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■月見団子を誰が貴様にやるか!4

エースは部屋のソファでくつろいで、私を待っていた。
「やあ、ナノ!」
「まさか本当にいるとは思いませんでした……ハートの騎士エース」
「何か改まって呼ばれるとラスボスになった気分なんだけど」
だってラスボスだもの。

私はたどりついたエースの部屋を見回す。不気味な仮面の群れを眺め、
「ええと……大変に個性的で、見ようによっては芸術的なお部屋ですね」
エースはニコニコと私の頭を撫でる。
「はは。いけすかない部屋ですねって素直に言えばいいのに」
「大変にいけすかない部屋ですね」
「あはは。繊細な俺のハートを傷つけないでよ」
「いだだだだっ!」
撫でていたのが、きっつい指圧に変わった。どうしろと。
私の痛がる顔に満足したのか、エースは壁の仮面に目をやると、
「そうだ。確か一度君につけてもらいたいと思った仮面があってさ……」
「いえ、それはいいですから。本題は別ですから」
「だって、君は俺に告白するために来たんだろ?
仮面つけて、黒のレースの上に何も履いてない君って扇情的じゃないか?」
妙な世界に目覚めますがな。というか告白、即、×××てどこの乙女ゲー。
「というか、下着の件は冗談ですから!」
「そう?冗談にしなきゃいいだけだろ?」
誰かさんと似たようなことを言い、エースは仮面の一つを手にとってジリジリと私に
近づいてくる。この世界の連中はどいつもこいつも昼間から何を考えているのかと。
私は慌ててお腰につけた月見団子を差し出し、
「エース!あなたのために作って来たお団子です!食べてください!」
「いいけど、俺、同僚や陛下に日ごろから毒を盛られてるから、耐性ついてるぜ?」
バレてるし。
「それじゃあ用はありません!さようなら!」
しかし背を向けた瞬間に、どう高速移動したのかエースに捕まえられる。
「ははは。君が来るから旅に出たいのを我慢してたんだぜ?」
「うわ、胸を触らないでください!痴漢!変態!」
「誘ったのは君の方だよね、今回ばかりは本当に」
え、ええと……確かに。
「あなたを始末したい一心でした。不覚です」
エースは私を両腕で抱き上げて、ベッドに向かいながら、
「ならなおのことサービスしなきゃ。復讐に来て、敵に捕まって、相手の趣味で仮面
つけさせられて下着が×××ってすごいシチュエーションだろ?」
……うーん、だんだんストーリーが出来てきた。一本撮れそうだなあ。
が、私には最後の手段があった。

「ペーター、こいつを始末してくださいっ!」

そして扉を蹴破り、愛の白ウサギが乱入してきた。

…………
「はー、完全な無駄足でしたねえ」
不思議の国の満月を見ながら、私は段に積んだお団子を頬張る。
これはプレハブに置いておいた、市販の月見団子の残りだ。
冷蔵庫に入れたつもりだったけど、テーブルに置き忘れてたみたい。
そこで月見の開始である。

結局エースの始末は果たせず、手製の団子も、逃げ帰る間に落としてしまった。
「しかも、このお団子も不味いですし……本当に市販なんですかね」
何だか舌にぴりっと刺激が来る。
常温に出してあったから、もしかして傷んだんだろうか。
口直しにずずーっと番茶をすすって胃に流し込む。
「あ、そうだ。ススキも飾らないと」
伝統行事より食い気で忘れていた。
私は椅子から立ち上がろうとし、

「え……あれ?」

身体が上手く動かず、床に崩れ落ちる。
「え……な、何で……」
動けず、ピクピクしながら焦っていると、

「人を呪わば穴二つ、だな。ナノ」
低い声と共にグレイが物陰から姿を現した。

「電話の礼とマフィアのボスに毒を盛ってくれた礼、一度に返させてもらおうか」
いつも以上に冷気をまとうブラッドが扉を開けて入ってくる。
手には手錠と鎖と首輪と、なんかヤバそうな謎のブツ。

「ナノ……俺、ナノと一緒に遊びたかっただけなのに……」
おどおどしながら、窓から転がり込むピアス。

「子猫がチェシャ猫様をだますもんじゃないって、教えてあげなきゃね」
どこからか扉が出現し、ボリスが扉を開けてやってきた。

「ハートの騎士に手をかけようとした罪、つぐなってくれなきゃね」
エースがいつの間にか私の傍らに膝をつき、首に剣をつきつけていた。

「あ……あはははは」
敗北を悟った私は、それでも笑顔で、
「み、皆でお月見しませんか?」
「うん、月見しながら皆で君を食べることにしたよ」
そう言ってエースは剣をしまい、どこからか取り出したのは、あの仮面と……

「……あの、私が自分の容姿を450%ほど過大評価していたとしても……その、
キャットガーターの黒レースビスチェはちょっと無理があるのでは……」

オマケにデンジャラスなスパイダー柄。誰の趣味なのか本気で問いつめたい。
私の顔と身体で、こんなきわどいの、大丈夫かな。ギャグにならないですかね。
――……て、その気になってる場合ですか!!
しかし逃げるすべなど、どこにもないのである。
「大丈夫大丈夫、絶対似合うって、着てみなよ」
「騎士さん騎士さん、ナノは動けないだろ。俺たちが着せてあげないと」
チェシャ猫が嬉しそうに言って、動けない私の服に手をかける。
私は敗北とこれから起こることへの屈辱に唇を噛みながら、
「エース……私を陥れた恨みはいつか必ず……」
しかしブラッドは私の首に首輪をつけながら、しごく冷静に、
「お嬢さん、分かってはいると思うが、今回のことは……完全に君の逆恨みだ」
やかましい。

そして美しい月夜に見守られ、美味しくいただかれた私なのでした。

あと、すぐ脱がすから無意味と思っていたけど、つけてみると意外にも(以下略)。
雰囲気って大事ですねー。

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