続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■お花畑に行った話2 そしてまあ、ナノ感覚にして五分たらずで捕まったのでした。 「あはははは!」 「いや!誰か!変質者が!」 羽交い締めにされ、とりあえず叫んでは見たものの。 通りはひとけがなく、声が聞こえているはずなのにどの家も、窓が開く気配ゼロ。 ……うん、助け合い精神ナッシングの世界なんですよね。 おまけにエースは役持ち。騎士は後ろから笑いながら、私を持ち上げ、 「俺の勝ちだな、ナノ」 私はなおも暴れ、 「いやです……あ……あう……」 くたりと力を抜いた。 「え?ナノ?」 驚いたようなエースの声。 ええ。ン時間帯連続の立ち仕事に夕食お預け。 HPが即効でゼロになったわけです。 エースは私を下ろし、少しかがんで目線を合わせる。 「ナノ、もしかしてお腹すいてる?」 そう言って私の腹部をなでなでする。 なれなれしく女性のお腹に触らないでいただきたい。あと撫で方がやらしい。 「うーん、俺としては今すぐに君を愛したいけど、君はお腹が空いてるし、騎士と してそれは嫌だなあ。うーん、困ったぜ」 いや、不法侵入で合意なしに×××しようとしているあなたのどこが騎士か。 そしてエースはポンと手を打ち、 「よし、一緒にご飯を食べに行こう!」 「お断りします。お金はございません」 「俺がおごるに決まってるだろ?騎士なんだからそれくらいの収入はあるさ」 「買い物出かけてサイフを忘れる愉快なキャラでしょう、エース」 するとエースは快活に笑い、懐から、 「そんなことないって、ほら、今も手持ちがこれだけ……」 「ふむふむ」 私はずっしり重いそれを受け取り、中を見聞すると、エースに返した。 「確認しました。それでは一人で行ってください」 「あはは。何枚か抜き取らないでくれよ。でも、たまには気前よく前払いでいいか」 前払い!?私は激怒してお札をエースに返すと、クルッと背を向ける。 エースは後ろから私を追いかけ、 「ナノ。お金を無駄にしちゃいけないんだぞ?それに夜道を一人で歩くなよ」 「あなたとは一秒たりとも時間を共にしたくありません。ごきげんよう」 颯爽と歩き出し……すぐにエースに追いつかれる。 優しく、しかし脱走を許さない強さで腰に手を回される。 「それじゃあ、行こうぜ。確かこっちに、オススメのレストランが……」 仲良しを装って連れて行かれる私でした。ああ、風が冷たい。 ………… 「…………ええと」 鳴り響くクラシックの生演奏。天井にはキラキラした華美なシャンデリア。 真っ赤なビロードの絨毯、金糸をあしらった壁紙、窓辺を飾る薔薇の花。 人形と見まごうほどビシッと構え、音を立てずに歩くウエイターさん。 大きなお腹をした顔なしさんたちがかわす景気の良い商談話。 壮年の男性と、愛人らしい物憂げな美女の静かな別れ話。 何もかもが別世界だった。 「こっちこっち」 エースは呆然とする私の手を引いていく。 いかがわしい宿に連れて行かれると思っていたので、あまりのことに声が出ない。 「はい、座って」 「は、はい」 私はウエイターさんが引いてくれた椅子に腰かける。 椅子は重そうなのにクッションはふんわり低反発。 いつかカフェを開店するとき、こんな椅子が置けたらな。 磨かれた銀食器、顔がうつりそうにピカピカのお皿、真っ白なナプキン。 「ナノ、お酒は何にする?あ、君はお酒を飲まないんだっけ?」 「え、ええ。さ、サンタカリーナのシティローストで」 ウエイターさんにキョドりながら珈琲を注文する。 『なんか違うのでは』と自分でも思ったけれど、訓練されたウエイターさんはお客に 恥をかかせない。優雅に一礼し、 「かしこまりました」 でも、まともに注文出来たのは珈琲くらいだった。 「それじゃあ、ここのコースを……」 あとはエースが慣れた調子で注文。私は居心地が悪く、挙動不審気味だ。 やがてエースのワイングラスになみなみとワインがつがれ、私の前にも珈琲カップが そっと置かれる。エースはグラスを私に向け、 「それじゃ、可愛い君に乾杯!」 「…………乾杯」 ワイングラスと珈琲カップがぶつかりあいました。 というか今さらですが、レストランで普段着なのは私ただ一人。 場違い感で、この上なく居たたまれません。 2/7 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |