)に睨まれ、露骨に怯えている芋虫。
「行くぞ、時計屋。開演が近い」
ユリウスが探すのを妨害するように、グレイがサーカスの入り口へ促す。
「ああ……」
――ん?
そのとき。探すのを止めた途端、目当ての集団が見つかった。
ハートの城の者たちの姿が、遠目に見えたのだ。
キングに女王、白ウサギ……だが、騎士の姿はない。
――またはぐれたか。
肩を落とす。そして気分を切り替え、サーカスに入ろうと顔を上げたとき。

――……?

一瞬。ほんの一瞬だが。白ウサギがこちらに氷のような笑みを向けた気がした。
――何だ?
いや、心あたりは山ほどある。騎士の鞍替えを知っているのか、人目を忍ぶ関係を
つかんでいるのか……いや……。
「時計屋」
トカゲではなく、夢魔がユリウスを呼ぶ。
「あ、ああ……」
ユリウスはサーカスに入る。
だが席につき、客席中を見回しても、騎士の姿は見つからなかった。
――本当に、どうしようもない迷子だな、あいつは。

公演後に何とか見つけるしかない、とユリウスはあきらめて席に腰を沈めた。

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