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■月見団子を誰が貴様にやるか!3

「るったるったるんるん♪」
寒い歌を歌いながら森をスキップする。
これから毒物を持って積年の恨みを晴らしに行くかと思うと、嬉しさで足も弾む。
「あ、ナノー!」
「ピアス、こんにちは!」
森から現れたネズミさんにニコニコ手を振り、後ろにスキップする。
ピアスはさっそくノコギリを抜きながら、
「すごいね、ナノ。後ろにスキップできる獲物って初めて見たよ」
「脅威を前に、私の潜在能力がついに覚醒したというところでしょう」
こんな地味な覚醒はいらなかった。
しかし最大の恐怖はじりじりと迫りつつある。
「ナノ、俺のおうちに来て、俺と遊んでよ」
「前向きに検討します」
「ナノ……難しい言葉使わないでよ。ね、一緒に遊ぼう?」
「訴状が届いていませんのでコメント出来ません」
訴状って何だろうとセルフツッコミ。
「うう〜ナノは可愛いのに意地悪だよ。やっぱり逃げる方法を奪って連れてく
しかないのかなあ……」
ノコギリノコギリ。このままだと××展開一直線だ。
でも、その前にピアスの目が私のお団子袋をとらえる。
「あれ?チーズじゃないけど、すごくいい匂いと、危ない匂いがする……」
もちろん私は満面の笑顔で応えた。
「すっっごく美味しいお団子なんですよ。遊ぶ前にお一ついかがですか?」

…………
「るったるったるんるん♪」
明るい森の小道をスキップして歩く。
後に残してきたものは知らない。まあ時計を止めるほどの毒性はないと証明されてる
から大丈夫だろう、多分。
「ナノ、ご機嫌だね」
「あ、ボリス」
今度は普通の笑顔で手を振る。
チェシャ猫のボリスが木の枝でくつろいでいた。
そして優雅に一回転して私の前に華麗に着地。私に笑顔を見せ、
「何かいいことあったの?ね、俺にも教えてよ」
「えへへ。役持ちを三人ほど始末出来たので嬉しくて」
「そう。よく分からないけど良かったね」
「良かったんですよー!」
ボリスは猫らしく流すことにしたようだ。
そして馴れ馴れしく私の肩に手を回し、ふわりと尻尾で私の身体を撫でる。
「それじゃ、行こうか」
「どこへです?」
「うーん、どこでもいいけど?俺の部屋でもいいし、高級ホテルでもいい。何だったら、ここでも……」
「何の話をしてますか?」
そう言うと、ボリスはニヤッと笑って私の顎を指で持ち上げ、そのままキスをした。
「ん……」
さんざんこちらの舌で遊んでからボリスは顔を離す。絡む唾液をぬぐいながら、
「分からない?」
「分かりたくないです。それに私はハートの城に用事があるんですよ」
「ここからじゃ遠いし、森の中で夜の時間帯に変わったら危ないよ?
終わったら、ドアで俺が送っていってあげるからさ。ちょっといいだろ?」
『終わったら』って何が。
でもボリスは私の腰を抱いたまま離そうとしない、
「ナノ、賢いチェシャ猫から逃げられるとか、思ってないよね?」
「ええと……あの、そうだ、ボリス。お団子を食べません?」
「唐突だね、怪しいから食べたくないなあ……」
「私の手作りなんですよ?」
「遠慮いたします」
なぜ敬語になる。
「危険なものじゃないですよ。ほら、私も一個食べますから」
一つつまんで口に入れる。
確率が二分の一だけに、本当はドッキドキだった。
しかし数十秒経っても何も異変は感じない。
間違い無く、これは市販の方だ。
「うん、美味しいですね。すっごく美味しい!」
勝ったっ!!
「そ、そう良かったね。じゃあ、俺の部屋にでも……」
でもボリスはだんだん食欲が刺激されてきたのか、欲しそうにお団子を見ている。
「ボリス、私の手作りを断るなんてひどいですよ。こんなに美味しいのに」
「ご、ごめんね。でもさ、あんたの作るものって、いつも……」
「はい、あーん」
ボリスは食欲と警戒の入り交じった顔で、
「ほ、本当に大丈夫なんだろうね」
「食べて、早くお部屋に行きましょうよ!」
ボリスは尻尾を若干左右に揺らしながら口を恐る恐る開ける。

…………
「るったるったるんるん♪」
ボリスの怨嗟の声が聞こえなくなった頃、ハートの城が見えてきた。
敵の根城まであとわずか!

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