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■月見団子を誰が貴様にやるか!2

お腰に月見団子の袋をさげ、私は街角をぶらぶらと歩く。
「とりあえず、エースを探しませんと……」
だが、と私は周囲を見る。
狭いようで広大な不思議の国。
迷子騎士は、会いたいときに限って会えない。
「うーむ、とりあえず居場所の目星くらいはつけたいものですね」
私はて、て、て、と、ある方角に歩き出した。

…………
「ブラッド!電話を借りますよ!」
「…………」
バタンと扉を開けるなり言い放った私に、さしものブラッドも一瞬、返答が浮かばなかったらしい。
私は構わずズカズカとブラッドの書斎に入り込み、19世紀だか20世紀初頭モノだか
分からない、レトロなレトロな電話を手に取る。
電話あり、映画あり、写真あり、コタツあり、ゴーカートあり。
不思議の国は、別の意味でも不思議の国です。
「お、お嬢さん。我が屋敷に君から来てくれたのは嬉しいが、いったい……」
わきからブラッドがごちゃごちゃ言ってくる。
「貴様は黙っていてください!」
ピシャリと遮ると、ブラッドは勢いに押されたのか素直に沈黙した。
……え?貴様って元々『あなた様』って意味なんですよ?
そして私はいないだろうと思いつつ、騎士の番号を回す。
しばらく呼び出し音が鳴り、何と相手が受話器を取る音がした。
『はい、もしもし。エースです』
「え……」
自分で言うのもアレだけど、本気で驚愕した。
まさか自室にいるとは思わなかった。
さらに電話に出るとは思わなかった。
電話に出て普通に応答するとは思わなかった。
『もしもーし、いたずら電話?あははは』
最後に謎の笑いを加え、問いかけてくる。私は、
「あ……いえいえ、私です、ナノです」
『え?ナノ?いきなりどうしたの?』
まあいることは分かった。それだけ分かればいい。
「あのですね、あなたに重大なご用件があるんです。ですから部屋にいてください」
『あはは。俺に告白するつもり?下着の色を教えてくれるなら、告白してもいいぜ』
どういう態度のでかさだ。私はヤケ気味に叫ぶ。

「上は黒のレース、下は履いてません!」

空気が凍った。気がした。

そして騎士は爽やかに即答する。
『うん!いいぜ。君に会って直接確かめないといけないからね。部屋で待ってる』
……卑猥騎士め。
しかし、これで騎士はハートの城にとどまるはず。
私は電話を切ると、ブラッドに頭を下げる。
「ありがとうございます、ブラッド。このお礼はいつか必ず!……う……」
きびすを返そうとしたけれど、マフィアのボスの方が早かった。
気がつくと私はブラッドの腕に絡め取られ、抱き寄せられていた。
「いつかと言わず今お礼をしてほしいものだ。
騎士に言った言葉の真偽、私も激しく興味があるのだが。
下をはしたなく晒し、黒をまとう君に官能的な誘いを受けたいものだ」
高尚ぶろうとしても、欲望が透過率99.99999%で透けているのですが。
「いえ、あれは純粋に冗談ですから。黒のレースなんて似合うわけないでしょう」
しかしブラッドの目は真剣だった。本当に真剣だった。
「いいや似合うとも。君に黒のレースをプレゼントしよう。ぜひ身につけてほしい」
上だけかな。下は履かせないつもりかな、やっぱり。
「それにですね、すぐに脱がすなら意味がないかと……」
「いいや、意味があるとも。つけてみれば分かることだ」
まずい。実現させられそうな気がする。額に冷たい汗が浮いてきた。
抱きしめる力が強くなり、ブラッドの手が腰のあたりを這い回……
「……?これは何だ?」
お団子の袋に触れたらしい。好奇心の方が勝ったのか、私から手を離し、袋の中を
見て不思議そうな顔をする。私はさりげなく、
「月見団子です。好きな人にあげるので、ブラッドは絶対に食べないで下さいね」

中略。

「あー……当たりを引いちゃいましたか」
私はゴソゴソと倒れたブラッドの腕から抜け出た。
そして動けずに歯がみするブラッドを優越感をもって見下ろし、
「ていっ」
とりあえず日ごろの恨みをこめ、一発ポカリと叩く。
「お……お嬢さん……」
私は邪悪な笑みを浮かべ、ブラッドをはやす。
「完全大勝利!私、最強!これに懲りたら、もう私に逆らわないことですね!」
「…………手錠と、首輪と、鎖と、媚薬と、×××××と……」
何やら不穏なことをブツブツ呟き出すブラッドを尻目に、さっさと部屋を出た。

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