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■ナノ、男になる・上

※夢主、男性化注意

ある朝の時間帯。
私、ナノがなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が男になっているのを発見した。

「……て、男ぉっ!?」

私は跳ね起きた。
クローバーの塔近くのプレハブ小屋に、少年の絶叫が響いたのであった。

……とりあえず、理由の追求はさておこう。不思議の国だもの。
とにかく男になった以上、私に言い寄って下さる人たちに堂々とお断りが出来て、
自由な生活を手に入れることが出来るはず。
そう、前向きにとらえることにした。

…………
グレイは資料室にいた。やってきた私は、恐る恐る声をかける。
「グレイ。あのー、ナノですが」
グレイは私の声を聞くなり、嬉しそうに振り向く。
「やあナノ。君の笑顔を見ると、仕事の疲れが全て吹き飛ぶよ」
そしていつも通り、頭を撫でてくれる。
何だか気づかれていないようだったので、自己主張してみた。
「あのー、男になったんですが」
「ああ、そういえばズボン姿だな」
だからどうした。私は今や平坦になった胸を張る。
「私、男です」
「そうかそうか、男だろうと君の笑顔を見ると、仕事の疲れが75%吹き飛ぶよ」
目減りしているし。しかし言いたいことは他にもあった。
「男になったから、残念ながらもうあなたの求愛を受けることは出来ませんよ。
今まで本当にありがとうございました」
礼儀正しくお辞儀する。
するとグレイは優しく微笑んで私に目線を合わせ、
「ナノ。俺がそんな細かいことを気にする男だと思ったか?」
気にしてほしい。そして気にしないのなら、なぜ笑顔効果を25%も削減した。
「君の愛し方も、少しやり方が変わるだけだ。そうだな。
酒席で聞きかじった程度の知識だが、少し試してみるか」
「え?ちょっと、グレイ、あの……」
そして私は資料室の奥に引きずり込まれたのだった。

…………
「あ、新しい世界を垣間見ました……」
シャツのボタンを直しながら、ほうほうのていで森の道を急いだ。
「で、でも。他の役持ちの人は、性別の壁なんて乗り越えられないですよね」
そういう人から断っていけば、今後の生活が楽になるはずだ。

そして、茂みからお約束の男が現れた。
「やあ、ナノ!何かほんのちょこっとだけ男らしいね。イメチェン?」
ほんのちょこっと!?
「ちょこっとどころか全部です、全部!私は男になりましたから!」
胸をはり、ハートの騎士に向かってふんぞり返る。
するとエースは目を丸くし、
「えー!?君が男になっちゃったの!?……それはさすがにちょっと……」
よし、まず一人脱落!
けど騎士は指をあごにあて、

「だって、男で敬語って、それ、ペーターさんとキャラが被るだろ?」

……っ!!

そ、それは考えていなかった。何というアイデンティティの危機。
「で、でも一人称は私……じゃない。それなら『俺』にしますよ。俺、ナノです!」
「いや、でもそんなにのんびり笑ってて『俺』っていうのもなあ……」
「じゃあペーターの一人称を『俺』に変えていただきますよ」
奴なら必ず変えてくれる!私が男になろうとも!
「いやいや、ペーターさんが『俺』とか言い始めたら、似合わなさすぎて腹筋がおかしくなりそうだ」
そう言ってエースは私の腕をつかむ。
「じゃあ、新しく男になった君に、男社会を教えてあげなきゃな」
「は?ンなもの、必要ないですよ」
「まあまあ。男って言うのは縦社会なんだぜ?俺の機嫌を取ってくれたら、騎士の
従者にくらいしてあげるよ。あはは。俺って部下思いだよな」
「ちょ……何で勝手にあなたの部下確定なんですか!ちょっと、どこへ……」
そして私は茂みの奥に引きずり込まれたのだった。

…………
「つまり男になっても、女だったときみたいに振るまうから舐められるわけですね」
ズボンのベルトを直しながら、私は悔し涙にくれていた。
「もっと男らしくしないと……うーん、一人称はやっぱり俺、ですね」
仕方あるまい。もはや流されなくなった新生ナノを知らしめるためだ。
「お、俺は……ナノです。う、うーん……違和感が……俺、俺……」
ブツブツ言いながら、帽子屋屋敷への道を急ぐ私だった。

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